237話―小さき者たちの底力!
「さて、ある程度相手の攻撃は封じたとはいえ……どう攻めるとしようか」
「……? ……?」
リーズのおかけでアッパーヤードの戦力を削ることが出来たものの、相変わらず戦力差は大きかった。魔物使いたちの数も減ってしまっており、長期戦は厳しいだろう。
フィンたちの勝機はただ一つ、早急にアッパーヤードを撃墜することだが、そう簡単にはいかない。相手には強力な主砲が三つもあり、最後の一つは未だどんな砲なのか分かっていないのだ。
迂闊に近寄れば、チャージを終えた主砲や他の大砲の餌食になってしまう。どうやって要塞に近付こうかフィンが考えていると、声がかけられる。
「さっきから何か考え込んでるが、どうした?」
「ああ、あなたは……いやね、どうやってあの要塞を墜とそうか考えていたのさ」
弾幕を回避しながら思考を巡らせていると、白色のワイバーンに乗った、最初にリオに声をかけてきた魔物使いの男が話しかけてくる。
フィンがそう答えると、男も考え始める。町にはまだ魔物使いたちがおり、援軍自体は来ることが出来ると言う。が、数を揃えてもアッパーヤードの突破はそう簡単にいかないことは明白だった。
「新しく来る連中は敵の切り札を知らねえからな……。そこもネックになる。どうやったらアレを倒せるんだ?」
「手段がないわけじゃない。あの要塞も、魔力で動いているはずだ。つまり、魔力を貯めておくタンクがあるはず。そのタンクに魔力を過剰に注いで爆発させれば、連鎖的に要塞全体を破壊出来ると思う」
砲撃を避けながらアッパーヤードに接近しつつ、フィンは自分の考えを述べる。戦いの間、彼女はずっと相手の魔力の流れを探っていたのだ。
その甲斐あって、アッパーヤードの内部、その奥深くに魔力が集まるタンクがあることを突き止めたのだ。タンクは無数のパイプが接続されており、要塞の各部へ魔力を供給している。
つまり、タンク内にある魔力を暴走させれば、一気に要塞を破壊することが出来るのだ。
「なるほど、中に入っちまえば……ってことか?」
「ああ。私が中で暴れて時間を稼ぐ。その間にリーズがパイプに潜り込みタンクに向かう。後は魔力を暴走させれば完了だ」
「よし、んじゃやるか。俺たちが主砲をなんとかする。後は頼んだぜ」
「何を……まさか!」
男はそう言うと、連絡用の魔法石で仲間に作戦を伝え、ワイバーンを駈りアッパーヤードへ突進していく。自分たちが捨て身の囮になることで、フィンを侵入させるつもりなのだ。
連絡を受けた魔物使いたちが集結し、一斉にアッパーヤードへ突撃していく。その中に混じりながら、男はフィンに向かって大声で叫んだ。
「俺たちが道を切り開く! お前たちは必ず! あの空飛ぶ要塞を叩き落としてくれ!」
「……! 分かった。必ず……必ずやり遂げる!」
死の恐怖を越え、魔物使いたちは一心不乱にアッパーヤードへ攻撃を加える。全ては、フィンの往く道を作るために。激しい砲撃により、一人、また一人と落ちていく。
それでも、彼らは諦めない。それぞれが愛する者たちを守るために、がむしゃらに戦っているのだ。
「ガル艦長、少しずつですが大砲の破損が止まりません! 敵を一掃しなければ、こちらが不利になります!」
「第一、第二主砲を撃て! 多少魔力が少なくとも、奴らを一掃出来るだろう。一人残らず殲滅してしまえ!」
魔物使いたちの必死攻勢を前に、アッパーヤード側も少しずつ追い詰められてきていた。三つの主砲のうち、レーザーキャノンと拡散弾大砲が再度起動する。
「主砲、発射!」
敵を滅ぼすべく、二つの主砲が同時に放たれる。それを見た魔物使いの男は、仲間たちに向かって大声で指示を出す。
「例の攻撃が来たぞ! 全員、召還用意!」
「了解! 出でよ、リフレクト・ゴーレム!」
攻撃が迫るなか、魔物使いたちはそれぞれが持つ召還指輪を掲げ、全員の魔力を使ってとある魔物を呼び出す。空中に巨大な魔法陣が現れ、その中から全身が鏡になったゴーレムが出現する。
「あれは……そうか、彼らの狙いが分かったぞ! リーズ、合図をしたら突入する。しっかり掴まっていろ!」
「……!!!」
フィンは魔物使いたちが何をしようとしているのかに気付き、リーズに声をかける。そのすぐ後、ゴーレムは落下しながら敵の放ったレーザーと砲弾へ手を伸ばす。
