297話―最終決戦! 魔王グランザームを倒せ!
「さあ、まずは小手調べだ。この技、見事攻略してみせよ! 冥門解放……壱の獄『万魔鏡』!」
「これは……!」
ファーストコンタクトにて互角のぶつかり合いを披露した後、グランザームは大きく後ろへ跳び冥府の門を開く。魔王の背後に巨大な鏡が現れ、その中に吸い込まれる。
リオはグランザームを引きずり出すべく、鏡に攻撃を加えようとして……ふと違和感を抱き急ブレーキをかける。このまま攻撃してはいけない……そんな感覚を覚えたのだ。
(なんだろう、この違和感……。あの鏡、攻撃したらマズい気がする。こんな時は、カラーロの魔眼を!)
鏡の中から繰り出される斬撃をかわしつつ、リオはカラーロの魔眼の力で技のカラクリを見破ろうとする。周囲を見渡していると、背後に異質な魔力を感知した。
自分の後ろに、何かがある。それこそが、グランザームの繰り出した技を破るためのモノかもしれない。そう考えたリオは、振り向くことなくソレに肘打ちを叩き込む。
「この感触……鏡か!」
「ほう、もう気付くとは。流石だ、リオよ。だが、そう簡単には破壊させぬ!」
ビキリ、と亀裂が走る音と硬い感触から、リオは己の背後にも鏡が現れたことに気付く。それと同時にグランザームの攻撃が激化したことで、リオは考える。
己の背後にある鏡を破壊すれば、グランザームを引きずり出すことが出来るのではないか、と。それをさせないために攻撃の手を激しくしているのならば、辻褄は合う。
「残念だけど、もう遅いよ。それっ!」
「くっ……ぐうっ!」
グランザームの攻撃を盾で防ぎつつ、リオはもう一度勢いよく肘打ちを背後の見えない鏡に叩き込む。二度目の攻撃を受け、鏡は粉々に砕け散り消滅する。
それと同時に、グランザームが鏡の中の世界から弾き出されダメージを受ける。鏡を破壊され、ダメージがフィードバックされたのだ。
「ふふふ、やるな。あのまま余が潜む鏡を攻撃していれば、ダメージを負ったのは貴公だったのだがな」
「ひゃー、やっぱり。攻撃しないで正解だったよ」
種明かしを聞き、リオは軽い口調でそう答える。もし違和感に気付かず、全力で攻撃を叩き込んでいたら今のグランザームの比ではない大怪我をしていただろう。
小手調べの技を攻略したリオは、グランザームへ飛びかかり飛刃の盾による殴打を見舞う。魔王はそれを鎌の柄で受け止め、腕の力だけでリオを吹き飛ばす。
「うわっ!」
「では、次なる門を開かせてもらおう。冥門解放……弐の獄『虚空針』!」
そう叫ぶと、グランザームは目に見えない無数の透明な針を周囲にバラ撒く。針は先端だけでなく、その全てが鋭利な刃物となっている。
下手に触れれば、皮膚も鎧も切り裂かれてしまうだろう。カラーロの魔眼で針の場所を特定したリオは、右の拳を握りジャスティス・ガントレットの力を発動する。
「邪魔な針は全部吹き飛ばしてやる! アッパード・タイフーン!」
「! ほう……見事! しかし……懐が空いているぞ!」
「しまった……!」
灰色の嵐が吹き荒れ、針を上空へ巻き上げ玉座の間の外へと吹き飛ばした。障害を排除することには成功したものの、技を使用した隙を突かれてしまう。
グランザームは左の拳を握り、勢いよくリオへパンチを繰り出す。凄まじい威力を持つ一撃が放たれ、リオの胴体に風穴が空いてしまった。
「かはっ……! でも、まだ……やられないよ! シールドバッシュ!」
「くうっ……! やはり、恐るべき耐久力だ!」
しかし、リオはまだ倒れない。自身の再生能力と、イヤリングに込められた魔法の相乗効果で、みるみるうちに傷が塞がっていく。
お返しとばかりに、リオは不壊の盾をグランザームのこめかみに叩き付けながら追撃の膝蹴りを食らわせる。膝蹴りは避けられてしまったものの、イーブンの状況に戻した。
「フフフ……本当に、本当に素晴らしいものだ。貴公のその強さ、余は敬意を払おう。さあ……ここからが本番だ。冥門解放……参の獄『雪華雨爆』!」
「!? な、なに!? 上の方に雲が……」
