近所のヴァンパイア
雨の日、わたしは学校帰りいつもと違う道を通ってみる事にした。
別に雨の日だから近道と言う訳でも無く、ただそう言う気分になったのだ。むしろ遠回りになるだろう。
いつもと違う街並み、いつもと違う風景、なにか新鮮な感じがした。
何もこんな雨の日を選ばんでも・・・・と言う人は言うが、雨の日は雨の日で見方は変わる。
わたしの名は武藤天夜十四歳。中学二年生。不思議大好き人間なのだ。
次第に街から離れ、気付いたら横に大きなボロボロの洋館が建っていた。
「あれが、噂の吸血鬼の屋敷か・・・・。」
・・・・・・・ここの洋館の持主は一応この町って事になってるけど昔は吸血鬼が住んでたって言う噂。
本当に吸血鬼なんていたら今頃、日本中いや世界各国の学者が調査にどぉっと押し寄せて来る事だろう。でもわたしはそう言う夢がある噂は嫌いじゃない。
わたしは洋館の側まで近付き外の窓からこっそりと部屋の中を覗き込んだ。
古びたソファーに煉瓦造りの四角い暖炉。
・・・・・・流石洋館ね。暖炉なんて初めて見たかも・・・・・
ちょっと珍しい物を見て嬉しくなったわたしは今度は隣の部屋へと移り窓越しから中をそっと覗くと、家具よりも先に視線は一つの物を捕らえた。
「人?」
暗くてあまりよく見えないがわたしにはどうも、ボロボロのベッドの下横にいる黒い物が人の形に見えた。
・・・・・・あれ・・・・人よね?・・・・・・
わたしは近くに民家が無いか見渡すが、何処にもそんな物は無い。
雨の日と言う事もあり人の通る気配も無い。
・・・・・・取りあえず見なかった事にして、放置して帰るか・・・・・・・
今見たのは人形が落ちていたと言う事に無理やり自分の心に言い聞かせ、わたしは帰る為に歩き出そうとした。
がたんっ!
何にぶつかったのかは分からないが、黒っぽい物が突然少し動いて手らしい物が見えた。
・・・・・・・・・うっわ゛っ・・やっぱ人だわ・・・・・・・・・・
等と突っ込みを脳内で入れつつ冷静に整理し始めた。
ここは町が管理している無人のはずの洋館。なのにベッドの下に人・・・。
つまり・・・忍び込んで何かの拍子に事故り動けないでいる。誰かに誘われてここに入り撲殺?事件が起こった。もしくは・・・噂通り吸血鬼が住んでて血吸われてしまい倒れている・・・・か・・・・。
わたしは首を横にブンブンと振った。
・・・・・・吸血鬼なんてあり得ない。そんな奴いたら世界の注目の的よね・・・・・。
つまり・・・・・
こんこんこんっ。
わたしは物凄い勇気を出して窓を叩いてみた。
「大丈夫ですか?
どうしたんですか?」
するとその声に驚いたのかゆっくりと寝ていた体を起こし上げ、それは警戒しながらこっちを見た。
年の頃なら二十歳前後。髪の色は金髪でボサボサ。着ている服は、しいて言えば西洋系。近所で着ていたらコスプレか何かと間違えられるだろう。
・・・・・・・外人!?・・・・・・・
男の顔はやつれ、今にも死にそうな雰囲気だった。
「・・・・・・・」
それを見て色々と思い浮かんだ。
「・・・・・・・まさか、この不景気だから外国人労働者が真っ先に首になったせいで行くあても無く、誰もいないこの洋館で餓死を選んだって事?・・・・・・・・・・」
「帰れ・・・・・・」
弱々しくそう言う男。
・・・・・・帰れ・・・・って・・・・・言われても・・・・・・ほっとけないし・・・・・。
「それとも何か病気?」
窓ガラスに顔を押し付け男の様子を見ようとするわたし。
「良いから帰れ。
オレなんかほっといてくれ。」
やはり弱い声でそう言い放つ。
「嫌だ。目の前に死にそうな顔している人がいるのにほっといて帰れないし。
とにかくこの窓、開けてよね。」
「頼むからそっとしといてくれ。
オレは生きていてはいけないんだ。」
男は立ち上がりよろよろと部屋から出て行った。
「誰がそう言ったのよ?まだ見込みはあるわよ。人生山あり谷ありよ。ここでめげてちゃ頑張ってる人に失礼でしょ?
