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第11話 クラッシックな戦い方


国連軍司令部


桐島中将の執務室


「流石ね…よくやったわ!。でも本当に良かったの?」


大怪獣を倒した後。勇輝は事後処理を済ませて国連軍の司令部へと報告に来ていた。中将さんは大怪獣撃破の功績を称えてくれたが、勇輝の心は晴れない。


「良かったも何も…あんな勝ち方なんて大手を振って報酬なんて貰えないですよ。」


そもそも俺の手柄と言うよりかは主砲の持ち主である戦艦アイオワ、戦艦大和、戦艦キングジョージV、戦艦リシュリューの手柄と言えよう。地球上ではもう戦艦の主砲は作れないと言うし、あの戦艦主砲が無ければ大怪獣を一撃必殺で倒せ無かったと思うので彼女等には感謝だ。

 その上で今回の戦い方は少し…かなりの卑劣な手段だったと思う。


 勇輝が武器を召喚して戦うのに比べて他のレンジャーはと言うと炎や氷で怪獣相手に真っ向勝負を挑むような戦い方をしている。


 この戦う様は物凄く“英雄的”で見る者を魅了させ戦場の士気を高めるとともに多くの怪獣や宇宙人からの攻撃で疲弊してしまい、このまま世界が終わってしまうのではないかと絶望していた世界中の人々を奮い立たせたと言う。


 レンジャーとは英雄で無くてはならなかった。大怪獣相手に真っ向勝負を挑み、苦戦しつつも勝利して希望を勝ち取るのがレンジャーの戦闘スタイルの“教科書”だった。


 なので、今回のような卑劣な奇襲を仕掛けて弱点に痛撃を加えて、と言うような戦い方はその教科書からは逸脱している…と勇輝は思った。


 なので彼は今回あらゆる賞賛を辞退し、戦いに参加したことにはなっているが怪獣を倒したのは軍隊。と言うことにしてしまった。


これを、これから先も続くだろう戦争の中で必ず悪影響を与えると判断した桐島中将は彼の考えを覆すべく話を始める。




「…自分の超能力は嫌い?」


「好きじゃ無いですね。これは戦争なので敵を倒せれればそれでいいと割り切ってはいますが、如何せんヒーローらしく戦えないのが嫌いですね。」


基本的に武器の召喚はとある存在と交わした約束によって行使出来る“制限付き”の物であり、またその武器も勇輝自身の物では無い。例えば今回使った「MK7 16インチ三連装砲」は戦艦アイオワから借りた物になる。この力は考えようによっては「借り物の力」とも考えられた。

 この時点で多少、他の超能力に対して劣等感は存在していた。


 そして召喚出来る物は“兵器”となる点も問題はあった。この前地球の兵器に比べて大変に強力な軍艦が1隻戦列に加わったとは言え、その力の殆どが地球で開発された軍艦譲りの兵器になっている。

 

 戦艦の主砲は確かに強力だが怪獣クラスのブレスを相殺出来る程の威力を持つビームを撃てる超能力や、数百万度の熱量に達する火球で攻撃出来る超能力に比べると戦力は劣った。


 劣る戦力で戦いを挑めば必然的に足りない分を「戦略」に頼る事になる。結果的に戦い方は見る人が見れば卑劣な物になり、ヒーローらしい「派手な勝利」は望めない。


 その上で“兵器”では“守ることが出来ない”と言うレンジャーとしては致命的な弱点を持っていた。守る手段として光の壁は確かに分厚く頑丈だが、流石に怪獣のブレスを受け止めたりは出来ない。


「ヒーローらしく…ね。勇輝君の求めるヒーロー像については大体分かるわ。」

 実際、上部組織たる国際連合や各国の政府もレンジャーによるド派手な勝利を望んでいる節はある。今の日本もそれは同じ


「所で、“ヒーロー”が初めて現れたのは何時だか分かる?」

 

 ヒーローが初めて…レンジャー部隊が結成されたのは10年前だった筈だ。

「10年前のロサンゼルスの戦いからですか?」


「違う。」


「違う?」


「違うわ。18年前のサイパン島迎撃作戦からよ。」

 サイパン島の戦いは初めて出現した大怪獣、海獣シェルドラゴンを迎え撃った戦いだ。


戦いの結果は人類側の勝利。当時の多国籍軍太平洋艦隊は巧妙な作戦を練って挑み、大津波を巻き起こすという強い超能力を誇るシェルドラゴンを迎撃して見事撃破し、南太平洋の島々を死守した。


 この一連の戦いは第二次太平洋戦争の転換点になった戦いでもある。これ以降艦隊は攻勢を仕掛けて海獣を撃滅して行き、約一年の間に海獣の巣窟になっていた太平洋を解放するに至った。


