幾度目の人生
一歩ずつ、それでも確かに一歩ずつ、私は前進していた。
しかし、それは私の思い通りのものではなく勝手に動いているのだ。
言い方を変えれば、無意識に足が前へと進んでいるのだ。
意識はあるはずなのだ。
なぜなら、この怪奇に不思議だと畏怖しているのだから。
止めることのできない自分の足はまるで私が動かしたいように動いている。
前に進むことを当たり前とした動きをしている。
靴も履かずに裸足でコンクリートの上を歩いている。
周りを見渡すことはできない。
金縛りのようだ。
なんとも言えない奇妙な現象を体験していることは間違いない。
勝手に歩む足を眺めながら私は記憶を遡っていた。
確か、莫大な借金を抱えていたはずだ。
いや、余るほどの大金を持っていたはずだ。
どっちだったか。
しかし、思い出す記憶の傍らにはいつも車があったはずだ。
一般的な車だ。
それに、彼女、違う結婚した女性がいたはずだ。
優しい彼女の腕の中でまた安らぎたい。
待てよ、あのぬくもりは思い出せるのに彼女の顔は思い出せない。
止まらないはずの足は徐にその動きを止めた。
暗闇であることは確かであろう私の周りの世界。
目の前に千円札が落ちている。
依然として体は思うように動きはしないが、私の体はその千円札を取ろうとかがみ始めた。
スムーズな動きで拾った札をズボンにしまっていた財布に入れた。
どういうことだ。
やはり、欲には勝てないということなのか。
いや、落ちていた札になんの気持ちもはたらいていないはずだ。
私は一体、何をしているのだろう。
私は、歩みを止めた。
決して自らの意思で止めたわけではない。
しかし、考えてもたどり着かない結論にうんざりしていた。
この虚しさ、初めてではないように思える。
それでも、何もはっきりと思い出せないやるせなさに私は既に諦めていた。
徐々に視界も暗くなっていく。
私はこの体を虚無に預けた。




