2人の竹馬 2
俺はぶるっと体を震わせてカウンター席で目を覚ました。
ここは俺の家じゃなさそうだ…あぁ思い出したぞ。確か幼馴染みと隣町から帰ってきて…2人で酒を飲んでたんだ。
男は幼馴染みの居酒屋『横浜県』で浴びるように酒を飲み、酔っ払った2人は延々とサンタごいるのか、いないのかを潰れるまで論議していたのだ。男はポケットからスマホを取り出した。
もう5時か…。それより…あいつはどこに行ったんだ…?
男は壁に掛かっているカレンダーをぼーっと見ていた。帰るべきか否かを考えているとドアの開く音が聞こえた。
「ん?あ、起きてた?」
「どこに行ってたんだよ。」
「少しコンビニにな。」
そう言ってビニール袋を見せた。
「もうすぐ日の出だし…飲み直すか?」
「そんなに飲めねぇよ…ちょっと気持ち悪いくらいだ…。」
あっそ。と言いながら幼馴染みはカウンターの上にビニール袋を逆さまにして中身を出した。雑だな、なんて思っていたらゴロッと転がった缶ビールを開けてまた飲み始めた。
「そういや、今年も手伝えよ。」
「あぁ…別にいいけど。俺が手伝うほど客なんか来ねぇだろ。」
「いいや、来ますぅ。それに今年は予約が入ってるんだぜ!」
そう自信満々に顔を近づけてきた。
「うわっ!酒くさっ!」
髄分と酔っ払っている幼馴染みに水を出し、適当に話に相槌を打った。
「じゃあ、そろそろ帰るからな。じゃあな。」
そう言ってドアを開けようとするとおい。と呼び止められた。
「金。」
一言そう言って幼馴染みは潰れた。
はぁ…?金?
そうは思いつつも財布からこれくらいでいいか、と3000円を置いて帰った。まだ暗い道をとぼとぼと歩きながら今日は掃除でもするかと考えていた。風が吹き、寒さにやられ体を縮めて手をポケットに入れた。
あれ?そういやライターとタバコがない…。置いてきたか…。
男は180度反転しまた『横浜県』に戻ることにした。別にタバコがなくてもいいが取りに戻らないのも何か違う気がする。そうして同じ道を戻り先程までいた店に到着した。
「おーい。タバコが置きっぱなしだと思うんだけど…。」
店には誰もいなかった。多分2階で飲み直してるんだろう。
それにしても鍵も締めてないのか…。
カウンターの上にあったタバコとライターをポケットにしまい、一度幼馴染みに声をかけるかと階段を登った。
「おーい。帰るから、鍵だけ締めろよ…?あれ?部屋にもいないのか?」
部屋には確かに缶ビールが転がっており多分一人で飲んでただろう跡があったが、肝心な幼馴染みはいなかった。部屋の中のちゃぶ台に目をやると一枚のメモが目立つように置いてあった。不思議に思いながらそれを拾うと
「男は預かった。連れ戻したいなら『横浜県』の冷蔵庫にある鹿の肉を持ってここに来い」
メモには住所とさらに「時間の制限はないが安全の保障はできない」とも書いてあった。
ここに行くのぉ?今からぁ?
気怠さを感じながらも心のどこかでは幼馴染みが苦しんでいるのかもしれないとこれから起こるであろう体験したことのない未来をメモ見ながら案じていた。
冷蔵庫を見てみよう。鹿の肉らしき物がなければ帰ろう。
そうして階段を降り厨房の隅にある冷蔵庫を開けた。
ビール…つまみ…これか…。
そこには大きく
「鹿」
と書かれたビニールがあった。確かにそこに存在しているのだ。
あるのかよ…。
男は近くにあった保冷のできるカバンにその鹿の肉と思われる物体を入れて店の鍵を締めた。丁寧に扉の前には
「急用のため、幾日か開けます。」
よし…行くか…。
男は酒を飲んでいたことを思い出しタクシーで行こうと表の通りに向かった。先ほどよりも人手が多くなってきた。寒い風に耐えながらも各々が自分の仕事場へと歩く様子を眺めながら男は手を挙げてタクシーを捕まえた。運転手にメモの住所を伝え男は席でバックを抱えて静かに外を眺めていた。思ったよりもすんなりとタクシーは進み、目的地には1時間ほどでたどり着いた。
「お客さん、住所通りだとこの倉庫になるんですけど…合ってますか?」
「えぇ…大丈夫です。多分…。」
運転手に代金を払い男は降りた。
ここなのか…?それにしても思ったより金がかかったな…。
