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30話―英雄への第一歩

「ぐ、うう……また、私は……敗れた、のか……」


 地に落ち、うつ伏せに倒れたザシュロームは悔しそうに呟く。彼の脳裏には、主君である魔王グランザームから言われた言葉が浮かんでいた。


 魔神の力に執着するな、今のお前では盾の魔神には敵わない。その言葉が現実になったことに、ザシュロームはただ自虐的な笑みを浮かべることしか出来なかった。


「く、はは……やはり、あのお方の言う通りになったか。私は……愚かだ」


 そう呟いた直後、ザシュロームの視界が反転し青空が広がる。アイージャが彼の身体を蹴って向きを変えたのだ。


「ふむ、まだ息があるとは。リオよ、どうする? 望みとあらばここでトドメを刺すが」


「その必要はないよ、ねえ様。僕には分かる。ザシュロームはもうすぐに死ぬ。だから、その前に聞きたいことがあるんだ」


 ザシュロームにトドメを刺そうとするアイージャを止め、リオはしゃがみ込む。ザシュロームの目を見ながら、問い掛けを発した。


「ザシュローム。一つ聞きたいことがあるんだ。どうして君は、そこまで魔神の力に執着するの?」


「フッ、知りたいか? いいだろう。どうせ死ぬ身だ。最後に土産をくれてやる」


 そう言うと、ザシュロームは顔を隠していた布を取り去り、口から血を吐いた後話し出す。何故、ここまで魔神の力を手に入れようとしていたのかを。


「私は……求めていたのだよ。創世神に挑み、後一歩のところまで追い込んだ魔神の力を。我らが主君の目的はただ一つ。地上の全てを支配し……神の座を奪うこと」


 ザシュロームの口から語られた魔王の目的に、リオたちは絶句してしまう。驚く彼らを見て、ザシュロームはしてやったりといった笑みを浮かべた。


「神の座を……奪う? そんなこと、出来るわけが……」


「出来るさ。七人の魔神の産みの親……始祖の魔神ベルドールもまた神の一人。ならば、その力を継ぐ者の力を得られれば、創世神を打ち破ることもまた出来るはず!」


 困惑しながら否定の言葉を口にするリオに、ザシュロームは声を荒げる。気力を振り絞って上半身を起こし、リオを指差しながら怨嗟の言葉を連ねる。


「貴様さえ……貴様さえ倒せていれば! その力を我が物とし、魔王様に差し出すことが出来た! いや、他の魔神どもも……」


「もうよい。黙れ下郎が」


 ザシュロームの言葉を遮り、アイージャが彼の身体を踏みつける。鎧を解除してアムドラムの杖を向け、冷酷な殺意を宿す瞳で傀儡道化を睨み付けた。


「先ほどから貴様の言葉には虫酸が走る。貴様らは我ら魔神をなんだと思っている? 我らは都合のいい兵器ではない! この大地に生きる生命だ!」


「そうだよ! 僕だけをバカにするならともかく……お前はねえ様や他の魔神もバカにしたんだ! それは許さないぞ!」


 アイージャだけでなく、リオも怒りを爆発させる。それまで黙っていたカレンが金棒を地に降ろし、リオたちに声をかける。


「……なあ。そろそろこいつを始末しねえか? もう聞きたいことも聞き終えただろ?」


「妾は賛成だ。このようなクズなど生かしてはおけん。リオよ、お主の判断に任せるぞ」


 二人にそう言われ、リオは決断を迫られる。考えを纏めていると、たくさんの足音が近付いてきた。その方向に目を向けると、冒険者たちを引き連れたダンテが現れる。


 リオたちに加勢するべく広場にやってきたが、すでに決着がついていることを知り、ダンテは肩を竦める。出遅れてしまったことを悔やみながらも、リオに声をかけた。


「よう。わりいな、間に合わなかったか。しかしまあ、オレたちが着く前に親玉を倒しちまうなんて、本当にたいした奴だよ、お前は」


「ありがとう、ダンテさん。助けに来てくれただけでもありがたいです」


 二人がそんな会話をしている間、ザシュロームは力尽き再び横たわる。その時だった。空を黒雲が覆い、ゴロゴロという不気味な音が響き始める。


 突然の天候の悪化にリオたちが訝しむなか、ザシュロームだけが理解した。魔王グランザームによる、敗者への粛清が行われるのだと。


『ザシュロームよ。余の忠告を無視し無様に敗北するとは。情けない男だ。貴様には失望したぞ』


