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49話―エルフたちの救世主

 翌日、リオたちは町の住民総出で見送られ旅を再開する。スレッガへ向かう旅は、これまでとは打って変わって快適なものへと変貌を遂げていた。


 吟遊詩人たちがリオの活躍をあちこちに広めて回った結果、それまでバゾルの影響で異種族に排他的だったエルフたちの態度が軟化したのだ。


「やあ英雄さん。旅は疲れるだろ? 甘いもんでも買っていかないかい? 今なら安くしとくよ」


「本当? じゃあ、おまんじゅうちょうだい」


 中でも一番変わったのは、行商人たちが頻繁にリオ一行に声をかけてくるようになったことだろう。同胞を救ってくれたリオたちへ恩返しをしようと、彼らなりに考えての行動だった。


 格安で食料を提供したり、スレッガまでの近道を教えたり……自分たちの出来る限りのサポートを行い、リオたちの旅の手助けをする。結果、リオたちは予定より早く目的地へたどり着けた。


「ようやく着いたね。でも……」


「酷い……。町が廃墟に……」


 ハールネイスを経って五日、リオたちがたどり着いた時にはすでにスレッガの町は廃墟と化していた。町を囲む防壁は跡形もなく、家々は無残に崩れ、エルフたちの姿はどこにもない。


 町の惨状を目の当たりにしたリオたちは、生存者がいないか手分けして町を探索する。少しして、リオは町の奥にまだ倒壊していない教会があるのを見つけた。


「ここだけ崩れてない……。人の気配もあるし、もしかしたら生存者がいるかも」


 そう考えたリオは、念のためカラーロの魔眼の力を使い、教会の周囲に罠がないかチェックする。罠がないことを確認した後、教会へ近付いていく。


「こんにちはー。誰かいませんかー」


 扉を開け、顔を覗かせながら大声で問いかける。返答はなかったが、人の気配が強まったのをリオは感じ取った。少しして、頭にナベを被り、ホウキを構えたシスターが姿を見せる。


 シスターの身体は恐怖で震えており、見ているだけで痛々しさを感じさせるほど怯えていた。リオにホウキを向け、シスターは精一杯の虚勢を張り問いかける。


「な、何者ですか!? ここは斧の魔神を讃えるための聖なる教会……。魔の眷属が足を踏み入れていい場所ではありません!」


「わっ! お、落ち着いておねーさん。僕は町のみんなを助けに来たんだよ。だから、ね? 落ち着いて?」


 リオはシスターを落ち着かせるべく、両手を上げ敵意がないことを示しながらゆっくりと教会の中へ入っていく。シスターはビクリと身体を震わせ、リオを見やる。


「ほ、本当に……魔族では、ないのですね?」


「そうだよ。大丈夫、僕はみんなを助けに来たんだ」


 柔和の笑みを浮かべるリオを見つめ、味方が来てくれたということを理解したシスターはその場に座り込んでしまう。リオは彼女に近寄り、優しく頭を撫でた。


「よかった……。神は、ひっく、私たちを見捨ててはいなかったのですね……。うう、ふええん……」


「一体何があったの? この町に……何が起こったの?」


 緊張が解け、安心感から泣き出してしまったシスターをあやしながら、リオは町で何が起きたのかを尋ねる。シスターはしゃくり上げながら、何があったのかを話し出す。


「七日前……町に魔王軍を名乗る少女が来たのです。大勢のゴブリンたちを引き連れて……。町の守護隊が応戦したのですが、ゴブリンたちには何をやっても無意味で……」


 シスターの言葉を聞き、リオは思い出す。ケルケーナ渓谷に住むゴブリンの部族の男たちが連れ去られたということを。ここに来てリオは気付いた。


 魔王軍――キルデガルドがゴブリンの男たちを拐ったのは、屍兵を量産するためだったのだと。そんなリオを余所に、シスターはポツポツと話を続ける。


「司祭様と一緒に、私も戦いに加わりました。癒しの魔法で守護隊を援護していましたが、一人、また一人と倒されて……。司祭様に逃がされて、私は町の子どもたちと一緒にここに隠れていたのです」


