第一話 初陣
初投稿になります。
世界中を天変地異が襲ったのは20年前のこと。
各地で巨大怪獣が出現、宇宙から侵略者の襲撃、恐ろしい生物兵器を保有するテロリストの台頭・・・
世界はお互いの生存を掛けた戦争に包まれた。
・・・
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東京 国連軍司令部
現在の東京は怪獣の攻撃で一度更地に代わり、その後屈強な要塞都市へと再建された。南は多摩川、北と東は荒川、そして調布から朝霞までぐるりと囲った範囲を絶対防衛圏と定めて内部を要塞化して多数の火砲で護り、日本一安全な町を造っている。
この絶対防衛圏、東京要塞の中に国連軍極東方面司令部はある。
そんな司令部の一室に、一人の将校と少年が相対していた。
「これから宜しくね。」
「よろしくお願いします、中将さん。」
俺の名前は城ヶ根 勇輝。訳あって国連軍の精鋭部隊で、怪獣退治をすることになった高校一年生の男子だ。
今日から俺も「レンジャー」・・・国連軍の対怪獣対策部隊の一人になるのか・・・
中将さんから端末を渡される。レンジャーに支給される専用のデバイスで様々な機能がついた優れ物だ。これを持つと本当に「レンジャー」になったのかと実感が湧く
「任務はその端末に送るわ。普段は普通に高校生活を送りなさい、学校をサボったらダメよ。」
「サボるわけが無いじゃ無いですかぁ!やだなあ」
そう。いくら怪獣退治の専門家になっても俺はしがない高校生でしかない。
「・・・あらそう?整備課の人たちに学校に行きたくないと愚痴ってたのを聞いたのは空耳だったかしら?」
「何で知ってるんですか・・・分かりましたよ。ちゃんと勉強しますからそう怒らないで下さい。」
学校は結構紆余曲折の果てに決まった形だ。
まあ決まってしまった以上は通うしかないので、入学から1カ月がたった今も普通に通学しているのだけど、やはり行きたくないものは行きたくない
「勉強も大事だけど、友情と恋愛も確り、ってそんな苦虫をかみつぶしたような顔をしない!」
「はぁ・・・善処しますよ。」
そう簡単には上手くいかないだろうが。所詮俺は・・・ってダメだな。こんな思考だと上手く行くものも失敗しちまう。
何がともあれこれからは「レンジャー」。こういうネガティブ思考は極力封じ込めるべきだろう。
俺はいくつか決意すると、中将さんともう一言二言話した後司令部を後にした。
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・・・
東京要塞 南側
月曜日の朝。
鉄道は無くなったが、代わりにリニアが張り巡らされていて東京の通勤ラッシュは嘗てと変わらない。
要塞都市の南側は居住区画になっていて、俺が通っている高校もこの付近にある。要塞都市は地上に3階層、地下にも3階層シェルターを備えていて、この分厚い装甲板で護られた中に学校もある。
海側から見るとこのシェルターの階層が一段づつ丘のように重なって行くのが見えるのだが、品川の駅から学校へ行こうとするとこの丘を歩いて登って行くことになる。
同じく登校中の生徒に混じって歩いて行く。生憎一緒に通学する友達は居ないので、一人での通学だ。
まあ最も、所詮俺は危険な「能力もち」なので友達になってくれる奴はいないだろうが。
高校は元々女子校だった影響で(一年前に共学化)男子が極端に少ない。少ない男子の中には非行に走るDQNもおらず、多数を占める女子はそもそも男子に関わったりしないため、友達が居ない代わりに「魔女狩り」扱いを受ける事も無いから良いんだけど…
ああ、ダメだな。また思考がネガティブになってきた。一人で考えているとどうもネガティブ方面に引っ張られるから困るよ全く。
ドカァァァァァァンンン!!!!
何だ?
