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59話―死霊術士の最期

「……フン、何をするつもりかは知らぬがムダなこと! リビングエンドアーマーを破ることなど、貴様には出来ぬ!」


「出来るさ! それを教えてやる!」


 体勢を立て直したキルデガルドは、リオへ向かって突進する。リオは腰を落として身構え、新たなる力を振るい武装を作り出す。


「……出でよ! 巨壁の盾斧!」


「死ねええぃ!」


 リビングエンドアーマーが激突する直前、リオは上側に柄がついた巨大なタワーシールドを作り出し右腕に装着する。リオは突進を受け止め、根を張った巨木のように微動だにせず相手を見上げた。


「バカな、アーマーの突進を受け止めたじゃと……」


「こんな攻撃じゃ、僕は揺らがないよ。ダンねえが力を貸してくれてるから!」


 リオは空いている左の拳を盾に叩き付け、その衝撃でキルデガルドを吹き飛ばす。相手が立ち上がるよりも早く、柄を掴んで地を駆ける。


 フチに鋭い刃がついた盾斧を振りかぶり、リビングエンドアーマーの左足へ叩き付ける。硬化した屍肉に刃が阻まれるも、二人分の剛力が無理矢理肉を断ち切っていく。


「なっ……!? ありえん! 硬化した屍肉が切られるなど……このっ! 離れよ!」


「わっ……とと!」


 振り払われたリオは双翼の盾を広げ空中で体勢を立て直す。一旦距離を取り、リビングエンドアーマーを倒すための新たな武器を作り出した。


「これならどうかな!? 縛樹の盾斧!」


「む? ホッホ、懲りないやつめ。こんな植物のつる如き、わしのアーマーには効かぬ!」


 ひまわりの花を模した形の盾を作り出したリオは、地面に盾を突き刺し植物のつるを伸ばす。無数のつるに絡み付かれながらも、キルデガルドは余裕の態度を崩さない。


 もう一度屍肉を腐敗させ、毒素を生み出しつるを枯らそうと試みる。が、どれだけ毒素を放出しても、枯れるそばからつるが新しく生まれ変わり拘束を解くことが出来なかった。


「ぐっ、しつこいつるめ! いつまで生え変わるつもりじゃ! クソッ、このままではアーマーに込めた魔力が切れる……仕方あるまい。力ずくで千切ってくれるわ!」


「そんなこと、させると思う? そのアーマーを砕いてあげるよ!」


 終わらないいたちごっこに業を煮やしたキルデガルドは、強引につるをひき千切って脱出する作戦に切り替えた。が、リオはみすみすやらせるつもりはない。


 縛樹の盾斧を手放し、巨壁の盾斧を構えリビングエンドアーマーの元へ走っていく。渾身の力を込めて盾斧を振るい、アーマーを構成する屍肉を削り切る。


「うおりゃあっ! せりゃっ! とおおー!」


「ぐうっ、このっ! ちょこまか動き回るでないわ! 目障りなコバエめ!」


 アーマーの周囲を駆け回りながら、リオは一撃離脱を繰り返し着実に屍肉を削り切っていく。キルデガルドはアーマーを無理矢理動かしてリオを攻撃しようとするも、全て避けられた。


「くっ、面倒な……ん? あれは……」


 忌々しそうに表情を歪めていたキルデガルドは、倒れたまま動けないダンスレイルに気付きニヤリと笑う。無理矢理アーマーの腕を伸ばし、彼女に狙いを定める。


「まずはあの女から死んでもらうとするかのう! デッドリー・ジェル・マグナム!」


「しまった! ダンねえ、逃げて!」


 手のひらから屍肉の一部が剥がれ落ち、砲弾となってダンスレイルの元に飛んでいく。まだ傷を治癒しきれておらず、まともに動けない彼女に回避するすべはなかった。


 彼女が一人であったのならば、の話だが。


「そうは……させませんわー! ふぐっ!」


「君は……! 瓦礫から出られたんだね」


 瓦礫の中から這い出たエリザベートが縛樹の盾斧を掴み、砲弾とダンスレイルの間に割って入ったのだ。衝撃で仰け反り倒れたものの、攻撃を防ぐことに成功する。


 盾を顔にぶつけ、鼻血を出しながらもエリザベートはリオに向かって大声で激励の言葉を送った。


「師匠ー! やってくださいませー!」


「エッちゃん、ありがとう! てやあっ!」


「ぐうっ……! おのれぇ、どこまでも邪魔をしおって!」


 ダンスレイルへの攻撃を防がれ、キルデガルドは激昂する。もう手段を選んではいられないと、奥の手を発動することを決意し魔力を解放し始めた。


 アーマーを構成する屍肉が肥大化し、つるを取り込みながらトゲトゲしい姿へ変貌していく。危機感を覚えたリオは一旦距離を取り、ダンスレイルたちを安全な場所へ避難させる。


