290話―爆走注意! 脅威の超弩級砲塔列車!
翌日、朝日が昇る頃に起床したリオたちは手早く準備をして町を経つ。南へと進んでいき、第二の要塞……そして、その先にそびえる魔王の城を目指す。
まだ朝もやの晴れぬなか、一行はどんどん先へ進んでいく。森を抜け、草原を越えていくと、何もないだだっ広い荒野にたどり着いた。
「なんにもないね。岩ばっかりだ」
「ここを越えれば、第二の要塞にたどり着けます。そこを攻略すればもう、魔王の城も……?」
「ふーちゃん、どうしたの?」
「……何かが近付いてきます。とても大きな何かが……」
荒野の向こうから、何かが近付いてくるのを感知したファティマが怪訝そうな顔をする。その間にも、地を這うようにして伸びてくるものがあった。それは……。
「なんだありゃ?」
「あれは……線路? よく鉱山でトロッコを動かす時に使う……」
「いや、デケエよあれ!?」
リオたちの方に向かって、とんでもなく大きな線路がひとりでに伸びてきたのだ。レール間の幅も広く、家一軒がすっぽり入ってしまうほどあった。
そして……線路が伸びてきたとなれば、その上を走ってくるものは一つしかない。少しして、けたたましい汽笛の音を響かせながら、ソレは現れた。
「な、なんだありゃ!? 超でけぇぞあの列車!」
「それに……大砲もいっぱいだね。なるほど、アレが次の要塞……要塞なのかな?」
カレンは目を見開いて驚き、ダンスレイルも疑問符混じりにそう呟く。線路の上を走ってきたのは、規格外の大きさを持つ超弩級の砲塔列車だった。
遠くからの目測でも、高さは二十メートル、幅は十メートルほどはある。正面しか見えていないため長さは分からないが、かなりの長さもあるだろう。
「アレが次の要塞かよ……前のヤツとは別の意味でやべえだろ、どうやって破壊すんだ?」
「分かんないけど……とりあえず、空に逃げよう!」
ダンテがぼやくと、リオはとりあえず上空へ向かい轢き潰されないようにしようと進言する。カレンはダンスレイルに、レケレスはダンテに担がれ、空へ飛び上がる。
上空から見下ろすことで、要塞列車の全貌を把握することが出来た。列車は四両で編成されており、巨大な蒸気機関車に牽引された客車型の砲台車両が二両、車掌車型の車両が一両。
以上の計四両からなる、移動要塞の偉容を見てリオたちは頭を悩ませる。列車全体が車掌車から発せられているバリアに包まれており、容易く侵入出来そうにないからだ。
「リオよ、どうする? アレを攻略するのは中々に骨が折れそうだぞ」
「そうだね……まずはあのバリアをなんとか……あれ? 先頭の列車の上に、誰かいるよ」
どうやって超弩級列車を攻略するか考えていたリオは、ふと機関車の煙突の上に人が立っていることに気が付いた。赤いローブととんがり帽子を身に付けた、女だ。
「うふふ。ゾームが戻らないから変だと思って来てみたけれど……やっぱり、倒されていたようね。素晴らしいわ。あたしも楽しみたくなっちゃった」
上空にいるリオたちを見ながら、女……黒太陽の三銃士の一角、レヴィアは嬉しそうに呟く。同志ゾームが敗れたのは残念だったが、それ以上に……彼女の闘志はたぎっていた。
主たるグランザームが大魔公に成り上がった時代から共に家臣として仕えてきた仲間を打ち破ったリオの実力を、自分の目でようやく見ることが出来るからだ。
「さて、始めましょうか。あのコは……あたしのいる機関室まで来られるかしら。さあ、出発の時間よギア・ド・トリアスタ! 地平線の彼方まで、爆走しなさい!」
そう叫んだ後、レヴィアは手にしている杖を煙突に勢いよく叩き付ける。すると、けたたましい汽笛が鳴り響き、煙突から黒煙が吹き出す。
レヴィアは機関車……ギア・ド・トリアスタの内部、機関室へ転移し高みの見物を始める。まずは、リオたちがここまで到達出来るか試すつもりのようだ。
「おい、いきなり線路が曲がったぜ。横向きになって何するつもりだ?」
「分からんが……何やら、嫌な予感がするわい」
ギア・ド・トリアスタは速度を上げ、前方に魔法の線路を敷設しながら進んでいく。真っ直ぐリオたちの真下を目指すかと思いきや、途中で急カーブし車体の側面を向ける。
カレンとアイージャが訝しんでいると、真上を向いていた計四十の砲身が、一斉にリオたちの方へ向けられた。そして、大火力による砲撃の嵐が巻き起こる。
