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267話―最後の竜騎士

 無数の竜の群れと四竜騎を打ち倒し、生き残った者たちは広場に集まり勝利を祝い、命を落とした者たちへ黙祷を捧げる。リオとエリザベートも、その中にいた。


 しかし、ダンスレイルはただ一人警戒を怠っていなかった。アイージャたちが戻ってくるまでは、油断は出来ない。最後の敵、オルグラムの存在を忘れていなかった。


(……おかしい。あれからかなり時間が経ったのにアイージャたちが戻らないとは。これは……考えたくはないが、敗北した可能性を考慮しないといけないね)


 最悪の事態を予想し、ダンスレイルは内心そう呟く。そして、その予想は的中してしまった。にわかに空が分厚い雲に覆われ、太陽が隠される。


 ゴロゴロと雷鳴がとどろき始め、ピリピリとした空気が広がっていく。その場にいた全員が、不穏な気配を悟った。そして――最後の竜騎士が、降臨する。


「……なるほど。ノーグとディーナも敗れ去ったか。悲しいことだな、我が子同然に思ってきた者たちを失うのは」


「……オルグラム! アイージャたちはどうした!」


 配下の騎士たちの死を嘆くオルグラムに、ダンスレイルが問いかける。オルグラムは腰にぶらさげた計十個ある封印の結晶のうち、二つに触れた。


 すると、空中に二つの映像が投写される。戦いに敗れ、傷付き封印されたアイージャとファティマの痛々しい姿が衆目の目に晒された。


「この通り、狩らせてもらった。残るはお前たちと、この場にいない剣の魔神のみ。残る四つの結晶が、お前たちを収監したくて疼いているぞ」


「う、嘘……嘘だよ……。ねえ様たちが負けるなんて、そんなことあるわけない……」


 オルグラムの口振りから、アイージャとファティマのみならず、カレンたちもが敗れ封印されているという事実を突き付けられ、リオは呆然とした様子で呟く。


 どんな時も、知恵と力と絆を以て強敵たちに打ち勝ってきたアイージャたちが敗れるなど、リオには想像すら出来ないことだったのだ。


「呆けている暇があるか? 盾の魔神よ。ほら、もう手が届く」


「え?」


「師匠! 危ないですわ!」


 次の瞬間、オルグラムは目にも止まらぬ速度でリオの背後に回り込む。首筋に手刀を叩き込み、気絶させて無力化し、そのまま封印しようとする。


「させない!」


「うわあっ!」


 間一髪、そこへダンスレイルが飛び込み事なきを得る。生き残ってい兵士たちは、リオたちを逃がすため各々武器を手に取りオルグラムへ飛びかかっていく。


「魔神の皆さん、ここは我々に任せて逃げてください! あなたたちを失うわけにはいきません!」


「でも!」


「リオくん、行くよ! エルトナシュアまで逃げるんだ! 聖礎まで逃げれば、奴も追っては来られない。消耗した状態では、奴には勝てないよ!」


 自ら囮となり、死を覚悟してリオたちを逃がそうとする兵士たちの意を汲み、ダンスレイルはリオとエリザベートを連れ撤退しようとする。


 しかし、そう簡単に獲物を逃がすほどオルグラムは甘くない。竜の牙と爪で作られた剣を呼び出し、天に掲げた。すると、雷鳴がとどろき、剣に雷が落ちる。


「逃がしはせん! 我が主君の敵、その全てをここで封ずる! 剛魔覇竜剣よ、雷を纏い真の力を解放せよ!」


「臆するな! かかれぇ!」


 バチバチと電撃がほとばしり、刀身が黄金の輝きを放つ。オルグラムは剣の柄を両手で握り締め、勢いをつけて地面に突き刺した。


「ドラゴニック・サンダーカノン!」


「で、電撃が……うわあああ!」


 剣が深々と地面に突き刺さるのと同時に、電撃がドーム状に弾け兵士たちに襲いかかる。恐るべき雷の力の前に、突撃した兵士たちはなすすべなく消し炭にされてしまった。


 残る兵士たちはそれを見て、心が折れてしまう。自分たちでは時間稼ぎすら出来ない。絶対的な力の差を見せ付けられ、そう悟ってしまったのだ。


「ひ、ひいぃ……」


「あ、あんな化け物、止められるわけねえよ……!」


「情けない奴らめ。まあよい。お前たちが何もしないのなら、私は魔神たちを捕まえるとしよう」


 そう呟くと、オルグラムはリオを抱えて逃走するダンスレイルとエリザベートを見据える。すでに彼女たちは空へと舞い上がっており、追い付くのは困難に見えた。


 が、オルグラムにとって問題は何もない。剣を引き抜き、両足に力を込めて斜め前方へジャンプする。あっという間にダンスレイルたちに追い付き、進路を阻む。


「なっ!?」


「は、速い! まずい、止まらな……」


「ようこそ、我が腕の中へ。そして、さようならだ!」


 猛スピードで逃走していたダンスレイルとエリザベートは、ブレーキをかけるのが間に合わずオルグラムへ突っ込んでしまう。黄金の刃が煌めき、三人を一気に仕留めようとする。


