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21話―マイホームは森のお屋敷

 表彰式が行われた翌日の昼。リオたちは帝都の北にある貴族の別邸がある地区を訪れていた。アミル四世から下賜された屋敷を目指し、閑散とした通りを歩く。


 式が終わり、列席していた貴族のほとんどは自身の領地へ帰ったため、別邸地区は人気がなく静まり返っていた。精々、ハウスキーパーが屋敷の掃除をしているのが見えるくらいである。


「静かなところだねー。お貴族様の住んでる場所って聞いてたから、もっと賑やかだと思ったんだけどなぁ」


「アタイから言わせりゃ、静かなほうが気が楽ってモンだ。……しかし、まだ着かないのか? 随分遠いな」


 通りを歩きなぎら、リオとカレンはそれぞれの感想を口にする。地図を見ながら二人を先導していたアイージャは、猫耳をピコピコさせながら答える。


「ふむ。この通りを抜けた先にあるようだ。しかし、だいぶ奥まったところにあるな」


「ホントだねー……あ、見えてきたよ。あのお屋敷かな?」


 少しして、通りを抜けたリオたちの目の前に森が姿を現した。帝都の中とは思えないほど生い茂った木々の中に紛れるように三階建ての邸宅がひっそりと佇む。


 地図を見ていたアイージャは念入りに確認し、森の中にある屋敷が目的地であることを確かめる。その時、屋敷の入り口が開き二人の男女がリオたちの元へやってきた。


「お待ちしておりました、ご主人様。わたくし、帝立使用人連盟より派遣された執事のセバスチャン・アモラと申します」


「私はエルミル・ターネイ。セバスチャンと同じく帝立使用人連盟から派遣されたメイドです。本日よりこのお屋敷でお勤めさせていただきます。よろしくお願いしますね、ご主人様」


 執事服に身を包んだ老人、セバスチャンと羊の獣人の女性、エルミルはそう名乗り深々と頭を下げた。仕える者として洗練された仕草に、リオたちは目を丸くする。


 事前にアミル四世から二人のことを聞いていたリオだが、まさかこんなに早く来ているとは思っておらずあたふたしてしまう。


「あ、こ、こんにちは。お二人とも早く着いてたんですね」


「ええ。従者たる者、主人より先に屋敷に入り支度を整えておかねばなりませぬゆえ。さ、皆様どうぞこちらへ。屋敷をご案内します。すでに他のメイドが歓迎の準備をしています」


 セバスチャンに案内され、リオたちは屋敷の中に入る。ホールでは二人のメイドが飾り付けを行っており、リオが入ってきたのに気付くと顔を上げ笑顔を浮かべる。


「よっ! やっと来てくれたか、リオ。待ってたぜ」


「リオくーん、久しぶりー」


「ジーナさん、サリアさん! 身体の方はもういいんですか?」


 リオはかつて共に戦った仲間、ジーナとサリアの元へ駆け寄る。タンザでの戦いの後、人形に戻った二人はアーリーたちによって回収されていた。


 アーリーたち帝国軍魔力研究部の尽力によりザシュロームにかけられた傀儡の呪いを解くことは出来た。が、完全に人に戻ることは出来なかった。


「ああ。いつまでも寝てる訳にはいかねえ。アタシたちをメイドとして雇ってくれた恩に報いらなくちゃいけないからな」


「そうそう。ありがとうねー、リオくん」


 ジーナとサリアがザシュロームに捕まってしまったのは自分の責任だと感じていたリオは、アーリーから知らせを受け取った時点で二人を迎え入れることに決めていた。


 そこへちょうどよく屋敷を下賜されることとなり、ジーナとサリアはエルミル指導の元、見習いメイドとして屋敷で働くことになった。それ故、二人はリオに感謝しているのだ。


「いえ、二人がもう二度と戦えない身体になっちゃったのは僕のせいですから……。あの日、僕がみんなのところに戻ってさえいたら……」


「リオ、それは違う。むしろ戻って来なくてよかったよ。もし戻って来てたら、みんな揃ってザシュロームに捕まってたと思う」


 しょんぼりと過去を悔やむリオに、ジーナが毅然とした口調で告げる。サリアやアイージャたちも彼女の言葉に同意し、うんうんと頷く。


「確かに、な。あの時のリオは、まだ魔神の力を受け継いだばかり。ザシュロームに勝つことは不可能だったろう」


「そうよー。だから、自分を責めないで? むしろ、悪いのは私たち。お荷物にしかなれなかったから……」


 サリアの言葉に、場の雰囲気が重くなる。そんな空気を払拭しようと、エルミルはパンパンと手を叩いた。


「さーさー皆さん、そんな暗くならないでくださいな。今日はご主人様が貴族になられたお祝いをする日ですよ? 腕によりをかけてご馳走を作りますから。ジーナ、サリア、手伝ってくださいな」


