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239話―語られる真実

 魔力が底を突き、よろよろと座り込んだグレイガは、ポツポツと話し始める。十三年前に起きた出来事と、自身の身の上についてを。


「……オレがフラスコの中の小人(ホムンクルス)だってことは話したろ? オレはな、今から二十年前……グランザーム様によって造られたフラスコの中の小人(ホムンクルス)の最後の生き残りなのさ」


「最後の……?」


 リオがそう尋ねると、グレイガは頷く。


「かつて、オレたちは新世代の兵士としてグランザーム様たちに造り出された。その頃は兄弟が三十人はいたさ。でもな……オレ以外、生き残ることが出来た奴はいなかった」


 そう語るグレイガの口調は、これまでの強気で不敵なものではなく、弱々しく哀しみに溢れていた。リオはどう反応していいか分からず、押し黙ることしか出来ない。


「悲惨なもんだったさ。一人、また一人……フラスコの中でもがき苦しみながら死んでいった。一人ずつ別のフラスコの中にいたから、オレは見てることしか出来なかった。だから……オレは決めたんだ。何があっても、仲間は大切にするってな」


 死にゆく兄弟たちをただ見ていることしか出来なかった男の、小さくも大きな決意。それを聞いたリオは、ふと疑問を抱く。


 先ほど勝利の喜びに沸いていたグレイガは、これまで倒れていった幹部のうち、ガルトロスの名前だけ言わなかったからだ。


 そのことを尋ねると、グレイガは嫌悪感をあらわにし、吐き捨てるように答えた。


「あいつか。あいつは最低のクズだ。あの野郎の所業は、魔族から見てもひでえもんだったさ。十三年前、あいつが何をしたか教えてやるよ。あいつはな、自分の親と国民を皆殺しにしたのさ」


「え……?」


「当時、オレは密かに魔王軍に通じてたガルトロス……あいつと協力してリアボーン王国を陥落させる任務についてたんだ」


 驚くリオに、グレイガは当時の出来事を語り始める。配下である(デストル)ファイブを率い、リアボーン軍を滅ぼしたのは確かにグレイガ自身だったと言う。しかし……。


「誓っておくぜ。オレも部下も武力を持たない民間の奴らを一人として殺しちゃいねえ。だがな、ガルトロスは躊躇なく殺した。自分の国の民をな」


「ガルトロス……」


 かつて対峙した兄を思い出しながら、リオは拳を握る。そんなリオを見ながら、グレイガは後悔を込めた声で話を続けた。


「あいつは別の部隊に支給された魔法具を盗んでやがったんだ。それを使って、自国民を殺して回ってた。『もうこんなゴミどもには価値はない』……そんなことを言いながらな。オレはやめさせようとしたが、あの野郎はオレにまで魔法をぶっ放ってきやがった」


 グレイガの口から語られる実の兄の蛮行に、リオは心の中で怒りが燃え上がるのを感じていた。すでに倒した相手ではあるが、地獄で報いを受けることを願う。


 そんな暗い感情を抱いているのを察したのか、グレイガは薄ら笑いを浮かべる。グレイガもまた、リオと同じ思いなのだろう。


「オレは当時、リアボーン王を生かして捕まえるつもりだった。聖礎エルトナシュアに至るためのカギの情報を持ってる可能性があったからな。だが、オレが王宮に出向く前にガルトロスは殺しやがったのさ。両親をよ」