「済まないね、リオくん。まだ傷が治らなくてね……」


「気にしないで、ダンねえ。エッちゃん、ここでダンねえと一緒に待ってて。キルデガルドを倒してくるから」


「……分かりましたわ。武運長久を祈っています、師匠」


 リオは広場に戻り、変貌を遂げたリビングエンドアーマーを駈るキルデガルドと対峙する。胸部に埋め込まれた水晶玉の中にいる妖魔参謀を睨みながら、リオは巨壁の盾斧を構えた。


「お待たせ、キルデガルド。魔力もなくなってきたし、そろそろ終わらせよっか」


「フン、軽口を叩くでないわ。この姿になったリビングエンドアーマーは無敵。それを教えてくれようぞ! デッドリー・ニードル!」


 キルデガルドが叫ぶと、アーマーの表面に生えたトゲが伸びリオへ襲いかかる。リオは盾斧でトゲを次々に切り落としながらアーマーへ近付いていく。


 トゲは次から次へと生え変わりリオへ襲いかかる。が、その度にリオに切り落とされ、やがて魔力切れに陥り再生が止まってしまった。


「くっ、もう魔力切れか! まあよい、例のつるは取り込み自由を取り戻した。このまま叩き潰してくれるわ!」


「その言葉、お返しするよ!」


 リオは巨壁の盾斧を振り回し、アーマーが繰り出す拳や蹴りを捌きつつ屍肉を切り落としていく。が、アーマーを破壊するたびに再生され、中々決定打を与えられない。


 千日手の持久戦になることをリオが覚悟したその刹那、頼もしい声が彼の元に届く。


「待たせたな、リオ! カレン様参上だぜ!」


「リオ、ここからは妾たちも戦うぞ!」


「お姉ちゃん! ねえ様!」


 カレンを連れて戻ってきたアイージャを見て、リオは安堵の表情を浮かべる。一方、一気に不利な状況に追い込まれたキルデガルドは、歯軋りしながら三人を睨み付ける。


「ぐうう……! こうなったら、三人まとめて殺して……!?」


 その時だった。リビングエンドアーマーが突如動きを止め、膝を着いた。リオたちは何が起こったのか理解出来ず、一瞬固まってしまう。


(しまった……! 長時間動かし過ぎて屍肉が硬直してしまっておる! まずい、このまま全身の屍肉が硬直すれば、戦うどころか外に出ることも出来なくなる!)


 魔力を流して無理矢理屍肉をほぐしたキルデガルドは、急いで決着をつけようとリオたちに襲いかかる。が、その焦りが致命的なミスを生んだ。


 無理に屍肉をほぐしたことで、硬化能力が失われたことに気付くことが出来なかったのだ。


「なんか知らねえが、チャンスだリオ! アタイたちがアレの手足を壊す! そしたらトドメを刺せ!」


「分かった!」


「フン、貴様らの攻撃など、硬化能力で……!?」


 硬化能力で攻撃を防ぐつもりだったキルデガルドは、カレンたちの攻撃を受けて屍肉が崩れたことでようやく硬化能力が失われたことに気付く。


 が、すでに遅かった。リオは双翼の盾を広げて飛び立ち、キルデガルドの遥か頭上へ向かう。魔力を集め、トドメの一撃を放つための武器を作り出す。


「これで終わりだ、キルデガルド! 出でよ、断滅の盾斧!」


 リオの身の丈を遥かに越える巨大な斧が作り出され、リビングエンドアーマー目掛けてリオと共に落下していく。アーマーの手足を破壊され、攻撃を防ぐすべを失ったキルデガルドは、絶叫することしか出来ない。


「おのれええええ! このわしが敗れ……うぐああああああ!」


「これでトドメだあああぁ!!」


 断滅の盾斧がリビングエンドアーマーに直撃し、屍肉ごとキルデガルドを真っ二つに切り裂いた。妖魔参謀の断末魔が響くなか、死の力で作られた鎧が崩れていく。


「……エルシャさんたちに、あの世で詫びろ! キルデガルド!」


 崩れ落ちたリビングエンドアーマーを見ながら、リオはそう呟く。長い戦いの末に、彼らはついにキルデガルドを討ち取ることが出来たのだった。

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