「分かった……こほん、分かりました、メイド長」


 ジーナたちはエルミルと共に調理場へ去っていった。残されたリオたちは、セバスチャンに先導を頼み、屋敷の中を案内してもらう。


「では、まず三階からご案内致します。三階にはご主人様たちの自室と書斎の四つの部屋がございます」


「へえ、なかなか広いじゃん。こりゃ快適に過ごせそうだ」


 セバスチャンに案内され、リオたちはそれぞれに割り当てられた自室へ向かう。ゆうに三人は寝られるほど大きなベッドやふかふかのソファーが置かれた部屋に、カレンは満足そうに呟く。


 続いて訪れた書斎では、天井まで伸びた本棚とその中にギッシリと並べられた無数の本に出迎えられた。書斎には大きな暖炉と四つの肘掛け椅子があり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「わあ、本がいっぱいだね。こんなにたくさんの本、見たことないや」


「ここにある本は、帝都の図書館や貴族の皆様から祝いの意を込めて寄贈されたものです。少々多すぎて整理が大変でした」


 リオが感想を口にすると、セバスチャンは白髪混じりの口ひげを撫でながら呟く。老体のセバスチャンにとって、大量の本の整理は荷が重いのだろう。


 三階の案内が終わり、一行は二階へ降りる。二階には遊戯室や来客用の寝室が計六部屋あった。遊戯室以外はほぼ使うことはないだろうからと説明が省かれ、再び一階に戻る。


「一階には食堂とわたくしたち使用人の部屋があります。離れの方には風呂がございます。大浴場となっていますので、今日の夜にでもお入りください」


「ありがとう、セバスチャンさん。……それにしても、いいのかなぁ。こんな立派なお屋敷なんてもらっちゃって」


 案内状してくれたセバスチャンに礼を言った後、リオはそんなことを呟く。屋敷を見て回った結果、少しだけ不安になってしまっていた。


「ふふ、問題などなかろう。それだけ、リオが成した功績は大きいということだ。タンザの奪還に、皇帝暗殺の阻止……これだけのことを成し遂げたのだから、そう不安がることはないぞ?」


「そうかな……。うん、アイージャさんがそう言うなら僕も……」


 そこまで言ったところで、アイージャは突然リオの唇に指を当て言葉を途中で止めさせる。ぷうっと不満げに頬を膨らませ、しっぽを振りながら話し出す。


「リオよ。何故妾にそんな他人行儀な呼び方をする? カレンのように呼んでほしいぞ」


「えっと、じゃあ……お姉ちゃんって呼べばいいの?」


「いや、それだといちいち名前まで呼ばねば区別出来ぬだろう? もっと別の呼び方をしてくれるか?」


 アイージャからの頼みを聞き、リオはうんうん唸りながら考える。耳をピコピコさせながら考え込むリオを見て、カレンたちはほっこりしていた。


 しばらくして、アイージャをどう呼ぶのかを決めたリオは小さく頷く。ジッとアイージャを見つめながら、口を開き彼女へ呼び掛ける。


「じゃあ、これからは『ねえ様』って呼ぶね! アイージャねえ様!」


 一点の曇りもない清らかな目でアイージャを見つめながら、リオは朗らかに笑う。そんなリオを見てカレンは心の中で尊さに悶えていたが、肝心のアイージャの反応がないことに気付く。


「ん? おい、どうしたアイー……こいつ、立ったまま気絶してやがる……。めっちゃ嬉しそうな顔したまま……」


「それほど嬉しかったのでしょう。わたくしも同じ立場ならこうなっていたかもしれませんね」


 アイージャは立ったまま気絶していた。それだけ、リオの言葉の破壊力が凄まじかったのだろう。カレンとセバスチャンは、頬をひきつらせながら呟くことしか出来なかった。


「あわわ……ねえ様大丈夫!? ねえ様、しっかりしてー!」


「待てリオ! 今のアイージャにそれは逆効果だ! 余計に精神が逝っちまう! じいさん、メイドたちを呼んできてくれ! このままじゃアイージャがヤバい!」


「た、ただちに!」


 リオはアイージャの意識を戻そうと、ねえ様を連呼しつつ身体を揺さぶる。気絶していてもリオの言葉は聞こえているようで、アイージャの身体から力が抜け崩れ落ちる。


 慌ててアイージャの身体を支えながら、カレンはセバスチャンにエルミルたちを連れてくるよう頼む。これまでとはまた趣の違う騒動が、リオたちの元に訪れようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 森の中に二階建ての建物があったのに、いきなり、三階から案内させるのは違和感がゴイスーです!
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