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299話―降臨! 『魔戒王』グランザーム!

「素晴らしい……クハハハハハハ!! 実に、実に見事だ! 余にこれほどの傷を負わせるとは、まこと見事としか言いようがないぞ! リオよ!」


 床に落ちたグランザームは、大怪我を負ったというのにも関わらず歓喜の笑みを浮かべる。最大最後の敵と目した存在たるリオが、ここまで自身を追い込んだことが嬉しくてならないのだ。


 一方、リオは床の凍結を維持出来なくなり、苦しそうに笑いながら答える。溶けていく氷を見ながら、荒い息を吐く。


「はあ、はあ……。そっちは、まだ余裕そうだね。羨ましい限りだよ……」


「案ずるな、リオよ。さあ、貴公の体力と魔力を回復してやろうではないか。ここまで余を喜ばせてくれた礼だ」


 ギカントアイス・ブレードに持てる魔力の全てを費やしたリオは、疲労困憊な状態にあった。そんな彼に手をかざし、グランザームは体力と魔力を回復させる。


 同時に自身の傷も癒し、魔王は真っぷたつに切り裂かれた大鎌を放り投げ、頭上へ右腕を伸ばす。そして、闇の眷族の故郷、暗域に座す闇の源流へ向かって叫ぶ。


混沌たる闇の意思(ダークネス・マインド)よ、これより行われる戦い……その全てを捧ぐ! 深き闇の底よりご覧あれ! 我らの誇りを賭けた、最後の決戦を!」


「何を、するつもりなんだ……!?」


 グランザームが言葉を発するたびに、濃い闇の魔力が玉座の間に満ちていく。魔王を止めないと、マズいことになる。頭では分かっていても、身体が動かない。


 呑まれてしまっているのだ。グランザームの内より溢れ出る、強大な力に。今まさに、グランザームは――『魔戒王』としての姿に変貌を遂げようとしているのだ。


「リオよ。大地の民にこの姿を見せるのは貴公が最初あり、最後になる。刮目して見よ。そして歓喜し、恐怖せよ! 魔戒王……グランザームの降臨を!」


 そう叫ぶと、グランザームは己の中に渦巻く魔力を爆発させ、木っ端微塵に砕け散る。その直後、濃い闇が魔戒王の肉体を作り出していく。


 紫から純白へと変わり、鋼の如く引き締まった肉体に、紅い紋様が走る。その背には、漆黒の翼が生えていた。左右のこめかみには、大きく湾曲した角がある。


「ぬおおおおおおおおおお!!」


「これが……グランザームの、真の姿……!!」


 魔戒王の身体を、黄金の鎧が包み込んでいく。左腕は鎧と一体化し、四本の巨大なかぎ爪を持つ魔獣の腕となる。そして、天高く伸ばされた右腕には、両刃を持つ巨大な白銀の斧があった。


