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199話―薬師たちを助け出せ!

 時は少しさかのぼる。ダンスレイルとノウケンたちの戦いが始まった頃、ブン投げられたリオはかなり強引ではあるが里の中に侵入することに成功した。


 ……異変に気付いて集まってきた魔族たちに、アリの這い出る隙間もない包囲網を作られてしまったが。


「空から侵入してくるとは……なかなかやるな。だが、こちらは二十人、お前は一人だ。じきにノウケン様たちも来る。そうなればお前は……ぐあっ!」


「じゃあ、その前に全員やっつける!」


 飛刃の盾を投げつけ、リオは先制攻撃を叩き込む。里を占領していた魔族たちをシールドブーメランの一撃で沈め、あっという間に十人を倒してみせる。


「嘘だろ、相手は一人だぞ!? なんでこんな……ぐあっ!」


「だ、ダメだ! 一旦退却だ、退却しろー!」


 瞬く間に壊滅状態に陥った魔族たちは、体勢を立て直すため慌てて逃げていく。リオは魔族たちを追い、里の内部へと入り込んでいった。


 魔族たちは逃げ足が早く、あっという間に消えてしまった。リオはやれやれとため息を吐きつつ、敵が隠れていないか家屋を一軒一軒確認しながら進む。


(どの家も薬の匂いがするなぁ。やっぱり、ここでたくさん仙薬を作ってるんだろうなぁ)


 多くの家屋には薬を作るための部屋が設けられており、僅かに鼻をつく匂いが漂っていた。住人の気配が全くしないことから、リオはどこかに里の人々が閉じ込められているのでは、と考察する。


「とりあえず、まずは魔族たちを見つけないと……。奥の方に逃げたみたいだし、家を探すのは終わりにして先に行こう」


 家の中には魔族たちが隠れていることはなさそうだと結論付けたリオは、外に出ようとする。その時、家の奥から僅かに物音が聞こえてきた。


 リオが音がした方向に行くと、居間の床に敷かれていた敷物の端が不自然に盛り上がっていることに気が付く。そっと敷物をめくると、取っ手が付いた蓋を発見する。


「地下室の入り口かな? 探知を遮断する魔法がかけてある……もしかしたら他の家にもあったかも」


 そう呟きながら、リオは取っ手を掴む。鍵はかかっていないようで、容易に持ち上げることが出来た。……が、蓋を開けた直後、中から勢いよく竹槍が飛び出してくる。


「わわっ!?」


「魔族め、とうとう地下室に気付きやがったな! 来やがれ! 何があってもかかあと子どもたちにゃ手を……うん? 魔族じゃない?」


 リオが咄嗟に身体を反らして竹槍を避けると、縄はしごを登って大柄な男が姿を現した。男はどなり声をあげていたが、リオが魔族ではないことに気付き安堵の息を漏らす。


「ほー、よかった。見たところ、お前さんは人間みたいだ。……にしても、この辺じゃ見ねえ格好だな」


「実は……」


 ゲンテツと名乗る男に、リオはこれまでのことを話して聞かせる。話を聞き終えたゲンテツは、嬉しそうな顔をしながら手を叩く。


「おお! やっとこさ救援が来たのか! そりゃあいいや。よーし、ついてきてくれ。何安全な場所がある、そこで少し話をしよう」


「分かりました」


 リオはゲンテツに連れられ、縄はしごを降りていく。蓋を閉めると、敷物がひとりでに元に戻る音が聞こえてくる。地下室にはゲンテツの家族がおり、リオを見て警戒心をあらわにする。


 ゲンテツの説明を受け、リオが味方だと理解した二人の幼児たちは、興味深そうにリオに近付いてくる。おそらく、初めて獣人を見たのだろう。リオはしっぽを伸ばし、ふりふりする。


「さて、この里の様子はもう見ただろ? 魔族どもに占領されちまってどうにもならねぇ」


「そうみたいですね。一体、何があったんですか?」


「だいたい二ヶ月くらい前か……。突如魔王軍が里を攻めて来やがったんだ。奴ら、仙薬を全部泥と混ぜて使えねえようにしちまった。ひでえ嫌がらせだよ、ったく」


 ブツブツ呟くゲンテツを見ながら、リオは考えを巡らせる。どんな傷も癒し、死に瀕した者をも復活させるという逸話がある仙薬は、彼らにとってかなりの脅威なのかもしれない。


