236話―アッパーヤードの脅威!
リオとグレイガの戦いが始まった頃、フィンは空高く上昇し天空に鎮座する飛行要塞アッパーヤードへ向かっていた。町への攻撃や掩護射撃を封じるためだ。
アッパーヤードのクルーは接近してくるフィンに気付き、大砲を起動させて砲撃を行う。それに対して、フィンは巧みな空中機動で砲弾を避け、少しずつ接近する。
「さーて、もう少しで到着するよ。リーズ、心の準備はいいかい?」
「……!!」
フィンの問いかけに、リーズは握り拳を突き上げ応える。翼を羽ばたかせ、フィンはアッパーヤードに乗り込もうとするが……。
「ガル艦長、敵が来ます」
「よろしい。なら、主砲を解禁する。撃墜せよ」
「承知しました。三連主砲起動準備!」
艦長と副艦長のやり取りの後、アッパーヤードの甲板が二つに割れスライドする。そして、艦の内部から三つの巨大な砲身と二つのアームが束ねられた主砲が現れた。
三角形に積まれた主砲のうち、フィンから見て左側にある主砲が起動し、ゆっくりと動き出す。フィンに狙いを付け、魔力のチャージを開始する。
「あれは……! リーズ、一旦離れるよ。落っこちないようにしっかり掴まってな!」
「……?」
嫌な予感を覚えたフィンは、Uターンして要塞から離れジグザグ飛行で後退する。その直後、砲身から太いレーザーが発射された。
幸い、フィンに直撃することはなく地平線の彼方へと消えていった。発射の反動でアッパーヤードは一メートルほど後退しており、その威力の高さを窺わせる。
「……凄いもんだね。あんなのまともに食らったら消し炭どころか骨一つ残らないな。さて、どうアレをかわすか……おっと!」
冷や汗を流しながら呟いているフィンに向かって、再び砲撃が行われる。主砲は再度魔力のチャージに入ったようで、ゆっくりと砲身の内部が不気味に明滅を繰り返す。
なんとか主砲に近付いて破壊しようと試みるフィンだったが、激しい弾幕のせいで接近することが出来ない。それだけでなく、砲弾によって逃げ場を誘導され、主砲の射程圏に入れられてしまう。
「艦長、後二分でチャージが完了します」
「よし、それまであのスフィンクスの逃げ場を奪え。今度こそ主砲で……ん? これは……」
主砲の発射準備を整えているガル艦長が艦橋の窓から外を見ると、無数の魔物使いたちがやって来るのが見えた。リオのおかげで生き延びた者たちが、フィンの加勢に来たのだ。
「いくぞお前ら! あの坊主とテイムモンスターだけに戦わせるなんて魔物使いの名折れだぞ! 一斉にかかれー!」
「おおー!」
リオに話しかけてきた魔物使いの男を筆頭に、グリフォンやワイバーンに乗った魔物使いたちが突撃していく。それを見て、ガル艦長は眉を吊り上げる。
「……第二主砲を起動しろ。一網打尽にする」
「かしこまりました。ですが、そうすると第一主砲にチャージした魔力を第二主砲に回さなければならなくなりますが……」
「それでいい。奴らに絶望を教えてやれ」
ガーゴイルやワイバーンが炎のブレスで砲弾を溶かしていく様子を見ながら、ガル艦長はそう指示する。レーザーキャノンの隣にある大砲が起動し、魔力がチャージされていく。
それに気付いたフィンは、他の魔物使いたちに声をかけ撤退させようとする。が、第一主砲にチャージされていた分の魔力によるブーストがかかり、先に第二主砲が起動してしまう。
「拡散魔導砲弾、撃て!」
副艦長の合図で、第二主砲が回転しフィンたちの方へ向く。そして、大きな鉛色の砲弾が発射された。砲弾は緩い放物線を描きながら、魔物使いたちの集団の中心へ飛ぶ。
「ん? なんだ? こんなもん、さっさとぶっ壊して……」
一人の魔物使いが魔法を放ち、砲弾を攻撃した次の瞬間――砲弾が弾け飛び、鋭い金属の破片となって広範囲にバラ撒かれた。不意を突かれた魔物使いたちは防ぐ間もなく、相棒の魔物ともども全身を穴だらけにされてしまう。