「……待たせたな、リオよ。これが余の真の姿なり。魔斧グラキシオスと共に……いざ、参る」


「! はや……」


 身の丈を越える大斧を片手で軽々と持ち、グランザームは目にも止まらぬ速度でリオの懐に飛び込む。斧を横薙ぎに振るい、重い一撃をみぞおちに放つ。


 辛うじて防御が間に合ったリオだったが、壁の方に吹き飛ばされてしまう。壁にめり込むリオに、グランザームはさらなる追撃を叩き込んでくる。


「受けてみよ! カイザー・クロウ!」


「ぐっ……このっ!」


 壁から脱出し、リオは自らグランザームへ突撃していく。やられる前にやるしかない。そう判断したリオは、走りながら獣の力を解放する。


「ビーストソウル……リリース! 出でよ、氷爪の盾!」


「ほう、爪同士のぶつかり合いか、面白い。来い! 余は逃げも隠れもせぬぞ!」


 ネコの化身となったリオは、両腕に氷爪の盾を装着し左腕を振るう。リオとグランザーム、二人の腕がぶつかり合い……打ち勝ったのは、グランザームだった。


 左腕を根元からごっそり引きちぎられたリオは、悲鳴をあげながら床を転がっていく。鮮血が飛び散り、床を赤く染めていく。


「ぐ、うう……。つ、強い……! 今までよりも、遥かに……」


「ふむ……まだ身体が馴染んでおらぬか。この姿になるのも数万年ぶり……仕方のないことだな」


 力なく床に転がるリオを見ながら、グランザームは顔をしかめる。恐るべきことに、まだ彼は本調子ではないのだ。が、すぐに元の調子に戻るだろう。


 もう、準備運動は万全すぎるほどに済ませたのだから。


「リオよ、もう終いか? そんなわけはないだろう、貴公はまだ立ち上がれるはずだ。いや、立ち上がらねばならぬのだろう?」


「そうさ……。ちょっと休憩してただけだよ。まだ、全然戦える……けほっ」


 左腕を再生させ、リオは立ち上がる。再び氷爪の盾を装着し、グランザームへ挑みかかっていく。爪と斧がぶつかり合い、行き場をなくした魔力が玉座の間を乱舞する。


 部屋はどんどん破壊されていき、とうとう上半分が木っ端微塵になり吹き飛んでしまった。夕陽が射し込むなか、魔神と魔戒王はそれぞれの得物を振るう。


「くはははは!! 楽しい、楽しいなぁ! いまだかつて、この姿の余にここまで食らいつけた者はおらぬ! 本当に、どこまで余を喜ばせてくれるのだ? このままでは、歓喜し過ぎて死んでしまうぞ!」


「本当に、そうだったら……くっ、よかったんだけどね!」


 徐々に本調子になりつつあるグランザームに、リオは必死に食らい付く。斧を振った際に生じる風圧ですら、鋭い刃となり肉体を切り裂いてくる。


 身体がボロボロになっては再生し、再生してはまたボロボロになり……そんなサイクルを何度も繰り返しながら、両者は互角の戦いを繰り広げていた。


「さあ、次だ! この技、受け切ってみよ! サドン・インパクト!」


「これは……! なら、出でよ凍鏡(いてがみ)の盾!」


 グランザームは翼を広げ、上空へ飛び立つ。そして、全力を込めて斧を振り下ろしながら急降下してくる。それを見たリオは、カウンターを狙い凍鏡の盾を呼び出す。


 攻撃を受け止めて衝撃を吸収し、即座に跳ね返す……そう考えていた。しかし、現実は甘くなかった。これまで破られることがなかった凍鏡の盾が、斧の直撃を受け粉々になったのだ。


「そ、そんな……! うあああっ!!」


「ムダなことよ。この魔斧グラキシオスは暗域の刀匠が鍛えた究極の武器。放たれる衝撃の全てを吸収し跳ね返すなど、不可能なことだ」


 カウンターに失敗したリオは、またしても吹き飛ばされてしまう。しかし、凍鏡の盾が勢いを半減してくれたおかけで即死は免れることが出来た。


 だが、グランザームの攻撃は止まらない。次なる攻撃が、リオへ向かって放たれる。


「受けてみよ! 冥門解放、伍の極『雷電轟射』!」


「雷……食らうもんか!」


 グランザームの左腕を、雷のパイルバンカーが覆う。稲妻の杭が勢いよく放たれ、リオに襲いかかる。一射目を避け、リオはグランザームの懐へ飛び込む。


「食らえ! アイスシールド・スラッシャー!」


「甘い! ボルテックス・ドライブ!」


 懐に飛び込んだリオの攻撃をわざと受け、グランザームは筋肉を締め上げて爪が抜けないようにしてしまう。その上で、リオに稲妻の杭を叩き込んだ。


「うああああああ!!」


 リオは悲鳴をあげながらも、氷爪の盾を消して何とか離脱することに成功した。しかし、身体は黒焦げになりもはや息も絶え絶えの状態だ。


「……そろそろ、貴公の限界も近いようだ。名残惜しいが……この戦いを、終わらせるとしよう! 唸れ、魔斧グラキシオスよ! デッドリー・エクスバースト!」


 もうリオには満足に戦うだけの力が残っていない。そう判断したグランザームは、トドメの一撃を放つ。大斧を振りかぶり、闇の魔力を纏った衝撃波を発射する。


 リオは最後の抵抗にと、不壊の盾を作り後ろへ隠れる。だが、不壊の盾ですら、魔戒王の必殺技を防ぐことは出来なかった。いつかの時のように、盾は砕けてしまう。


(……ここまで、か。頑張ったんだけどな……もう、ダメみたい)


 諦観の念を抱き、リオは力なく笑う。身体が闇の奔流に呑まれて、壁へと叩き付けられる。崩れ落ちていくなか、耳元で声が響いた。


 この場にいるはずのない、かつての魔神の長兄……エルカリオスの声が。


『どうした、リオよ。諦めるのにはまだ早いぞ。まだ……お前の手のひらの中には、希望が残っているじゃあないか』


「え……?」


 うつ伏せに倒れたリオは、ふと違和感を感じ握っていた右手を広げる。手の中には、取り出した覚えのない守護霊の指輪が握られていた。


『リオ、お前はまだ終わっていない。負けてなどいない。忘れるな、私は……いや、()()()()お前と共にあるということを!』


 エルカリオスの声が響くと同時に、リオの身体が白い光に包まれていく。指輪の力に導かれ、今――奇跡が、起こる。

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