「そんなことが……。僕たちがもっと早く到着出来てれば……!」


 町を襲った悲劇を知り、リオは悔しそうに拳を握り締める。間に合わなかったことを悔いる彼に、シスターは微笑みを浮かべながら声をかけた。


「悔やまないでください。あなたが来てくれたおかげで、少なくとも子どもたちは助かりました。本当に、なんとお礼を言えばいいか……」


「師匠、ここにいますか!? 町の奥にある倉庫の地下に、生き残りの方々がいましたわ!」


「あ、エッちゃん! そっちも生き残りを見つけられたの?」


 その時、教会の中にエリザベートとエルザが現れた。彼女たちも生き残りを見つけたらしく、リオの元へ十数人のエルフを連れてきていた。


 礼拝堂の奥にある小さな部屋に隠れていたエルフの子どもたちも集め、リオたちは今後のことを相談する。町が壊滅してしまった以上、彼らを放置することは出来ない。


「師匠、どうしましょう。一番近い町までは馬車で半日はかかりますし、この人数は乗せきれませんわ」


「……大丈夫。僕の魔力を結構使っちゃうけど解決策はあるよ。出でよ! 界門の盾!」


 エリザベートに問われたリオは、頭の中にハールネイスの王城をイメージしながら界門の盾を呼び出す。門を開きと、向こう側には王城の入り口が見える。


「な、なんだ!? 盾が開いたと思ったら知らない景色が見えるぞ!?」


「凄い、こんな魔法見たことない!」


 生き残りの住民たちがざわめくなか、リオは門を指差し説明を始めた。全てを失い、絶望の底へ沈んだエルフたちに救いの手を差し伸べるために。


「みなさん、この門はハールネイスにあるお城に続いてます。女王さまに頼めば、きっとみなさんを保護してくれるはずです。門を通ってお城へ行ってください」


「そうですわね、その方が安全だと思います。エルザ、あなたはエルフのみなさんと一緒に城へ。ここの惨状を伝えてくださいまし」


「承知しました、お嬢様」


 エリザベートの言葉に従い、エルザは生き残った者たちの案内役と町の惨状の説明役を兼ねて城へ戻ることを決めた。まだ事態を飲み込めていなかったエルフたちは、少しずつ状況を理解し始める。


「俺たち……助かるのか? もう、あのゴブリンたちに怯えなくて済むのか?」


「これ、夢じゃないんだよな? 本当に……本当に、助かったんだよな?」


「大丈夫。僕がいるからには……もう、屍兵に怯える必要はないんだよ」


 リオの言葉に、エルフたちは歓喜の叫びを上げる。七日の間、いつまた魔王軍が襲来するかと怯えながら隠れ潜んでいた彼らにとって、リオはまさに救世主と言えた。


 エルザとエリザベートの案内状に従い、エルフたちは一人ずつ順番に門をくぐっていく。門をくぐる際、リオに感謝の言葉を述べながらハールネイスへ向かう。


「ありがとう、救世主様! あなたは命の恩人だ!」


「ありがとう、本当にありがとう……。あなたのこと、一生忘れないよ。偉大なる救い主様」


 リオはエルフたちに一言ずつ別れの言葉を述べ、安心させようと笑顔で送り出す。エルフの子どもたちの番になり、彼らもまたリオにお礼を言いながら門をくぐる。


 最後に残ったシスターは、ゆっくりとリオに歩み寄りそっと彼を抱き締める。目尻に涙を浮かべ、自分たちを救ってくれたリオをジッと見つめながら話し出す。


「本当に、なんとお礼を言えば……あなたが来てくれなければ、私たちは飢えて全滅していたでしょう。小さな救世主様、最後に……あなたの名を、教えてくれませんか?」


 シスターの言葉に、リオはにっこりと笑う。そして、彼女に自身の名を告げた。


「僕はリオ。ベルドールの座に名を連ねる盾の魔神……リオ・アイギストスだよ」


「リオ……素敵な名前ですね。ありがとうございます、このご恩は一生忘れません」


 リオの名を聞いたシスターはそう言い残し扉をくぐり姿を消した。界門の盾を消した後、魔力を消耗したリオは目眩を起こしその場に座り込んでしまう。


「ふう、ちょっと疲れちゃった……」


「師匠、大丈夫ですか? そうですわ、お疲れならわたくしが膝枕をして差し上げますわ! さ、遠慮なさらずにどうぞ」


「そう? じゃあ、少しだけ……」


 エリザベートは消耗したリオにそう提案し、正座をして自身の膝をポンポンと叩く。リオは彼女の提案に乗り、そっと頭を乗せ横になる。


 あっという間に寝息を立て始めたリオの頭を愛しそうに撫でながら、エリザベートは微笑みを浮かべていた。

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