「こうなれば……エリザベート、リオくんを頼んだよ!」


「わああっ!」


「きゃあっ!」


 回避も防御も間に合わず、仮に間に合ったとて意味を為さないだろう。そう悟ったダンスレイルは、リオをエリザベートの方へ投げた後、二人を翼で地面に叩き落とす。


 せめて、二人だけでも凶刃から逃がしたい。魔神の長女としての使命とリオたちへの愛が、土壇場で二人を救ったのだ。


「ダンねえー!」


「これで……希望は、繋いだ……よ……」


 リオたちを何とか逃がすことが出来たダンスレイルは、腹を貫かれながらも安堵の笑みを浮かべる。遥か下の地面へ落ちていく二人を見ながら、オルグラムは静かに呟く。


「たいしたものだ、己を犠牲にして仲間を逃がすとは。だが、何をしても無意味だ。私の手で狩られる運命は変わらない」


「いいや、変わる……さ……。お前の、思い通りには……なら、な……い……」


 力尽きたダンスレイルは、結晶の中に封印された。これで、残るはリオとエリザベート、そしてエルカリオスの三人のみとなってしまった。


 剣に付着した血を払い、オルグラムは眼下に広がる破壊されたテンルーの街並みを見下ろす。すでにリオたちの姿はなく、どこかに隠れたようだ。


 地へと降り立ったオルグラムは、逃亡を防止するための結界を張り巡らせてリオたちが聖礎エルトナシュアへ逃げられないようにしてしまう。


「さて、かくれんぼの始まりだな。必ず見つけ出してやろう。クックックッ……」


 剣を鞘に戻し、オルグラムは悠々と歩き出す。最後の魔神たちを狩るために。



◇―――――――――――――――――――――◇



「……ダメだ、界門の盾が使えない。多分、結界が張られたんだと思う」


「困りましたわね、界門の盾が使えないとなると逃げる手段がほぼなくなってしまいますわ……」


 ダンスレイルのおかげで難を逃れたリオたちは、戦いで破壊された教会の中に逃げ込み息を潜めていた。リオは界門の盾を使って聖礎へ逃げようとするも、結界により阻まれてしまう。


 リオはまだ完全に傷が癒えておらず、まともに戦うことは出来ない。エリザベート一人の力だけでは、オルグラムから逃げ延びることは不可能だ。


「せっかく、エルカリオス様から剣を継ぎましたのに……わたくしでは、あの男を倒せませんわ。今の、わたくしでは……」


「エッちゃん……泣かないで。エッちゃんはたくさん頑張ってくれたよ。エッちゃんが助けてくれたから、僕は今生きてるんだ」


 ダンスレイルたちを助けるだけの力もなく、リオを安全な場所に逃がすことも出来ない。己の不甲斐なさを嘆き、エリザベートは涙をこぼす。


 リオはそっとその涙を拭い、優しく慰めの言葉をかける。このまま見付からなければ……リオが抱いた淡い幻想は、木っ端微塵に粉砕された。


「見つけた。こんな場所に隠れていたとはな。神の名を冠する者が、教会に逃げ込むとは面白い」


「! み、見つかった……! こうなったら!」


 気配を探知したオルグラムが、教会に現れたのだ。リオはせめてエリザベートだけでも逃がそうと、ジャスティス・ガントレットの力を使い壁に穴を空ける。


 が、すぐに電撃の膜が張られ、せっかく作った逃げ道を塞がれてしまった。


「言っただろう? 逃がさないと。お前たちを封印すれば、残るは剣の魔神のみ。さあ、大人しく狩られるがいい」


「絶対に、諦めるもんか! 僕は、絶対にお前なんかに屈しないぞ!」


 全ての退路を絶たれてなお、リオは心を奮い立たせる。相討ちになってでも、オルグラムを仕留める。そう決意し、盾を呼び出そうとしたその時。


 ――救いの手が、差しのべられた。


「よく頑張った、リオ。そしてエリザベートよ。ここからは……全て、私に任せろ」


「あ、ああ……この、声は……」


 直後、教会の外に大きな火柱が降り注ぐ。炎が霧散すると、そこには……完全武装したエルカリオスが立っていた。頬は痩け、顔色は悪かったが――その目には、闘志が宿っている。


「ほう、これはこれは。自ら狩られに来てくれるとは手間が省けるな」


「ほざけ、三流。我が弟妹たちを手にかけた報い、受けさせてやる。覚悟するがいい」


 オルグラムを睨みながら、エルカリオスは剣を構える。最後の戦いが、始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダンスレイルもやられたか…… エルカリオス……最後の花道だ。派手に暴れてやれいッ!!
[一言] ついに始まってしまうか( -д-)これが最強の魔神の最後の戦いになるだろうΣ(゜Д゜ υ)
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