「撃ってきた! みんな避けて!」
リオの叫びを合図に、九人はバラバラに散会し砲撃の嵐から逃れる。客車の屋根に設置された砲台が動き、リオを優先的に狙い砲弾を放つ。
「うひゃあ、こりゃ凄いや! こんな兵器、見たことないよ!」
「そう感心している場合じゃありませんわよ、師匠! これからどう戦いますの!?」
ド迫力の砲撃を見て感動しているリオに、近くまで逃げてきたエリザベートがツッコミを入れる。リオは真面目な顔つきになり作戦を思案し出す。
全四両の車両全てがバリアに守られており、砲身の先端部分のみが僅かに外に露出している。列車は高速で移動しているため、砲台に外から攻撃を当てるのは難しいだろう。
故に、リオは考えた。まずはバリアを解除し、車両の内部に潜り込めるようにする。その後、内部から砲台を破壊し攻撃手段を奪う。最後に、先頭の機関車を破壊し完全沈黙させる。
これが、超弩級砲塔列車へ対抗するための作戦だった。リオは作戦をエリザベートに話し、全員に伝えるよう指示を出す。
「エッちゃん、みんなに作戦を伝えて! まずは……あのバリアを作ってる元を叩く!」
「かしこまりましたわ!」
エリザベートが離れた後、リオは懐からカラーロの魔眼を取り出し左目に装着する。バリアを形作る魔力の発生源を探り、暴くためだ。
少しして、リオは車掌車の中で膨大な魔力が作られているのを見つけた。恐らく、あの中にバリアを作り出す元があるのだろう……そうアタリをつける。
「見つけた! あそこだ! でも、どうやってあそこに入ればいいんだろう……」
「リオ! 話はエリ嬢から聞いたぜ! ここは……」
「私に任せてー! おとーとくん!」
そこへ、エリザベートから作戦を聞いたダンテとレケレスが砲撃を避けながらやって来た。そして、自分たちが考えた案をリオに話す。
彼らの作戦はこうだ。他の仲間に協力してもらい、砲弾を自分たちの元へ誘導してもらう。そして、ダンテの突風で砲弾を弾き返し、バリアが弱まったところにレケレスの毒をぶつける。
バリアを溶解し、隙間を作ってそこからリオたちに侵入してもらう……それが、二人の立案した策だった。
「どうかな、おとーとくん」
「いいね……! それなら、手っ取り早く侵入出来そう!」
「って言ってくれると思ってよ、もう他の連中には話してあるんだ。もう準備は出来てるぜ!」
リオが賛同すると、ダンテがそう答えつつ指を差す。その方向を見ると、アイージャたちがちょこまか飛び回り、ダンテたちの方へ砲撃を誘導していた。
「ダンテ、そっちに行ったぞ!」
「おう、分かった!」
いくつもの砲弾が、真っ直ぐリオたちの方へ向かって飛んでくる。ダンテはレケレスを肩車し、両手に風の渦を作り出し身構えた。失敗すれば、三人とも死ぬ。
故に、タイミングを外すことは許されない。
「ダンテにーちゃん、いつでもいけるよ!」
「おう、しっかり魔力練っとけよ、レケレス。あのバリアを、ブチ破ってやれ! ……いくぜ、ストームリフレクター!」
ダンテは両腕を前に突き出し、突風の壁を作り出す。砲弾は風に飲まれ、元きた方向へ撃ち返される。列車を守るバリアにぶつかり、守りが弱まった。
「今だー! ポイズン・アームハンマー!」
レケレスはすかさず前方に巨大な毒液の塊を作り出す。塊の中から長く太い腕が現れ、勢いよく拳がバリアに叩き込まれた。砲弾と毒の拳を受け、バリアに人一人が通れるくらいの小さな穴が空く。
「リオ、行け! 多分、そう長くは空いた状態を維持出来ねえ。塞がる前に飛び込んじまえ!」
「分かった! それっ!」
リオは猛スピードで突撃し、バリアが修復される前に内部へ飛び込むことに成功した。車掌車の外壁を破壊し、車内へと侵入する。外と内、二方面からの攻撃の始まりだ。
「……あら、お早いこと。もう中に入ってきたのね。いいわ、とっても……ゾクゾクしちゃう」
列車内へのリオの侵入を感知し、レヴィアは妖艶な笑みを見せる。魔力を放出し、砲台の攻撃を激化させつつ、さらに列車を加速させる。
一騎討ちの邪魔をされないように、リオ以外の敵を一気に殲滅するつもりなのだ。
「さあ、おいで子猫ちゃん。あたしが遊んでア・ゲ・ル」
魔女は、ニヤリと笑った。