・・・・・・って・・・・・行っちゃったか・・・・」
・・・・・・全然入れる気無いみたいね・・・・・・
そしてわたしは洋館の窓と入口全てを確認し入れる所が無いかチェックした。
「無いし・・・・・。全部鍵掛かってるし・・・・・」
仕方が無いのでわたしは側にあるボロボロの花壇の一部の煉瓦を一つ手に取り窓ガラス目掛けてそれを投げ付けた。
がしゃぁぁぁんっ!!!
窓は凄い音を立てて木っ端微塵に砕け散った。
・・・・・・・ごめんなさいごめんなさい。町長さんやここ管理してる方ごめんなさい。人助けと思って許して下さい・・・・・・
わたしは窓から中へと入り込み男の行方を捜索し始めた。
夕方で雨降りの洋館って不気味・・・・・・。
筆箱に入れていたペン型懐中電灯で辺りを照らし男の行方を捜索した。
あんな体ではあまり遠くへは行けないはず。つまりこの近くにいる。
わたしは長い廊下へと出て近辺の部屋を取りあえず全部開けて中を確かめて見る事にした。
吸血鬼・・・・・本当になんかそっち系の生き物でも出て来そうな雰囲気を漂わせる建物。
「お~い。お兄さん。何処いるか返事して!」
かたっ!
「!?」
隣の部屋から物音がし、慌ててそちらに足を運んだ。
そこには明らかにさっきの人とは違う一人の長い金髪青年がこっちを見て立っていた。
「お客さんとは珍しいね。」
男は笑みを浮かべこっちへとやって来た。
・・・・・・お客って・・・・・・
「あの・・・・ここの家は町の所有物なんだけど・・・・・。まるであなたがここの家の持主みたいな言い方ね。」
わたしは接近する男から二、三歩後ず去る。
「僕は別にこの町にこの家を明け渡した覚えは無いよ。
勝手に向こうがやっているだけだよ。
余程ここの家を取り壊したいんだろう。
昔から嫌な噂があるからね。」
言って男は笑みを浮かべた。
・・・・・・噂?・・・・・・・・
「使用人が全員倒れて運ばれたとか、コウモリを大量に飼っている・・・・・とか。」
・・・・・この人の顔、笑ってるけど冷たい・・・・・
「さっき窓ガラス割って入って来たよね。」
言って男はわたしの手を指さした。
・・・・・血?・・・・・・
気付かなかった。さっきのガラスで指少し切ってたんだ・・・・・・
「いけない子だ。
キチンと弁償してもらわないとね。」
男はわたしの腕を掴み出ている血を舐めた。
「わぁぁぁっ!!!
何してんの?弁償ならするから。どの位するのよ?
言っとくけどお小遣いわたし少ないから少し待ってもらわなきゃいけないけど良い?」
すると男はわたしの首元を触り・・・・・顔を近づけた。
慌てて男から離れるわたし。
「だからセクハラするな!
そんな余裕あるなら蛾死しかかっている人の面倒見なさい!
顔似てるし弟さんなんでしょ?」
すると男は冷え切った表情になり・・・・。
「あんな愚鈍で弱い奴は僕の弟なんかじゃないよ。死にたいなら早く死ねば良い。」
男はそう吐き捨てた。
「何言ってんのよ!馬鹿じゃないの?死んで良い人なんかこの世界に一人もいないのよ。
愚かなら分かるまで教えてあげなさい、弱いなら助けてあげなさいよ。
探して来る!」
言ってわたしはその場から離れた。
・・・・・・何だって言うのよ。あの男は・・・・・・あんな兄がいるから弟がいじけて死にそうになってるのよ・・・・・
わたしは舐められた指をチラッと見た。
・・・・・・しかしあの男・・・・・変態だわ。きっと・・・・・・
そう思うと一瞬わたしの背筋が寒くなった。
ペンライトで辺りを照らし探す事数分。Tの字になった目の前の廊下の真ん中で最初に出会った男は倒れていた。
「ちょっと・・・・・。
大丈夫なの?」
慌てて駆け付け男の体を起こし上げた。
「勝手に入って来るな。・・・・・・・!?・・・・・・お前!・・・・・」
ばんっ!
