226話―襲撃! 悪逆戦隊Dファイブ!
「みんな、大丈夫……?」
「大丈夫だよ、おとーとくん。完全に埋まっちゃったけど」
コラルの冷洞の崩落が終わり、リオたちは完全に地面の中に埋まってしまっていた。幸い、押し潰されて死ぬことはなかったが、このままでは酸欠で死んでしまうだろう。
スペースがなく界門の盾を使えないため、何とかして土砂をどかして外に出なければならない。そのため、リオはレケレスと協力して土砂を溶かし、道を作ることにした。
「おねーちゃん、僕たちで毒液を発射して脱出しよう。多分、こうすればいけると思うんだ。ごにょごにょ……」
「ふんふん、なるほど。それなら大丈夫かも!」
何を話しているのか分かっていないジールを他所に、リオは光射の盾の位置を無理矢理ズラし自分たちの下に敷く。盾の真ん中に丸い穴を開け、頭上に右手をかざし準備を完了させる。
「おねーちゃん、準備出来たよ! ジールさんも盾に乗って!」
「え? お、おう」
「よーし、いくよ! ポイズンスプラーッシュ!」
土砂を崩してしまわないよう、慎重に光射の盾に乗り込んだ後、レケレスは盾の穴から両手を出し毒液を噴射する。それと同時に、リオも頭上に向けてジャスティス・ガントレットの力を使う。
紫色の宝玉が輝き、岩石を溶かし一瞬で蒸発させる毒液が放たれ、頭上の土砂を消し去っていく。土砂が崩れてくる前に、下に向かってレケレスが毒液を噴射し上昇する。
「おおっ!? なるほど、これなら土砂が落ちてくる前に脱出出来るな!」
「もうちょっと……あと少しで地上だよ! おねーちゃん、頑張って!」
「はいはーい、いくよー!」
リオとレケレスはフルパワーで毒液を噴射し、ようやく地上に飛び出すことが出来た。勢い余って崩れた土砂の上に落下するも、幸い怪我をせずに済んだ。
「ふう。なんとか脱出出来たね。もうダメかと思ったよ」
「悪いな、オレまで助けてもらってよ」
「気にしないで。見捨てるほど僕は薄情じゃないから」
コールドスライムを撫でながら、リオは礼を言うジールにそう答える。その時、彼らの頭上、うず高く積もった土砂の上から複数の男女の声が響いてきた。
「見つけたぞ! 我らが大敵、善のしもべどもよ!」
「敵か……!? か、身体が動かない!?」
勇ましい声を聞いたリオたちは、何故か身体が動かなくなってしまう。そんなリオたちを見下ろしながら、五人組の男女は名乗りを上げ始める。
「この世に善がはびこる時……悪の意思が我らに告げる。正義のしもべを倒せと叫ぶ!」
五人組の中央にいる、真っ赤なスーツとフルフェイスヘルメットを身に付けた男がそう叫ぶと、順番にポーズを決めながら叫ぶ。
「燃え盛る炎、Dロート!」
「荒れ狂う水、Dブラオ!」
「咲き誇る花、Dグリュン!」
「とどろく雷、Dゲルプ!」
「闇照らす光、Dヴァイス!」
「我ら五人が善の栄えを許さない! 聞くがいい! 我らの名は……悪逆戦隊Dファイブ!」
五人全員が同時にポーズを決めると、彼らの背後で派手な爆発が起こる。何が起きているのか理解出来ず、リオとレケレスは固まってしまう。
一方で、ジールは彼らのことを知っているらしく、顔を青くしていた。
「ま、マジかよ……。なんであいつらが!?」
「ジールさん、知ってるの?」
「ああ。あいつらは魔王軍の幹部の一人、グレイガ直属の処刑人たちだ。最近じゃ、リアボーン王国を滅ぼしたことで恐れられてるんだ」
ジールの言葉に、リオは目を見開く。自身の生まれ故郷を滅ぼした者は、ガルトロスだけではなかったのだ。悪逆の使徒たちは土砂の山から飛び降り、リオたちの前に着地する。
赤、青、緑、黄、白……それぞれの象徴であるスーツとフルフェイスヘルメットに身を包んだDファイブの面々は、各々の武器を呼び出し構える。それと同時に、リオたちは動けるようになった。
「お前たちか、冷洞を破壊したのは」
「そうだ。あのまま生き埋めになって死んでくれていればよかったのだが、そうもいくまい。お前たちの首を、グレイガ様への手土産にせねばならんのだからな」
リオに問われ、リーダーであるDロートはそう答える。何としてもリオの首を狩る。その意思が、バイザーの向こうにある眼から感じ取れた。
「ま、アタシら五人が揃えば負けることはないさ。Dファイブは無敵の部隊。鉄壁の結束があるからね」
「その声……お前、ディシャか!?」
白色のスーツを纏った人物の声を聞き、思わずジールが問いかける。しかし、白スーツの人物は答えることなく、得物である槍を構えた。
一触即発の空気のなか、真っ先に動いたのはDファイブたちだった。リーダーであるロートが先頭に立ち、後続にグリュン、ゲルプ、ヴァイスが続き、最後尾にブラオが陣取っている。
