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20話―魔神としての決意

「がっ……あああ……」


 大剣ごと身体を斜め十字に切り裂かれ、ボグリスはその場に崩れ落ちる。仰向けに倒れたボグリスは、敗北した現実を理解出来ず呆然と空を見上げていた。


 リオはボグリスにトドメを刺しに行こうと一歩踏み出す。次の瞬間、背後にある大穴からカレンとアイージャが勢いよく飛び出し、屋根の上に着地する。


「リオ、助けに……って、もう終わってるのか。流石だな、リオ」


「お姉ちゃん! よかった、二人とも怪我してなくて」


「ふふ、当然だ。妾たちがあのような人形程度に遅れを取るようなことはない」


 カレンたちはリオに笑いかけた後、屋根の上に倒れたボグリスを見る。致命傷を負い、後十分もしないうちに息絶えるであろうことが見てとれた。


 ボグリスは気力を振り絞って上半身を起こし、リオを睨み付ける。口から血を垂らしながら、ありったけの憎悪を込めて言葉を絞り出す。


「……でだよ。お前ばかり……お前ばかり、恵まれるんだ……栄光を掴みやがるんだ!」


「知りてえのか? なら教えてやるよ。アタイとアイージャがな」


 カレンはそう言うと、ボグリスに近寄りしゃがみ込む。顔を覗き込みながら、ハッキリと伝える。


「てめえは私欲にまみれ過ぎだ。リオから聞いたぜ、てめえが今までやってきたことは。町の連中へのタカリに派手な女遊び、その他全部な」


「それの何が悪い! 俺は勇者だ! 自分の欲望を満たしたっていいだろうが!」


 なおもそうのたまうボグリスに、カレンとアイージャは呆れ果ててしまった。カレンはゴミを見るような目をボグリスに向け、辛辣な一言を投げ付ける。


「ハッ、くだらねえ。勇者なら何してもいいってか? そんなガキみてえな思考だから、てめえは何も掴めねえんだよ。リオはなぁ、てめえとは違うんだ。私利私欲のために魔神の力を使ってるんじゃねえんだよ」