男は指から流れる血を見るなりわたしを突き飛ばした。
「痛ったぁぁぁっ。何するのよ!?」
男は体中を使い荒い息をついた。
「やっぱ何かの病気なのね。
病院に電話した方が良いよ。」
すると男は首を横に振った。
「オレの体は医者にも分からないだろう。」
・・・・・医者に分からないって?・・・・・・
わたしは一瞬嫌な事を想像した。
「吸血鬼。僕等はそう呼ばれているからね。」
そう言いながらわたしの後ろから兄の方がやって来た。
・・・・・・・吸血鬼・・・・・・・
「わたしが子供だからって騙そうとしてる?
悪いけどわたしは不思議な事は大好きだけど、そー言う明らかに現実離れした話しは夢があってて良いな~。って程度で終わってるのよ。」
「嘘じゃない。事実だ。」
弟の方は弱々しくそう言った。
・・・・・・事実と言われてもね・・・・・・
わたしは首をかしげた。
「見ての通り弟ウェルネスは弱っている。何故こんなにも弱っているか君に分かるかぃ?」
兄に言われ考え込むわたし。
「病気でご飯食べられなくて弱ってるとしか・・・・・。」
兄は首を横に振った。
「少し違う。
食べられなくて弱ってるんだよ。」
・・・・・食べられない?・・・・・・
「やめろ。兄さん。それ以上話するな。」
弟はツラそうにしながらも兄を睨みそう言った。
だが兄はそんな事は聞きもせず。
「こいつは昔から優しかった。今までは人間の食事を食べて何とか凌いでいたがそれにも限界はある。
そして人の血を飲む事を拒み続けた結果がこれだ。僕の様に生きる為に人を狩れば死なずともすむ事なのに。
だから愚鈍だと僕は言ったんだよ。」
・・・・・・マジ話しなの?これは・・・・?・・・・嘘かと思ってたけど・・・・・どうも違うみたい・・・。
正直信じられなくて頭がこんがらかるわたし。
「で・・・・もし血を分けてあげたらあげた人ってどうなるの?」
すると兄は・・・
「採りすぎたら死に至る可能性もある。
あっ!でも別にその人も吸血鬼になる訳じゃないからそこは大丈夫。」
・・・・採り過ぎ注意って事で別に他は異常無しか・・・・
「良いわよ。わたしがその提供者になってあげる。」
すると二人は驚きの表情をした。
「へぇ・・・・・。君、変わってるね。自ら言って来た者は今までに一人もいなかったよ。」
・・・・・そりゃ血を下さい。って言ってあげる人なんてそうそういないでしょうね・・・・・・。
「ふざけるな。帰れ。誰が人の血なんか飲む物か・・・・オレは誰も傷つけたくない。」
ウェルネスは目から涙を流した。
・・・・・分かるけど・・・・・・。
「わたしは知り合った人が目の前からいなくなるのは嫌よ。」
だが彼はわたしから目をそらし・・・・。
「オレは人なんかじゃない。」
寂しくそう呟いた。
だがわたしは彼の両肩を掴み・・・・。
「人よ。あなたは人。ちょっと珍しい体質だけど、わたしには人に見える。」
すると彼は驚いた顔をして何かが下りたかの様に安心したのかわたしの体に抱きついた。
・・・・・・ええ~・・・・・っと・・・・・・微妙に恥ずかしい状態なんですが・・・・・・。
「良いのか?」
耳元で彼は確認した。
「うん。」
すると彼は首筋に牙を立てた。
一瞬痛かったが後は別に痛い元も無く、ただ力が段々と抜けて行く事が分かった。そしてようやくわたしは彼が本当に吸血鬼であった事を実感した。
気付いたらランプのついているベッドの上でわたしは横になっていた。
先程死にかけていたのは嘘かの様に生き生きとした顔のウェルネスが側にいた。
「わたし気失っちゃったの?