グランザームが第三の冥門を開くと、二人の頭上……玉座の間の上部に大きな白い雲が現れた。雲は僅かに震えた後、雪の塊を落としてくる。
雪の塊はふわふわと舞いながら床に落ち……爆発した。
「ひえっ、雪が爆発しちゃった!」
「爆発の威力そのものは見た目ほどはないが……安全地帯を潰されるという恐怖を余と共に存分に味わうがよい! ツイン・スライサー!」
爆発する雪が舞い落ちるなか、グランザームはリオへ向かって突撃し、大鎌を振るい連続で斬撃を放つ。リオは横に飛んで避けようとするも、雪が落ちてくるのを見て中断した。
強引に足を止め、体勢が整わないなか盾で攻撃を受け止める。当然、そんな状況で威力を殺しきれるわけもなく、大きくよろけたところに、追撃を食らってしまう。
「くうっ……」
「さあ、反撃してみせよ! さもなくば、そっ首切り落としてしまうぞ!」
「もう、無茶苦茶ばっかり……! だったら、こっちだってやってやる! 出でよ、縛地の盾! ディスバインド・チェーン!」
リオはアイージャから受け継いだ、新たなる盾の力を呼び覚ます。左腕に装着した飛刃の盾を縛地の盾へと変え、勢いよく床に叩き付ける。
すると、床を突き破って四本の鎖が伸び、グランザームを拘束せんと向かっていく。それを見た魔王は、まるで舞い踊るかのように大鎌を振るい、鎖を切り裂く。
「この程度の数で、余を捕らえられるとでも? ムダなこと、余を捕らえたければこの十倍は必要だ」
「分かってるよ、それくらいは。それに、今回は……君を捕まえるためじゃないからね」
「何……?」
ニヤリと笑うリオの視線が向く先を見て、グランザームは彼の狙いを理解した。鎖は本当の目的を隠すための、ただの目眩ましに過ぎない。
リオの真の狙いは、小さな雪の塊が纏まって降ってきている場所に魔王を追い込むことだったのだ。鎖を使い、雪が落ちるであろう場所へ誘導したのである。
「くっ、流石にこの数は……!」
降ってくる雪の塊、その数八つ。いくらグランザームといえども、それだけの数の爆発をまともに受ければただでは済まない。
雪の塊を避けようとするも、すでに背後と左右は再生した鎖に鬱がれてしまっている。唯一の逃げ道は正面だが、揺れる鎖に紛れ、そこへリオが飛び込む。
「逃がさないよ、グランザーム! そのまま爆発に巻き込まれちゃえ!」
「フッ……クハハハハ!! 素晴らしい、素晴らしい知略だぞリオよ! だが……逃げ道を塞ぎに来たのは、悪手だったな!」
そう叫ぶと、グランザームは空いている左手を伸ばしリオの首を掴む。逃げ道がないのならば、とるべき手段は一つ。リオを道連れにし、爆発のダメージを分散させる。
「くっ、ううっ!」
「さあ、どうする? この状況、どう切り抜けるのだ、リオよ」
「切り抜ける? そんな必要はないよ。だって、僕は捕まっていないもの」
グランザームは捕らえたリオにそう声をかけるも、声が返ってきたのは目の前からではなかった。少し離れた場所に、捕らえたはずのリオがいた。
「バカな! 貴公はこの手で捕まえたはず!」
「残念だったね。鎖で一瞬、姿が隠れた時に分身を作っておいたのさ。いくらなんでも、あの場面で突撃するのは危険だったからね」
……そう。リオは鎖を揺らし、自身の姿を隠しながら分身を作り出しグランザームの退路を塞がせに向かわせたのだ。相手が、退路を塞ぎに来た自分を捕まえにくるだろうと見越して。
「……見事だ。一瞬でここまで閃くとは。ならば、余も……そろそろ本気を出させてもらおう」
歓喜の表情を浮かべながら、グランザームは大鎌を振るう。鎖も、雪の塊も、リオの分身も……全て、切り裂かれて消滅してしまった。
魔王は最初から、危機に陥ってなどいなかったのだ。その気になれば、こうして全てを切り裂いてしまえるのだから。
「さあ、もっとその力と知恵を余に見せるのだ! リオ!」
「望むところだ! 切り札はまだまだある、負けないよ!」
二人はそう叫びそうながらぶつかり合う。戦いは、まだ終わらない。