互いに触れあった瞬間、ゴーレムの持つ魔力によって攻撃が跳ね返された。魔物使いたちへ向かうはずだったレーザーと砲弾が、アッパーヤードへ襲いかかる。
「か、艦長! 攻撃が跳ね返されました!」
「焦るな! 第三主砲を解禁せよ! 攻撃を相殺し……なに!?」
「悪いけど、彼らの作戦は絶対に成功させる! フェザー・ブースト!」
第三の主砲が起動する前に、フィンは突風を起こし砲弾を加速させる。その結果、アッパーヤードの迎撃が間に合わず砲弾が直撃し、弾の破片が要塞を襲う。
続いてレーザーが直撃し、空飛ぶ要塞は大きな被害を被ることとなった。三つの主砲のうち第一、第二主砲は完全に破壊され、その他の砲台もほとんど大破した。
「各部魔導エンジン損傷! 出力四十パーセントダウン!」
「攻撃用の大砲破損! 損傷率七十パーセント! このままでは反撃出来ません!」
予想外の被害に、アッパーヤードのクルーたちはパニックに陥ってしまう。破損状況は深刻で、このままではエンジンが停止してしまいかねない状況だ。
「……落ち着け! まだ第三主砲は残っている! 最後の一撃を食らわせてやれ!」
ガル艦長は一喝し、クルーたちを落ち着かせる。そして、自らパネルを操作し、第三主砲を起動させる。
「よし! 作戦成こ……ん? なんだ、主砲が……」
リフレクト・ゴーレムの下に魔法陣を出現させ、送還していた魔物使いたちは最後の主砲が起動するのを見た。大砲の中から現れたのは、レーザーでも砲弾でもなく――巨大なドリルだった。
砲台から発射されたドリルは、凄まじい勢いで回転しながら魔物使いたちへ突っ込んでいく。ドリルには吸引の魔法がかけられているらしく、引き寄せられ一人ずつ肉塊にされてしまう。
「うわあああ! す、吸われ……ぎゃあああ!!」
「全員逃げろ! すでにあのスフィンクスが中に突入した、後は任せて引け!」
幸い、ドリルには追尾する能力はなく真っ直ぐに飛んでいくだけだった。魔物使いたちは吸い寄せられないよう、全速力で撤退していく。
一方、同士討ちの隙を突いてフィンは壁の亀裂から要塞の内部に侵入を果たしていた。鋭い爪で内部の壁を破壊し、タンクへ繋がるパイプを引っ張り出す。
「よし、見つけた。リーズ、私は敵の気を引き付ける。その間にタンクを破壊するんだ!」
「……!」
リーズはキリッとした表情で敬礼をした後、パイプの中にうにょーんと潜り込む。それを見届けたフィンは、刃物のように鋭い羽根を撒き散らし、陽動を行う。
「さあ、早く私を排除しないと大事な要塞が壊れるよ! 早く退治しに来たらどうだい!」
「そうさせてもらおうか。最も、迎撃に来られるのは私一人だけだがね」
フィンが挑発すると、廊下の奥から声が返ってくる。艦長であるガルが現れたのだ。
「おや、一人かい? 私も舐められたものだね」
「クルーたちは転移装置で全員魔界へ帰した。……無理矢理だったがな。この要塞と運命を共にするのは、私だけでよい」
どうやら、ガルはすでに敗北を悟っているようだ。部下たちを全員逃がし、友であったネモの二の舞にならぬよう手を打っていたようだった。
「じきにリーズがタンクの中の魔力を暴走させる。そうすれば、私たちの勝ちだ」
「だろうな。だが、我らが敗れたとて、大勢に影響はない。グレイガ様は無敵だ。敗北することはない。決してな」
勝利宣言をするフィンに、ガルは不敵な笑みを浮かべながらそう答えた。主君の勝利を確信し、揺らぐことのないガルにフィンは問いかける。
「そこまで信頼しているとはね。そのグレイガという男、強いのかい?」
「……どうせ死ぬのだ。冥土の土産に教えてやる。我が主は不死身だ。決して死なぬのだよ。何をしてもな」
そこまで言ったところで、アッパーヤードが大きく揺れる。リーズがタンク内の魔力を暴走させたのだ。パイプを通して戻ってきたリーズを回収し、フィンは脱出する。
「もう少し聞いていたかったけど、お別れだ。この要塞と共に墜ちるがいい!」
「ああ。だがな……」
最後に何かを言おうとしたガルは、パイプを逆流してきた魔力の波に飲まれ死んだ。アッパーヤードは爆発を起こしながら、緩やかに墜落していく。
その様子を見ながら、フィンはリーズと共にリオの元へ向かおうとするが……。
「……おかしい。主の気配がない。ついさっきまで、すぐ近くにあったのに……」
この時彼女は知らなかった。リオとグレイガは、この大地からいなくなってしまっていたことを。