ってか大丈夫?あなた?」
わたしは身を起こしウェルネスの顔を触った。
ぴんっ!
彼は突然わたしの額を指ではじきそのままわたしは後ろに倒れた。
「オレの心配より、自分の心配をしていろ。お前から結構な血を採ったからな。」
かたんっ。
兄は部屋へと入って来てテーブルの上にそっと食べ物を並べた。
「ウェルネスがさっき作った人間用の料理だ。落ち着いたら食べるんだ。」
わたしはウェルネスの顔を見てちょっと驚いた。
「上手だね。
わたしハンバーグもシチューも大好き。」
わたしは寝ていろと言われたがあまりにも美味しそうだったので起き上がりフォークを掴んでハンバーグに手をかけた。
「先程はすまなかったな。
恐く無かったのか?」
ハンバーグを食べてる途中ウェルネスは話し出した。
「恐い・・・・・
う~・・・・・ちょっと痛かったけど・・・・恐くは無かったよ。
だって人助けだし。」
わたしは彼にニコッと笑みを浮かべた。
・・・・・・でもちょっと目の前がクラクラして貧血っぽいけどね。その事は秘密・・・・・・
「わたし・・・・・毎日学校終わったら遊びに来て良い?ここに・・・・・」
するとウェルネスは驚いた顔をして・・・・。
「おかしな事を言う奴だな。
オレは嬉しいが、ここにはあまり来ない方が良い。
ここは色々と噂がある。誰かに見られたら変な目できっと見られる。」
・・・・・・変な目ね・・・・・・
「わたしの家族結構周りで変な家族って有名なんだよ。今更二つや三つ変人と言う称号増えたって変わりないでしょ?」
わたしの言葉に沈黙する二人。
家族で思い出して辺りをキョロキョロするわたし。
「そぅいや・・・・・今何時?」
聞かれポケットから懐中時計を出してパカッと開ける兄。
「九時半・・・・」
・・・・・・九時半!?????・・・・・・
慌てて立ち上がるが立ち眩みが突然襲って来て周りが暗くなりそのままウェルネスの元へ倒れ込んだ。
「阿保か。急に立つ馬鹿がいるか!」
負けずわたしは立ち上がり・・・・・。
家の消灯十時なのよ。十時までに帰らないとお姉ちゃんにぶたれる。
「鞄・・・・何処?わたしの鞄・・・・。」
兄は壁に掛けてある鞄を取り、わたしに手渡した。
「傘は玄関に置いておいたよ。」
「ありがと。」
兄に礼を言うと、ふらふらしながらウェルネスに支えられながら部屋から出て行った。
「そぅいや、わたしの名前言って無かった。
わたしは白鳳中学二年B組、武藤天夜。」
玄関でわたしはそう名乗った。
「オレはウェルネス=ブラッド今年で十九だ。」
「僕はシェルア=ブラッド二十五。」
二人も名前を教えてくれた。
「天夜・・・・・夜は危険だ。それにお前は体調が戻っていない。オレも一緒について行く。」
わたしは首を横にぶんぶんと振り・・・・。
「大丈夫。わたしは何て言ったって吸血鬼に噛まれたんですから、これ以上危険な事なんて無いわよ。」
するとウェルネスは笑みを浮かべた。
ピュー!
シェルアが指笛を吹くと突然周りに数匹のコウモリが飛んで来て玄関の天井をクルクル回った。
・・・・・コウモリ?・・・・・・
「じゃあこいつ等を行かせるよ。何かあったら僕が駆け付けるから。」
・・・・コウモリと一緒に帰宅って・・・・・・そんな人間普通いないよね・・・・でもまぁ心配してくれてるみたいだから・・・・。
「ありがとう。じゃこの子達借りるね。」
『ああっ。』
わたしの言葉に二人は笑みを浮かべ、手を振り洋館を後にし帰路へとついた。
【近所のヴァンパイア 終】