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204話―猫と虎の共同戦線

『貴様らは生かして帰さぬ! 我らの力で、葬り去ってくれるわぁぁぁ!!』


「やってみるがいい。(オレ)たちを倒す自信があるのならばな! ビーストメタモルフォーゼ……モード・オックス!」


「僕だって負けないよ! ここでお前を倒して、仇討ちを完遂する! 出でよ、破槍の盾!」


 リオとダーネシアは、ワーズに向かって飛びかかっていく。残ったもう一本の剣や新たに生えてきた触手を退けながら、ワーズ本体へ接近する。


 一方、ワーズもリオたちを仕留めるために本気を出してきたようで、触手を伸ばし深淵の穴の壁に突き刺す。本体自らが、ついに動き出したのだ。


『二人まとめて始末してやる。このまま潰してくれるわ!』


「まずい、避けろ少年!」


 巨体を感じさせない軽やかな動きでリオたちの頭上に回り込んだワーズは、自ら触手を切り離しボディプレスを敢行する。ダーネシアが叫ぶと同時に、二人は横っ飛びに飛ぶ。


 その直後、ワーズの巨体が落下し轟音を上げながら着地する。深淵の底全体が揺れ、リオは体勢を崩して転びそうになってしまう。その隙を突き、ワーズは剣を振り下ろす。


『隙アリ! 死ね小僧!』


「くっ……このっ!」


 間一髪、ギリギリのところで体勢を建て直したリオは剣を避けることに成功する。が、刀身から滴る猛毒のしずくが左脚にかかってしまった。


 足がみるみる溶け始め、肉が腐り落ち骨が見えてくる。リオはそれ以上浸食されないよう、太ももから脚を切断してなんとか事なきを得た。


「あ、危なかった……! あの毒、厄介すぎる!」


「もう片方の剣も破壊したいところだが……そう簡単にはいかないだろう。ワーズも愚者ではない、必ず何かしらのカウンターを用意しているはずだ」


 頭部にねじれた二つのツノを持つ牛の獣人となったダーネシアは、触手をツノで貫き引きちぎりながらそう口にする。が、猛毒剣以外にも、二人には解決せねばならない問題があった。


 怨霊の集合体であるワーズを完全に倒すための方法を、相手の猛攻を捌きながら考えなければならないのだ。ダーネシアは触手を破壊しながら、リオにワーズの特性を説明する。


「いいか少年、ワーズは数百体の怨霊たちが集まって生まれた存在。仮に今、奴の本体に浮かんでいる顔を全て同時に破壊しても、完全に殺すことは……フンッ! 出来ないだろう」


「じゃあ、どうすればワーズを……よっ、完全に倒せるの!?」


「……母上やグランザーム様から奴の弱点を聞いている。ワーズは体内のどこかに、怨霊を繋ぎ止めるための核があるらしい。それを見つけ出し破壊出来れば、奴を倒せるはずだ!」


 ワーズの攻撃を避け、反撃しながら二人は打開策を話し合う。ワーズの中に眠る核……それを見つけ出すことが、二人が勝利するための鍵なのだ。


 が、ワーズの本体は低く見積もっても軽く四メートルは越えており、どこに核が存在しているのか検討もつかない。リオが悩んでいると、ダーネシアが声をかけてくる。


「……少年よ。(オレ)が時間を稼ぐ。その間に、ワーズの核を探し出す方法を見つけるのだ。頼んだぞ!」


「分かった。絶対に見つけ出すから!」


 このまま戦い続ければ、体力と魔力を消耗し負ける。そう考えたダーネシアは、自らを囮にしてリオが策を閃くための時間稼ぎを買って出た。


 ダーネシアが飛び出していった後、リオは触手を破壊しつつワーズを観察する。必死に考えを巡らせていたその時、リオは逆転の策を閃いた。


(そうだ! カラーロの魔眼だ! アレを使えば、ワーズの核の在処を見つけられるはず!)


 ロモロノス王国での戦い以降、眼帯を身に付けるのが億劫になっていたリオはカラーロの魔眼を身に付けていなかった。魔眼を頼るような局面も、特になかったというのもある。


 が、今この状況こそカラーロの魔眼を使う絶好の機会だった。身に付けこそしなくても、常に持ち歩いていたことが功を奏し、早速リオは魔眼を左目に装着する。


(数百体の怨霊を繋ぎ止めるための核だ、膨大な魔力が使われているはず。魔力の流れを見れば……必ず、核の場所が分かる!)