駅の方から突然何か爆発するような音が聞こえた。
振り返ると黒煙と炎が立ち上っている。
・・・行くか。
・・・
品川駅前 数分前
東京要塞でテロを起こすのは可能か否かと言われれば、一応は不可能になる。
屈強な国防軍と、その傘下に置かれた「警備隊」によって徹底的な検疫が行われるため、この国に銃弾の一発すら持ち込むことは困難だろう。
武器が無いためテロは不可能になる。
但し、例外がある。
それが「生物兵器」と言う手段だ。この兵器は別名「怪人」と呼ばれ、人間が錠剤を一粒飲むだけで身長が3m近くに変化し、筋力が5倍に、そして何らかの超能力を授けるというものだ。この手段は元が錠剤一粒で済むため検疫をくぐり抜けて要塞に持ち込むことも容易く、そして一度怪人になってしまっては二度と元に戻れないことと兵器として寿命が短く使い切りになるのが難点だが、如何せん強力なので完全な自爆テロとして用いられている。これを使えば東京要塞でテロを起こすことも可能だろう
さて、品川の駅前にはトラックが一台停車していた。
荷台がアルミの箱になっていて中身は分からないが、恐らくは近くの商店へ品物を搬入する業者だろう。これはよくあることで朝方のこの時間は近くのデパートやコンビニに荷物を降ろすため多くのトラックが駅の付近に止まっていた。
故に、この光景には誰一人として疑問に思う事も無かった。
実はこのトラックにはとある「恐ろしいもの」が積まれていたのだが・・・
8:00
突然、トラックの荷台が歪んだ。
そして爆発を起こして荷台が吹き飛ばされる。
爆発の煙が晴れると・・・
「オオオオオ・・・」
そこには、人型の、それでも絶対に人では無い「怪人」が立っていた。
「に、逃げろーっ!」
「怪人だぁーっ!」
怪人を見た人々は一目散に逃げ出した。怪人は怪獣や侵略宇宙人の操るロボットや宇宙怪獣に比べれば安価な代わりに弱い敵だ。だがそれでも強力な超能力で武装して力も守りも人に勝る怪人は民間人にとっては驚異だ。人の手で抗いがたい恐怖。それが怪人だ。
多くの人が逃げてゆき、駅前はパニック状態に陥った。
「オオオオオ!!!」
怪人がうなり声を上げて両腕を勢いよく地面に振り下ろした。
!!!!!!!
凄まじい地響きが轟き、怪人の周囲がクレーターのようにへこんだ。そして震動が付近の様々な物を滅茶苦茶に破壊した。
この攻撃でビルが幾つもの倒壊して瓦礫が地面に降り注ぐ。同時に電線がショートしてあちこちで火災が発生した。
「た、助けてくれーっ!」
「逃げろ!逃げろーっ!!!」
そこにいた全員が逃げるが・・・
「オオオオオ!!!ッ!」
またしても怪人が雄叫びを上げて腕を構える。そして正拳突きの要領で何も無い空間を殴った。
するとどうだろうか、衝撃波が放たれてその先にあったビルに命中!