「ゆくぞ! 悪逆の力を見せつけるのだ!」
「おおっ!」
「来るよ、おねーちゃん!」
三対五という不利な状況の中でも怖じ気付くことなく、リオは両腕に飛刃の盾を装備しレケレス、ジールと共にDファイブの面々を迎撃する。
リオがロートとグリュン、レケレスとジールが残る三人を相手どり各個撃破していく、という作戦を立て実行に移す。が、リオたちは知らなかった。彼らの恐るべき連携を。
「フッ、たった一人で我らを倒せると思うか! グリュン、やるぞ!」
「了解、リーダー! 食らいなさい、フラウウィップ!」
Dグリュンは両手に持った二振りの鞭を使い、中距離からリオへ打撃を叩き込む。その隙間を縫うように動き回りながら、ロートは波打つ刃を持つ大剣、フランベルジュで斬りかかる。
リオは反撃しようとするも、ロートを攻撃しようとするとグリュンが、グリュンを攻撃しようとするとロートが妨害し、思うように攻撃することが出来ない。
「くっ、ダメだ、全然攻撃のタイミングを掴めない!」
「当然よ。私たちは共に産まれ共に育った者同士! 連携を崩せるとは思わないことね!」
グリュンの言葉通り、リオは全く反撃出来ずジリジリと後退させられてしまう。何とか反撃しなければと考えていた次の瞬間……リオの左肩に、焼けるような痛みが走る。
仲間と距離を取り、後ろに控えていたDブラオが、筒のような武器をリオに構えていたのだ。何が起きたのか分からず目を丸くするリオに、ブラオはクールな口調で告げる。
「驚いただろう? 新たに開発された兵器……『銃』の威力に」
「じゅ、う……?」
肩を押さえながら呟くリオに、ブラオは己の得物を見せ付ける。回転式の弾倉を備えた、二丁の魔法拳銃……これこそが、ブラオの切り札だ。
「弾倉に込められる弾は六発。魔力を変換、リロードして撃つのさ。こんな風にな!」
「まずい! おねーちゃん、避けて!」
リオが叫ぶも、もう遅かった。四発の弾丸が放たれ、リオとレケレスの太ももを貫いた。一拍遅れて脚から血が吹き出し、二人は呻き声を漏らしながらよろめく。
「くっ……」
「あうっ!」
「今だ! やれ!」
「おうよ!」
隙が出来た二人に、ロートのフランベルジュとゲルプの鉄槌が容赦なく襲いかかる。直撃を受けて吹き飛び、土砂を転がっていってしまった。
「やべえ、このままじゃ……。こうなったら、オレがなんとかしねえと……」
「おっと、あんたの相手はアタシだよ、ジール」
リオたちを助けに行こうとしたジールの前に、Dヴァイスが立ちはだかる。ヴァイスに槍を向けられてなお、ジールは静かに問う。
「なあ、ディシャなんだろ? なんでだよ、何でエドワード様を裏切った! オレたち、猟兵団の仲間じゃなかったのかよ!」
「仲間? 違うね、アタシの仲間はロートたちだけさ。いい隠れ蓑になったよ、情報収集に大助かりしたね。領主の部下ってだけで、機密情報に近付けるんだから……さっ!」
「ぐっ!」
そう言いながら、ヴァイスは槍を突き出し連続で刺突攻撃を繰り出す。ジールはショテルで攻撃を捌くも、元々そうした用途に向かない武器のため、すぐ追い詰められてしまう。
「くっ、やべぇ……」
「オラオラどうした、もう根ぇあげるのか? そんなんじゃあ、ヴァイスどころかこのゲルプ様にも勝てねえぜ!」
「しまっ……ぐあっ!」
Dゲルプも攻撃に加わり、鉄槌の一撃を受けてジールは戦闘不能になってしまう。リオとレケレスはなんとか起き上がるも、土砂からの脱出に力を使ったこともあり疲労困憊であった。
このまま戦いが続けば、連携によって倒されてしまうのは火を見るよりも明らかであった。しかも、相手の一人は未知の武器まで所有している。
(どうしよう、手が少なすぎる。僕とおねーちゃんだけじゃ、この五人に勝てない!)
「静かになったな。もう諦めたのか? なら、そろそろトドメを……」
「刺させると思うか? この私が。我が弟妹たちには、これ以上傷を付けさせぬぞ」
その時……遥か天空より威厳に満ちた声がこだまする。直後、炎の塊がリオたちのすぐ近くに落下し、弾け飛んだ。炎が消えると、そこにはエルカリオスとダンテがいた。
「兄さん、ダンテさん……どうしてここに?」
「詳しい話は後だ、リオ。まずはこの者らを始末する。上にいる要塞も含めてな」
突然の強力な助っ人の参戦に、リオは思わず問いかける。そんなリオに向かって優しい笑みを浮かべながら、エルカリオスはそう答えた。
「さあ、覚悟してもらおうか。このエルカリオス……一人で五人分の強さはあるのでな」
悪逆の使徒たちに、魔神の長兄はそう宣戦布告した。