 もしそうであるならば、こうして里を襲い、仙薬を廃棄するのも頷ける……と、幼児たちにしっぽをいじられながら考えているとゲンテツの妻がお茶を差し出してきた。


「どうぞ。もうほとんど茶葉を使ってしまったので、出涸らしですが……」


「あ、気にしないでください。それにしても、よく二ヶ月も持ちこたえられましたね」


「なぁに、この里に住んでるやつぁ、みんなそれくらいの備えはしてるのさ。とはいえ、今回ばかりはどうにも、な……」


 ボリボリと頭を掻きつつ、ゲンテツはリオに話をする。薬師たちは魔族に連れ去られ、里の奥にある倉に監禁されていること。倉は恐ろしい魔獣によって守られていること。


 それらを聞いたリオは、何故地下にこもっていたゲンテツが情報を知っているのか問い質す。すると、ゲンテツは懐から小さな薬の粒を取り出した。


「こいつは千里丸っつう薬でな、これを飲むと五感が何倍にも強化されるんだ。これを使って、地上にいる奴らから盗み聞きしたのよ」


「なるほどー……。そんな凄い薬も作ってるんですね」


「ああ。他にも、肉体を強化する薬や、強力な眠り薬なんかもある。よかったら持ってってくれ。何かの役に立つだろうからよ」


 リオはゲンテツから薬を受け取り、お礼を言う。必ず薬師たちを助け出すと約束し、地下室を出てゲンテツに教えられた倉がある方へ向かう。


 しばらく進むと、大きな建物が見えてきた。ゲンテツの言う倉なのだろう、入り口のすぐ側には一体の魔獣と十数人の魔族たちがおり、守りを固めていた。


(あそこだ! 逃げてった魔族たちもいるな……。魔獣は……ん? なんだろあれ……)


 家屋の陰に隠れつつ観察していたリオは、魔獣のなんとも形容し難い容姿を見て困惑してしまう。自身の正体を相手に認識させない能力を持つ、ヤウリナ固有の魔獣……(ぬえ)がそこにいた。


(まあいいや。二ヶ月も監禁されてるんだ、薬師さんたちもかなり衰弱しちゃってるはず……。早く助けなきゃ! よし、いくぞ)


 リオは両腕に飛刃の盾を装着し、勢いよく飛び出す。魔族たちはリオに気が付くも、先制攻撃を受け反応が遅れる。


「さあ、僕が相手だ! もう逃がさないぞ!」


「くそっ、もう来やがったか! おい、鵺の鎖を切れ! 魔神を仕留めろ!」


「承知しました、ラズモ様!」


 魔族たちの中にさ、かつてリオと対峙した斥候部隊の隊長の姿もあった。ラズモと呼ばれた魔族は、部下からマサカリを受け取り、鵺の首輪に繋がる鎖を断ち切った。


 それまでおとなしく寝ていた鵺が目を覚まし、ジロリとリオを睨み付ける。獣とも鳥ともつかない鳴き声を上げ、リオ目掛けて突進を始めた。


「おっと、そんなの当たらないよ! 食らえ! サンダークラップ!」


「ぐああああ!!」


 鵺の突進を避けたリオは右手を握り締め、ジャスティス・ガントレットの力を解き放つ。電撃がほとばしり、魔族たちを一網打尽にしてみせた。


 が、鵺は上空に飛び上がることで電撃の範囲から逃れ、その勢いのままリオ目掛けてボディプレスを放ってくる。リオは再び手を握り、水色と紫色の宝玉を輝かせる。


「なら、これならどう? ポイズン・プール!」


 リオが拳を地面に叩き付けると、地面が陥没し猛毒の海が広がっていく。リオは素早く横っ飛びに飛んでボディプレスを避け、猛毒の海に鵺を落とす。


「けぎゅぎゃあああああ!!」


「苦しんでるね。じゃあ、そろそろ終わりに……」


「させるかぁっ!」


 その時、辛うじて息があったラズモがリオ目掛けてマサカリを投げつけてきた。リオはバックステップでマサカリを避け、飛刃の盾を投げてラズモにトドメを刺す。


 が、そうしている間に鵺は猛毒の海から脱出してしまった。リオは頬を膨らませ、鵺を睨み付ける。


「やれやれ、脱出されちゃった。まあいいや。負傷してるのかよく分かんないけど……このまま一気にやっつけてやる!」


 鵺の持つ能力により、相手がどれだけの傷を負ったのか把握出来なかったが、リオは勇ましく構える。一方、鵺は怒りに満ちた目でリオを睨み、唸り声を上げる。


「一気に決める! ビーストソウル……リリース! 出でよ! 氷爪の盾!」


「ぎゃおおおおおお!!」


 獣の力を解き放ち、リオは走り出す。鵺も同時に走り出し、鋭い爪でリオを切り裂こうと吠える。盾に装着された氷の爪を伸ばし、リオは鵺に必殺の一撃を放つ。


「食らえ! アイスシールド・スラッシャー!」


「ぐぎ……ぎいいぃぃ!!」


 リオの攻撃が鵺を捉え、激しい叫びと共に魔獣が崩れ落ち動かなくなる。鵺が息絶えたのを確認したリオは、倉の方へ歩いていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鵺ね〰️そういえば鵺ってスフィンクスに似てないか?いいツガイにならんか?あっダメかスフィンクス本人がリオにぞっこんか(#゜Д゜)y-~~
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