男は上着の前を閉じ、工場町になっている一帯を歩くことにした。いくつかの倉庫が並ぶ。煙はあちこちから空へと昇り、工業化の齎す地球への害を視覚的に人々へと無自覚に知らしめていた。男はドアが開いている倉庫を見つけた。少しの不安を感じながらも男はそっと半開きのドアに気を付けながら入っていった。中はなんの仕切りもない大きなそれは大きな空間が広がっていた。男は持っていたスマホの明かりを点けた。すると足元に見覚えのあるメモ用紙を見つけた。
「そこに鹿の肉を置き向かいの事務室2階に来い」
男はかばんをそこに置き、外に出た。
あれか…。明かりは…点いてないのか…。
渋々、男は向かいにある文字の剥がれかけた事務所に歩いた。ドアを開け汚い1階部分に眉を顰めながら目に入った階段を上った。日差しのかかる廊下には突き当りまで部屋が1つもない造りで、そろそろと足音もたてずに進んだ。突き当りには事務所には不釣り合いなタツナミソウが花瓶に生けてあった。男は職業柄か綺麗なタツナミソウを見て一気に不安感が増してしまったが、右側にあるドアノブを回して部屋に入った。
とても綺麗に整えられた部屋には幼馴染みが倒れていた。
「おい!大丈夫か!」
男は駆け寄り幼馴染みと思われるその体を揺さぶった。
「あれ?なんでここに居んの?」
幼馴染みは呂律の回らないその口で男に問いかけた。男は安心してドカッと横に座った。
呑気なものだな。まさか自分が連れ去られたこともわかってないんじゃないか?
男は立ち上がると幼馴染みの肩を揺らしながら説得を始めた。
「おい!いくぞ!立てるか?」
「あぁ…大丈夫だ…吐きそうだけど…。」
「よし…。帰るぞ!」
「…待って。帰らない…。」
「はぁ!?なんで帰らないんだよ?」
「お前…鹿の肉…持ってきたよな?」
「うん。持ってきたけど、なんだよあれは?普通は身代金とかじゃねぇのかよ!?」
「まぁ、ここで待ってろよ。な?酒もあるぜ?」
「はぁ!?まだ飲んでんのかよ!?」
少しの間、口論に近いやり取りが続いていると1階のドアがガチャッと開く音が聞こえた。幼馴染みの唸る声を抑えながら耳をすますと一段ずつ階段を上る音が段々と近づいてきた。
誰だ?あのメモをよこした奴か?
男は焦りながら幼馴染みをそのまま横にして近くのクローゼットに入った。大きめのそれは180センチの彼が入るには十分なサイズだった。ガチャッと部屋のドアが開いた。
「おいおい…。まだ酔いつぶれていたのかよ…。」
男はクローゼットの中で唖然としていた。
な…なんで…俺がそこにいるんだ…?
クローゼットからは横になっている幼馴染みとクローゼットに隠れているはずの男がいた。その男は一人ぼそぼそと話していると、徐に来ていたジャケットの胸に手を入れた。男は静かに見ていたが、何か異変を感じ取った。胸ポケットから1丁の拳銃を取り出した。
あれは…コルトパイソン…か?それにしては少しスリムな気もするが…。
男が黙って見ているとその拳銃を幼馴染みに向けた。その瞬間、クローゼットから自分に似ているその男に飛びついた。少しの間、2人はもみくちゃになっていた。しかし隙を見て男はその男から拳銃を取り上げると持ち手の部分で頭を2度、強打した。その男は悶絶していたが、男は窓から拳銃を抛り幼馴染みをビンタして目を覚まさせた。何も言わずに事務所を出て、近くのコンビニエンスストアまで歩いていった。その間、幼馴染みは混乱していたが何か言おうとする度に黙らせ、そして歩かせた。男は水を購入し幼馴染みに飲ませると酔が覚めたかを確認して
「いいか?お前は誘拐されたんだ。そしてあの俺に似た男がお前を殺そうとしていた。いいか?すぐに帰るぞ。」
「俺が酔ってる間にそんなことが…。すまねぇ…。」
流石の能天気な幼馴染みも悪いと思っているらしく幸運にもすぐに捕まえることのできたタクシーの中で静かに肩を落としていた。
2人はまたあの『横浜県』に居た。朝とはうってかわり沈黙が続いていた。
「…おい、まずは予約の客を対処するか?それとも店をたたんで違うどこか遠くに移るか?」
「どこかに越すのは予約客を終わらせてからにする。だからまた…手伝ってくれないか…?」
男は頷いた。ここで見捨てるわけにはいかない。
「よし!やるぞ。何からすればいい?」
あの寂れた事務所で男は改造したコルトパイソンを磨いていた。
「…まぁ…いいだろう…生贄は誰でもいい…。」
そう言うと自分の指をナイフで切り滴る血を小さな瓶に溜めた。男は静かに笑いながら月を眺めた。