ビルは崩れ去り、巨大なコンクリートの瓦礫やガラスのかけらや鉄骨やらが凶器となって逃げ惑う人々に降り注ぐ。
「きゃああああ!!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
駅前は一瞬で戦場になってしまった。怪人がただただ暴れる地獄のような光景だ。
「フハハ!フハハハハハ!!!!」
怪人は笑い声を上げ、我武者羅に破壊を振りまきながら、道路を要塞都市中央へ向けて歩き出した。
「・・・?」
不意に、怪人が止まる。
「キサマ・・・ノウリョクモチダナ」
怪人が見る先には、一人の少年が立っていた。見るからに普通の高校生だが・・・
「なぜそう思うんだい?それに何故しゃべれるんだよ。」
「フハハ!オレニハワカルンダヨ。キサマハ“ヒーロー”ダナ?」
ヒーロー・・・悪役“ヴィラン”の対義語として、テロリストや侵略宇宙人などはレンジャーの事をそう呼ぶ。
「そうだよ。で、怪人さん。君は何故しゃべれるんだ?見たところ飲んだ薬が普通では無いようだけど。」
怪人が意思を持っていることは非常に少ないという。理由は薬の影響で頭がおかしくなるためだとか。
それにこの怪人の強さは尋常では無い。普通、軍事訓練を受けたテロリストが薬を飲んだとしてもあれ程・・・例えば範囲攻撃や遠距離攻撃が可能な、強力な超能力を授かる事は無い。
故に、この怪人は現在裏社会で流通する一般的な「覚醒剤」・・・人を人成らざる物に変える悪魔の薬とは違う物を飲んだと思われる。
「ソノトオリダ。コノクスリハトクベツナクスリダ。タトエヒーローダロウトモ、オレハコロセナイ!」
「そうかい。じゃあ戦ってみようか。・・・変身」
制服姿だった少年の装いが、パワードスーツに変わった。
「イクゾ!!!」
!!!!
怪人が拳を構える!
そして腕に先ほどの衝撃波のような何かを纏わせて少年に殴りかかった!
ガキイイイイイイインンン!!!!
しかし衝撃は何かに打ち消された。金属と金属のぶつかり合うような鋭い音を立てて。
「・・・?」
「舐めて貰っちゃ困るよ怪人さん。戦艦の装甲だよ?人間の拳で穴が空くわけがないよ」
少年…勇輝の正面に、光り輝くガラスのような壁が現れていた。
この壁によって衝撃は打ち消されてしまったのだ。
「ッ!オオオオオ!!!」
ガキイイイイイイインンン!!!!
怪人は再び壁を破らんと殴りかかるも、今度も鋭い音が響いただけで壁には傷一つつかない。
ガコオオオオオオンンンンン!!!
ガキイイイイイイインンン!!!!
何度も殴る。しかし壁は割れない。
「それと…不用意に敵に接近するのは愚策だね。主砲!撃ち方用意!」
突然、怪人の目の前に今度は壁と同じような光り輝くガラスの筒が現れた。
「!?」
驚きに目を見張る怪人
「fire!」
号令とともに、筒が火を噴いた。
ドオォォォォォン!!!!
この筒を「Mk45 5インチ砲」と言う。本来は軍艦に搭載される「艦砲」だ。大和型戦艦の46センチ砲やアイオワ級戦艦の16インチ砲に比べると「小口径砲」だが、いくら怪人化して防御力が人肌のそれよりも強化されているとはいえ、人体でしかない怪人が食らってタダですむ訳がなかった。
僅か5メートルの至近距離から放たれた5インチ徹甲弾は避ける間もなく怪人の胸部に命中。そのまま炸裂することなく貫通し、衝撃が怪人を胸から上と下で真っ二つに引き裂いた。
砲弾は数瞬跡に背後のビルに命中して砂煙が上がる。
怪人が崩れ去った。
勇輝は怪人が崩れ去るのを確認して呟く。
「終わりか…やっぱり大砲は強いな」
俺は初勝利のうれしさよりも余りのあっけなさに驚きつつ、光の壁と大砲をしまった。
「・・・学校行くか。」
その前に報告はしておくか。成り行きで怪人倒しました。とでも
俺は中将さんに端末から電話を掛けてから学校へと歩き出した。今は丁度2時間目の授業中だろう。
ちなみに中将さんは「学校が終わったら必ず!司令部へ来なさい」
と怒っていた。
その後「町中で勝手に戦闘したことについて」反省文を書くことになったのは言うまでも無い。
主人公、城ヶ根勇輝の超能力は「武装召喚」です。
拳銃から大砲、果ては核ミサイルまで召喚出来ますが実在しない武器は召喚出来ません。
大砲と同じく装甲も召喚可能です。