「その通り。妾はずっと見ていた。貴様と共に果たそうとしていた、魔王討伐の大願……それを成すためだけに、リオは力を振るってきた。だからこそ、人々から認められた」


 そこまで言った後、アイージャはボグリスをジッと見つめ無言になる。お前はどうだ?と言外に問いかけながら。ボグリスは反論出来ず、唇を噛むことしか出来ない。


 彼女たちの言葉は全て正論だったからだ。己の全てを完膚なきまでに否定され、ボグリスの中に僅かに残っていたプライドが完全に砕け散った。


「俺、は……。俺は……なんのために、ここまで……やってきたんだ……」


 その呟きに、答える者はいなかった。ボグリスの身体から力が抜け、再び崩れ落ちる。しかし、リオに対する憎悪はまだ消えてはいなかった。


「……だがよぉ! リオだけは……必ず殺す! 俺がここで死ぬなら、道連れにしてやるよ! 帝都ごと全てをな!」


「まさか……!? まずい、出でよ双翼の盾!」


 ボグリスは体内に残っていた魔力を暴走させ、リオたちもろとも自爆しようと最後の足掻きをする。それを察したリオは背中に翼の盾を呼び出し、ボグリスを掴んで上空へ飛ぶ。


 猛スピードで空を昇り、リオは帝都から離れていく。その途中、ボグリスは狂ったようにひたすら高笑いをしていた。魔力が膨れ上がり、肉体が少しずつ膨張し始める。


「ひゃひゃひゃひゃひゃ! ムダだぜリオ! どれだけ離れても爆発は帝都に届く! なにせ、ザシュロームからたっぷり闇の魔力を貰ったんだからなぁ!」


「ボグリスさん……いや、ボグリスこそ忘れてないかな? 僕は盾の魔神。僕の望むままに盾を作り出せるってことを! 不壊の盾……ボールモード!」


 リオは球状の不壊の盾を作り出し、その中にボグリスを閉じ込めた。決して壊れることのない牢獄の中へ封じられたボグリスは、ようやく悟った。


 例えどれだけの力を与えられようと、リオに勝つことも出し抜くことも――永遠に不可能なのだということを。リオは球状の盾を遥か上空へ蹴り飛ばし、地上へ戻る。


 一人天へ飛んでいくボグリスは、完全なる敗北を前に心を打ちのめされていた。肉体は膨れ上がり、自爆の時がもうすぐそこまで迫っていた。


「結局、俺は……はじめからリオには勝てなかった、ってことか。俺は……何のために、生まれてきたんだろうな」


 そう呟いた直後、暴走した魔力が弾け飛び爆発を起こした。ボグリスの肉体は砕け散り、彼を封じ込めていた盾もろともチリとなって虚空へ消える。


 ――かつて、暴虐の勇者と悪名を馳せた男は完全に滅びた。自分より女性にモテるのが許せない。そんなちっぽけな嫉妬から、文字通り全てを失ったのだ。


「……さようなら、ボグリスさん」


 ボグリスの死を見届けたリオは、小さな声でそう呟く。空を見上げた後、振り返ることなくカレンたちの元へと帰っていった。



◇―――――――――――――――――――――◇



 それから三日が経ち、ボグリスのせいで中断してしまった表彰式が再び行われた。二度と暗殺者が入り込めないよう、厳重な警備が行われた宮殿の中で、リオは皇帝と向かい合う。


「……リオよ。そなたには感謝してもしきれない。そなたの働きがなければ、わしは魔王軍の刺客に暗殺されていただろう。そうなればこの国は瓦解していた。本当に、ありがとう」


「いえ、皇帝陛下を無事にお守りすることが出来て本当によかったです。ただ、セレモニーホールが……」


 皇帝アミル四世の言葉に応えたリオだったが、セレモニーホールを破壊してしまったことを気にし気まずそうに目を泳がせる。

アミル四世は目を細め、朗らかに笑う。


「なに、気にする必要はない。誰一人、列席した者たちが命を落とさずに済んだ。それでよいのだよ」


 皇帝の言葉に、表彰式に列席している貴族たちのほとんどが頷く。アミル四世はリオに勲章を手渡し、硬い握手を交わした。


「これにて、そなたも我がアーティミル帝国の貴族の一人。名誉貴族ゆえに領地はないが……そのほうがそなたも都合がよいだろう?」


「はい。皇帝陛下のお心遣い、感謝致します」


 そう答え、リオは丁寧に頭を下げる。魔王討伐の旅をするリオにとって、領地があっても足枷にしかならない。それ故に、皇帝の配慮にリオは感謝していた。


 表彰式のメインである勲章と爵位の授与が終わり、リオと舞台裏にいるカレンたちはホッと胸を撫で下ろす。後はアミル四世の軽いスピーチで終わる。


 そう思っていた彼らの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。


「さて、表彰式に列席してくれた貴族の諸君! わしは諸君らに問いたい。今ここにいる少年こそ、新たなる勇者に相応しいのではないか? と」


「えっ……ええっ!?」


 アミル四世の言葉に、リオは驚きを隠せない。貴族たちはパチパチと賛同を意味する拍手を送り、少しずつ外堀を埋めていく。予想だにしなかった事態に、リオは頭が真っ白になる。


「……大臣から聞いた。わしを襲った者が、魔族に寝返った勇者だったと。勇者亡き今、この国には新たな希望の灯火が必要だ。新たなる勇者に、なってくれるか?」


 リオはアミル四世の言葉を聞き、しばし考え込む。舞台裏でその様子を見ていたカレンは心配そうな表情を浮かべ、アイージャはただ静かに行方を見守る。


 しばらくして、考えを纏めたリオは決心する。己の本心をアミル四世へとハッキリ伝えた。


「……申し訳ありません、皇帝陛下。僕は希望に沿うことは出来ません。僕はすでに、盾の魔神の力を継承した身。新しい魔神として魔王と戦う。そう決めたんです」


 リオの言葉を聞き、アミル四世は目を丸くする。少しして、肩を震わせ心底楽しそうに大笑いし始めた。


「わっはっはっはっはっ! なるほどなるほど。若いのにしっかりしておるな! あい分かった。ならばそなたの意思を尊重しよう。皆の者、讃えるがよい! 新たなる希望……リオ・アイギストスの誕生を!」


 アミル四世の言葉に、宮殿の中に歓声が響き渡る。アイージャとカレンは舞台裏から飛び出し、勢いよくリオに抱き着いた。


「リオ! よく言った! よく言ってくれたな! 妾は嬉しいぞ! やはり妾が見込んだだけのことはあったな!」


「へへっ、リオならそう言うだろうと思ったぜ。かっこよかったぞ、リオ」


「えへへ、二人ともありがとう」


 アイージャとカレンに向かって、リオは笑いかける。万雷の拍手が響き渡るなか、リオはふにゃりと柔らかな笑みをこぼす。これまでにない喜びを、リオは噛み締めていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボグリスは、力はあっても『弱かった』んだ。 リオみたいに『強ければ』、あのような結末をたどることはなかっただろうがな……。 愚かで、哀れな奴よボグリス。
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