「……兄さん」


 グレイガの言葉に、リオはただ一言呟くのみだった。かつて垣間見た過去の世界では、両親は幸せに暮らしていた。その幸福を奪ったかつての兄に、リオは何を思うのだろう。


「……だから、オレはあいつだけは仲間と認めはしなかった。平然と仲間を殺すような奴だけは……オレは許せなかったんだよ。仲間のいない孤独を知らない、愚かな奴はな」


 そう言うと、グレイガは立ち上がる。ある程度魔力が回復したらしく、全身に力がみなぎっていた。両のまなこで真っ直ぐリオを見つめながら、不敵に笑う。


「さて、これで昔話は終わりだ。そろそろ……決着を着けようぜ。盾の魔神……リオ」


「……そうだね。いつまでもここにいるわけにもいかないし。ビーストソウル……リリース!」


 リオは獣の力を解き放ち、ネコの化身となる。両腕に氷爪の盾を装着し、グレイガと向かい合う。相手はすでにツイン・デストラクションの発射体勢に入っていた。


 ()るか、()られるか。先に隙を見せた方が敗北する。互いに見つめ合い、必殺の一撃を放つ瞬間が訪れるのを待ちながら、リオとグレイガはジッとしていた。


「……今だ! アイスシールド・スラッシャー!」


「ツイン・デストラクション!」


 少しの間の後、二人は互いに全力を込めた奥義を放つ。全てを消滅させる魔力の塊が、リオに襲いかかる。リオはあえて避けずに、真っ直ぐ突撃していく。


 そして、左腕を突き出し、氷爪の盾により分厚い氷を纏わせ始める。腕一本と盾を犠牲にし、ツイン・デストラクションを凌ぎきるつもりなのだ。


「ムダだぜ! これまでとは違う全力全開のツイン・デストラクションだ、そう簡単には凌げねえ!」


「凌いでみせるさ! 僕には、帰りを待ってるたくさんの仲間たちがいるんだ! みんなのためにも……ここで! 負けるわけにはいかないんだ!」


 そう叫びながら、リオは突進する。目にも止まらぬ速度で厚みを増していく盾が、魔力の塊にぶつかった。触れた部分から侵食され、消滅していくなか、リオは負けじと盾を復元させる。


 が、それでもツイン・デストラクションの勢いの方が上回っており、とうとう腕も消え始める。またもや敗れるかと思われたその時、リオは左腕をおもいっきり横へ振ろうとする。


「てめえ……まさか、ツイン・デストラクションを振り払うつもりか!? 無理だぜ、てめえの力じゃ、魔力の塊を振り払うことはなあ!」


「出来るさ! 僕は一人じゃない! このジャスティス・ガントレットには……みんなの思いが、力が宿ってるんだ! グレイガ、お前の相手は僕一人じゃない……魔神全員なんだ!」


 盾受けは不可能だと悟り、リオは遠くへ魔力の塊を弾き飛ばす作戦に切り替えた。嘲笑うグレイガに対し、リオは大声でそう叫ぶ。


 次の瞬間、グレイガは見た。リオを後ろから支える、アイージャやカレン、ダンスレイルにクイナ、ダンテ、レケレス、エルカリオス……残る魔神たちの幻を。


(なんだ……オレの目がおかしくなったのか? こんな、幻影を見るなんて……)


 有り得るはずのない光景を目の当たりにし、グレイガの集中力が途切れる。それが、彼の明暗を分けた。リオは全力で左腕を振り払い、腕を犠牲に魔力の塊を弾き飛ばすことに成功したのだ。


 そのまま全速力でグレイガに駆け寄り、残った右腕を勢いよく振りかぶり、トドメの一撃を相手へと叩き込む。


「ハッ! しまっ……」


「これで終わりだ! アイスシールド・スラッシャー!」


 氷の爪がグレイガの身体を切り裂き、両断してみせる。爪に宿るリオの魔力が、グレイガの再生を阻害し確実に死へと追いやっていく。


 敗れたグレイガは、小さく呻きながら崩れ落ちた。


「ぐっ、かはっ……。やられたぜ、最後の最後で……ヘマするたぁ、オレもまだ弱い、な……」


「そんなことないよ。僕は一度、君に負けた。これでようやく、イーブンになっただけさ」


 仰向けに倒れたグレイガに、リオはそう語りかける。グレイガはリオを見上げ、力なく笑う。最後の最後で敗北したものの、不思議と悔いはなかった。


「……ああ、お前はいいなぁ。なあ、リオ……仲間をよ、大切にしろよな。失くなってから、大切さに気付くんだ。何もかも、全部……よ」


 グレイガの言葉に、リオは無言で頷く。それを見たグレイガは、満足そうに目を細め……仲間の元へと旅立っていく。


「ああ……そうだ、オレも……もう、行かねえとな。あいつらの、ところによ……。でも……どうせなら……最後によ、グランザーム様に……息子みてえに、接してほしかったな……」


 そう言い残し、グレイガは息絶えた。リオは黙祷を捧げた後、彼の亡骸に手を添えつつ懐をまさぐる。少し前に、ボルグからもらった望郷の指輪を取り出し、小さな声で呟く。


「……ここに残しはしないよ。一緒に帰ろう。僕たちの大地へ」


 優しげな声でそう言い、リオは指輪に込められた帰還の力を解き放つ。淡い白い光がリオとグレイガの亡骸を包み込み……異空間から元いた世界へと、彼らを連れ戻した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ……さよならだ。『氷炎将軍』グレイガ。 誰よりも仲間を想い、家族という存在を渇望した者よ。
[一言] 作られた年と場所違いだがグランザーム製作で言えばグレイガはフィティマの兄妹筋なのかΣ(-∀-;) ガロドロスの屑も文字通り海の藻屑になった後で更に悪名上げるとは( -д-)今頃、新任の霊園…
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