「ぐ……あ……」
「まさか、こんな……」
十人近い魔物使いとその相棒が倒れ、地へと落ちていく。グレイガに続いてアッパーヤードによって仲間を殺され、生き残った者たちは流石に怖じ気づいてしまう。
「や、やっぱり無理だよ……。俺たちじゃこんなヤバいのを倒すことなんて出来ないんだ……」
「そうよ、もう逃げましょう! 勝ち目なんて、私たちには最初からないのよ!」
「待て、お前らどこに行くんだ!」
戦意を喪失した魔物使いたちは、我先にと逃げ出していく。当然、ガル艦長は黙ってそれを見逃すつもりはない。砲撃の雨を降らせ、全員を一網打尽にしようとする。
「逃がしはせん。全員ここで始末……なにっ!?」
「そうはさせない! フェザーストーム!」
フィンは突風を巻き起こし、砲弾の軌道をめちゃくちゃにして同士討ちさせる。ほとんどの砲弾は互いにぶつかり合って爆発し、魔物使いたちに届くことはなかった。
「全く、情けない奴らだね。私の主とは大違いだよ。見てごらんよ、主はずっと、あんたたちにグレイガが危害を加えられないようにたった一人で戦ってるんだ!」
怒りを込めたフィンの言葉に、生き残った魔物使いたちは下の方を見る。今もまだ、リオはグレイガと激しい空中戦を繰り広げていた。
炎で焼かれ、冷気で身体を凍結され砕かれながらも、必死にグレイガ相手に応戦している。全ては、魔物使いたちや地上にある町を守るために。
「あんたたちがしっぽ巻いて逃げるってなら、それでいいさ。でもね、私とリーズは最後まで戦うよ。主のためにね!」
そう言い残すと、フィンは真っ直ぐアッパーヤードへ突撃していく。愛する主のために、死をも恐れずに。その勇姿を見た魔物使いたちは、心に勇気を取り戻す。
「……そうだ、下には俺たちの家族がいるんだ。俺たちが逃げたらみんな殺されちまう」
「そんなのはごめんだ、そうだろみんな! 敵の要塞だって、無敵ってわけじゃないんだ! 必ず、どこかに弱点がある。それさえ分かれば、俺たちも勝てるんだ!」
「そうね、分かったわ。私も、最後まで戦う!」
戦意を取り戻した魔物使いたちは、フィンに続いてアッパーヤードへ突撃する。再び砲弾の雨が襲いかかるも、ことごとく蹴散らしていく。
「ガル艦長、魔物使いたちが向かってきます」
「愚かな。しっぽを巻いて逃げていればいいものを。チャージが完了するまで時間を稼げ。その間は通常の砲撃とアームで奴らを蹴散らせ!」
第一、第二主砲共に魔力のチャージが必要であり、連射は出来ない。そのため、ガル艦長は弾幕を張り時間稼ぎをしようと目論む。
が、何度もいいようにしてらやられるほどフィンは愚かではない。リーズと連携し、敵の攻め手を奪うため逆襲を開始した。
「フン、これ以上好き勝手にはさせないよ。リーズ、あんたの力を見せてやりな!」
「……!!!」
フィンはリーズの下半身をしっぽに巻き付け、身体を反転させつつおもいっきり振り回す。リーズはうにょーんと胴体を伸ばしつつ、大砲に向かって凄まじい冷気を叩き込む。
すると、砲身の内部が凍り付き、弾を発射することが出来なくなる。砲撃手は艦内にいたため砲身の異変に気付けず、砲弾を発射してしまった。
「発射……うわあっ!?」
砲身の内部が氷で塞がれた状態で弾を撃てばどうなるか。答えは単純、暴発だ。リーズによって凍らされた大砲は暴発してしまい、アッパーヤードは戦力の三割を失った。
「何事だ!」
「ほ、報告します! 敵の攻撃により大砲が破損! 我が艦は全砲門の三割を失いました!」
「なんだと……! おのれ、このままでは済まさんぞ……必ず皆殺しにしてやる!」
グレイガより要塞を任された立場であるガル艦長は怒り狂い、外を悠々と飛ぶフィンを睨み付ける。一方のフィンは視線を感じアッパーヤードを見る。
そして、挑発するようにあっかんべーをした。飛行要塞との戦いは、佳境に差し掛かろうとしていた。