「この声は……!? まさか、魔王……!?」


 黒雲の中から響いてきた不気味な声に、リオたちは驚きをあらわにする。ただ一人、ザシュロームだけがこれから何が起こるのかを理解していた。


「申し、訳ありません……。このザシュローム、返す言葉も……」


『ならば、受け入れるがいい! 苦痛に満ちた死の制裁を!』


「みんな、離れて!」


 何かよくないことが起こる。直感でそれを理解したリオが叫んだ直後、雷が黒雲から放たれた。雷はザシュロームの身体を貫き、その命を奪う。


「ぐ、が……カハッ」


 雷に撃たれたザシュロームは息絶え、黒い煙となって消滅していった。その様子を唖然としながら見ていたリオに、魔王の声が届く。


『お前が新たなる盾の魔神か。余は魔王グランザーム。全ての魔を統べる王なり』


「グランザーム! 雲の中になんか隠れてないで姿を見せろ!」


『ククク、それは出来ぬな。余の本体は魔界にいる。この雲はただの分身に過ぎぬのだよ』


 姿を見せろと叫ぶリオに、グランザームは余裕に満ちた言葉を返す。雲がうごめき、顔のような模様を作り出しながらグランザームは言葉を続ける。


『生憎、この分身ではこの場にいる者たちを滅ぼすだけの力はない。今は退こう。だが……我が野望を阻まんとするならば、いずれ相応の報いは受けてもらうぞ、盾の魔神よ』


「やれるものならやってみろ! お前が僕たち魔神を利用しようとしてるのは聞いた! でも、そんなことは絶対にさせない! 必ず魔界に乗り込んで、お前をやっつけてやる!」


『大きく出たな。いいだろう、ならば……貴様が我が居城へ訪れる日を楽しみにしておこう。最も……残る五人の幹部を打ち倒せればの話だがな! クハハハハハハハハ!!』


 笑い声を響かせながら、グランザームの分身である黒雲は消え去った。危機が完全に去った後、誰からともなくリオを讃える万歳三唱を始めた。


 魔王の刺客を退け、帝都を脅かす脅威を討ち滅ぼした――その事実に、冒険者たちは改めてリオの実力を感じ尊敬の念を抱く。ダンテは彼らを代表し、リオに感謝の言葉を送る。


「ありがとよ、リオ。お前さんのおかげでこの街は救われた。しかしまあ、たった三人で魔族の軍勢を退けちまうたあ、魔神ってのはすげえもんだな!」


「ふっ、当然だ。リオは妾の力を受け継いだ、新たなる希望の星なのだからな」


 得意げな顔をしたアイージャが答え、ひょいとリオを持ち上げ肩車する。リオは冒険者たちに手を振り、彼らの歓声に答えた。


「よし、ギルドに戻るぞおめえら! パーティーのやり直しだ! それもただのパーティーじゃねえ。ド派手なやつをやるぞ!」


「おおー!」


 ギルドへ戻っていくダンテたちについていこうとするカレンとアイージャを、リオが引き留める。アイージャの肩から降りたリオは、二人纏めてぎゅっと抱き締めた。


「二人とも、ありがとう。二人がいてくれたから……ザシュロームに勝てたよ。これからも、一緒に戦ってくれる?」


「おうよ! 任せときな、リオ。いつだってお前を助けてやっからさ!」


「無論、妾も力を貸そう。そのために、再びこの世に舞い戻ってきたのだから」


 カレンとアイージャも、優しくリオを抱き締め返す。そんな二人を見上げ、リオは満面の笑顔を浮かべる。二人から離れ、手を繋ぐためにそっと両手を差し出す。


「ギルドに帰ろ? 今度こそ、みんなでパーティーしようよ」


「だな。腹も減ったし、早く戻ろうぜ」


「やれやれ。いい雰囲気が台無しだな」


 三者三様の思いを口にしながら、三人は手を握り帰路へ着く。仲睦まじく歩いていく彼らは――本当の家族のようであった。


「お姉ちゃん、ねえ様」


「ん? なんだ、リオ」


「どうした?」


「僕、二人のこと……大好きだよ!」


 カレンとアイージャに向かって、リオはそう口にする。輝く笑顔に、二人も顔を綻ばせた。戦いの果てに、新たなる盾の魔神は――世界を救う小さな一歩を、踏み出した。

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[一言] ほら見ろ、言わんこっちゃねえや……。
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