『む……貴様、何をしている!』


 核の場所を探そうとするリオだったが、ワーズに気付かれてしまった。猛毒剣と触手、闇のレーザーが同時にリオへと襲いかかってくる。


 剣と触手に頭上と背後の退路を塞がれ、万事休すかと思われたが……。


「やらせはせん! ビーストメタモルフォーゼ……モード・レオパルト!」


「わっ!?」


『何ィ!?』


 ダーネシアはヒョウの獣人に変身し、猛スピードで走り出す。ワーズの攻撃が届く前に、素早くリオを抱え包囲網から脱出することに成功した。


「ありがとう、ダーネシア」


「礼には及ばん。……洒落た眼帯だな、それが少年の切り札か?」


「うん。このカラーロの魔眼で……ワーズの核を暴く!」


 リオはカラーロの魔眼に魔力を流し、力を発動する。幸い、ワーズの魔力阻害を受けることなく無事魔眼が機能し、魔力の流れを見ることが出来た。


 しばらくの間ワーズの全身を隈無く見回し、ついにリオは発見した。ワーズの身体の奥深くで激しく鼓動する、不気味な黒い魔力の塊――怨霊を繋ぎ止める核を。


「見つけた! 核はワーズの体内……中央にある! それさえ破壊出来れば……」


『させるものか! こうなれば、我らの切り札を使うしかあるまい! ゴースト・ジェイル!』


 核の場所を把握されたワーズは、これまで隠してきた切り札をついに解放した。四つの口から黒い液体が溢れ出し、地面に落ちていく。


 液体を見て何かよくないモノを感じ取ったダーネシアは即座に後退するも、もう遅かった。液体は地面と同化して瞬時にダーネシアの元に到達し、怨霊で作られた檻となってせり上がる。


『怨霊の揺り篭の中で圧死するがいい! 二人仲良くなアッ!』


「まずい、このままでは……! くっ、仕方あるまい。少年よ、檻が完成する前にお前をワーズに向かって投げる。奴の核を破壊してくれ!」


「分かった! 僕に任せて!」


「よし、行くぞ! ……ハアッ!」


 ダーネシアは核の破壊をリオに託し、力の限りワーズ目掛けて投げ付けた。その直後、檻が完成にせり上がり、天井が出現してダーネシアは脱出出来なくなってしまう。


 檻の幅が狭まり、ダーネシアを圧殺せんと迫るなか、投げられたリオは双翼の盾による加速を加えワーズへ突進する。両腕を合わせて伸ばし、二つの破槍の盾を合体させ槍のように変えた。


「このまま……貫いてやる! シルドヴォルグ・スティンガー!」


『そうは……させぬわぁぁぁぁ!!』


 合体させた破槍の盾ごと身体を回転させ、リオはワーズに突撃していく。対するワーズは闇のレーザーを発射し、リオを消滅させようとする。


 しかし、本気を出したリオにとって、この程度は何の妨害にもならない。闇のレーザーにまっすぐ突っ込み、逆に貫きながらどんどん進んでいく。


『バ、バカな! 我らの攻撃が効かぬだと!?』


「そうさ、効かないんだよ、ワーズ。こんな攻撃程度で……僕の怒りを! お前に殺された人たちの無念を! 止めることなんて出来るもんか!」


『や……やめろ! 来るな、来るなぁぁぁぁ!!』


 ワーズは剣や触手をフルに使い、必死にリオを叩き落とそうと足掻く。しかし、回転するリオと盾に触れた瞬間に粉々に砕け勢いを止めることが出来ない。


「これで……終わりだぁぁぁぁ!!」


『ぐっ……ぎゃああああああああ!!!』


 リオはワーズの身体をブチ破り、体内に隠された核を破壊し反対側に飛び出した。核を失ったワーズの身体から、無数の怨霊が吹き出し消滅していく。


 怨霊の檻も崩れ去り、残った触手もボロボロと崩壊し塵へと変わっていくなか、ワーズの巨体がぐらついた。ゆっくりと倒れながら、最期の言葉を口にする。


『バカ、な……。あり得ぬ、この我らが……大地の民風情に、敗れる……な、ど……。せっかく……貴族どもを操り、封印を解かせたのに……』


 己の敗北を受け入れられぬまま、ワーズは沈黙し――完全に滅び去った。その直後、リオとダーネシアの身体が、急速に浮上し始めた。


 ワーズの死により、領地(テリトリー)の崩壊が始まったのである。声を出す暇もなく、リオたちは深淵の穴から弾き出され、光ある地上へと帰還する。


「うわっ!」


「……終わったな。これで、ワーズは滅びた。永久に、な」


 大地に降り立った後、ダーネシアはそう呟く。リオに手を貸して起き上がらせた後、感謝の言葉を伝えた。


「……ありがとう、リオ。君がいなければ、(オレ)はワーズを倒せなかった。本当に感謝している」


「気にしないで。僕もそれは同じだからさ」


 リオの言葉に僅かに微笑みを浮かべた後、ダーネシアは背を向け歩き出す。去り際に、もう一度だけリオに声をかける。


 ――魔王軍最高幹部、『千獣戦鬼』ダーネシアとして。


「……これで、全てが終わったわけではない。次は……お前との決着を着ける。グランザーム様にお仕えする者として……な」


「受けて立つよ。絶対に、負けないから」


 リオの返答に言葉を返すことなく、ダーネシアは風のように去っていった。(リオ)(ダーネシア)……二人はやがてぶつかり合う。それぞれの信念を賭けて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝負ありだッ! 大魔公ワーズ!
[一言] なるほどここで虎の焼き直しか(#゜Д゜)y-~~ 今度の虎はホンマの武人か、色々やりにくい相手になりそうだ(-.-)y-~
[一言] パンサーは黒豹の意味で、普通の豹は確かレオパルトだった筈です。
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