右足と君 2
ある日、いつもの最寄り駅で電車を待っていた。いつもと違うことといったら僕が寝坊していつもと違う時間であるということだろう。ホームの椅子に腰を掛けていると、通路から彼女が歩いてきた。こんな時間に?彼女も遅刻?あの嫌がらせを受けても朝早くから登校していた彼女が?挨拶でもしようと立ち上がり近くまで歩みながら声をかけた時、ホームに電車の到着を知らせる爽快なメロディが流れた。そんな中、彼女の様子がおかしかった。僕に気づかず虚ろな目をした彼女はそのまま電車の来る線路に身を投げた。聞いたこともない急ブレーキの音を聞きながら、僕も彼女を追いかけた。今だから言えることだが、あの時僕は自分の行動を理解する前に動いていたと思う。彼女を無理やりホーム下の避難スペースに押し込んだ。かくいう僕はその時に足を轢かれてしまった。この騒動を目撃していた大人たちが駅員と共に早急な対処をしているのを見ながら、僕は気を失ってしまった。
次に目を開けた時には綺麗な白い天井が目に見えた。
「大丈夫なの!?」
そう大きな声で母さんが僕に呼びかけた。僕は何か声を出そうと思ったが不意に右足の痛みを感じた。大丈夫だからね、と母さんは混乱している僕を優しく抱きしめながらナースコールを押した。すぐに医者と思われる大人が駆けてきた。その時に初めて知ったことだが、僕の足は列車に轢かれてしまっていたらしく膝から下を切断するという措置を取ったらしい。これからはソケットをはめて義足を取り付ける方向で治療を進めると僕が眠っている間に親が決めてくれた。僕も賛成した。そうして母さんが泣きながら僕の隣で安心しきっていると暫くしてから父さんが仕事着のまま走って部屋に入ってきた。
「おい!お前大丈夫なのか!」
父さんのその声に僕が何か言おうとすると隣に座っていた母さんがまたわんわんと泣き出してしまった。
「おいおい、お前が泣いてどうすんだ。」
「だって…ずっと心配だったから…。2日も寝ていたのよ!」
僕はそこでびっくりした。2日?さっき医者からは何にも言われなかったがそんなものなのか?
「え?母さん…2日も僕は寝ていたのか…?」
「えぇ…そうよ。本当に心配だったんだから!」
そう言ってまた僕を優しく抱きしめてくれた。
次の日、僕を交えて今後について医者から話があった。もしかしたら高校には卒業までに戻ることはできないかもしれないとも言われた。両親はお前の好きにしたらいいと無理やりに選択を迫ることはしなかった。僕がこれからどうするべきか悩んでいた時、そういえばと彼女のことを思い出した。あのまま死んでしまったのか否か、いやそんなネガティブなことではなく彼女の安否が素直に気になったのだ。勿論、家族は彼女のことを知っていた。僕がなぜこうして運ばれたのかを先に意識を取り戻した彼女が家族に話したそうだ。
それから数年が経った。高校には最後まで行かず途中で中退した。学校の先生は僕のことを気にかけてなんとか学校にいられるよう協力してくれると言ってはくれたが、あんな学校に居続けなくてもいいかと思い親にもそのように伝えた。あれから5年が経った今、僕は親戚が経営する小さな釣り堀の仕事を手伝わせてもらっている。リハビリも医者や家族の支えのおかげで思ったより順調に進みだいぶ良くなった。痛みも慣れたのか最初ほどの痛みは感じなくなった。しかしふとした時に思い出してしまう、もはや心残りに近いのかもしれない。それは彼女のことだ。高校について学校の先生と話している時にも彼女のことを訪ねてはみたもののそれとなく濁されてしまったのだ。しかし心残りがあるとは言っても自ら彼女の元へ会いに行ったりはしない。
今日も僕は釣り堀で静かに時間を過ごす。呑気にあくびなんかしながら堀の魚を眺める。もしかしたらまた彼女に会えるかもしれないなんておもいながら。