 しかし…この戦いはレンジャー部隊が結成される前の事。


「サイパン島の戦いにはレンジャー部隊が参加したんですか?」


「そうじゃないの。戦いに参加した兵力は傷だらけの艦隊だけ。兵器も今みたいな新兵器も無かった…それでも人類はここの戦いで大怪獣を葬った。」 

 サイパン島の勝利は、初めて人類が大怪獣を撃破した記録的な勝利だった。


「この戦争でのヒーローは彼らのような人たちよ。…あなたは戦う力はある?」


「…あります」


「例えそれがどんな物でも、戦う力があって、守る意思があって、そして行動し勝利を掴んだ物は皆がヒーロー…私はそう理解しているわ。」


それは昔ながらの英雄。魔法のような力はなくても戦場で祖国を守る為に戦う勇者たちに送られる称号。

 彼らの武器は科学と技術そして戦術。彼らを支えるのは強い意思と使命…


「あなたもレンジャーの一人にして英雄の一人よ。ヒーローに戦い方は関係無いわ。敵を倒して味方を守ったんだから、ちゃんと誇りなさい。」


超能力とはいえどもその力は武器や兵器に限り足りない分は戦略や戦術で補う勇輝は最もクラッシックな戦い方をするヒーローと言えた。


「誇り…」

怪獣を、怪人を倒す使命はある。しかし誇りは…あるのかわからない。


「あぁ、そう言えば…あなた宛にファンレターが届いていたわ。今日はもう良いから、帰ってゆっくり読んで見なさい。」


中将さんは唐突に話題を切り替えると勇輝に数10通はある手紙をまとめて渡した。



「ファンレター!?俺にですか?」


「勇輝君は戦い方がヒーローらしくない、って言ったけど、世間一般の評価は違うみたいよ?」


「!…」



その後寮に戻って手紙を読むと、それらは本当にファンレターだった。…子供が書いたと思われる物から大人が書いただろう物まであり、そのどれも感謝の言葉が記されていた。



「…俺は……」


俺には何の力も無い。武器といえばちっぽけな剣と、薄い盾だけ。


だからこそ…それでも守りたい物を守る為には、戦い方や超能力の内容について悩むような余裕は無い。


勇輝は一つの答えにたどり着き、そしてもう悩みは無かった。

 




………


……


この世界の何処かにて



「ご苦労。報酬はこれだ。」

全身を黒い霧のような物に包まれた何かは、その霧の中から数枚の紙切れを取りだして、対面するバイザーの男…商人に渡した。


「確かに。」


「サンプルが採れて助かったよ。これで兵器の研究が進む」

 

 この世界では、怪獣兵器は余所の星を侵略する手段としては手頃な物として流通している。


 怪獣はその星の文明が宇宙戦艦を多数建造して宇宙開拓を行うような力を保有する惑星に現れれば問題なく撃破出来るだろう。

 実際、現実世界に太古の昔に滅んだモンスターたる恐竜が現れたとて銃も大砲もミサイルもある現代ならばさしたる問題にはならず撃破出来る。

 しかし、例えば隕石が墜落するずっと前の地球のような剣盾斧槍くらいしか武器は無く、兵器も大砲やバリスタくらいしか無いような文明の前に怪獣が現れたとしたら…。このような惑星を侵略するのに怪獣兵器は最適と言えた。


 地球の怪獣はある理由から突然誕生した物で正当に進化を続けて怪獣になった生物ではないということもあり研究を続ければ兵器としての怪獣をさらに強化する事も期待出来た。


彼らが行おうとしているのはより強力な怪獣兵器の開発だった。

 そして完成した怪獣兵器はこれから侵略宇宙人の手先として数多の惑星を破壊して回るだろう。一体どれ程の命が失われるのだろうか…何億種もの動植物が絶滅し、対抗手段を持たないいくつもの文明が滅び何億人もの人々が犠牲になるというのだろうか…

 しかし、そんなことは二人にとっては何ら問題ではなかった。彼らは地球を狙う侵略者ではないがその代わりに余所の星がどうなろうと…例えば自分たちが開発し、売った商品が何をしようとそれらのことは一切興味が無かった。


「それは良かった。」


「ただの石ころだが金のなる木には変わりないな。またよろしく頼む」


「報酬さえ頂ければいつでも。」


引き渡された物品は大怪獣ダイヤモンスの心臓…“コアストーン”と呼ばれる石ころと、後は各種部位のサンプルだけだった。これらは回収するに当たって巧妙に偽装されており、除染と処理を担当した国防軍や派遣された学者たちにもバレる事無くこっそりと運び出された。

 

 逆に言えば重量、質量ともにこっそりと回収してもわからないほど僅かな量でしか無いのだが、これの及ぼす影響は計り知れない。

 当然ながらこれらの事実の全て…取引が行われた事も、そもそもダイヤモンスが復活した根本的な原因が意図的に用意された物だということも、地球側は知るよしも無かった。

 

 …彼らが兵器として建造された怪獣に出会うのはしばらく先の事だった。



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