185話―カレンとオウゼン
牛車に乗り込んだリオとカレンは、これまでの冒険についてオウゼンに根掘り葉掘り質問される。どこでどうやって出会ったのか、何をしたのか……。
リオたちから話を聞くたびに、オウゼンの表情がコロコロ変化していく。子どものように目を輝かせたかと思えば、ぎょっと驚いたり渋い表情を浮かべる。
「いや、まっこと面白い話であった! そうかそうか、いろいろと苦労していたんだなぁ」
そう呟きながら、オウゼンはリオの頭をワシワシと撫でる。ゴツゴツとした、到底貴族とは思えない大きな手で撫でられ、リオは不思議と恐怖心か消えるのを感じた。
一方、カレンはやっと終わったと言わんばかりに牛車の隅に置いてあった脇息を取り出し、寝転がる。大きなあくびを一つ一つした後、オウゼンに問いかけた。
「そういや、なんで迎えに来れたんだよ? アタイ、いつヤウリナに行くかなんて一言も手紙に書いてなかったぜ」
「ハッハッハッ! 親の勘だよ! ビビッ! ってくるんだよ、頭ン中にな」
「そんなもんかねぇ……」
豪快に笑うオウゼンに、カレンはそう呟く。そこへ、牛車の外からコウマが話しかけてくる。
「オウゼン様、一旦休憩にしましょう。馬を休ませねば」
「ン、そうだな。全員に伝えろ。半刻ほど休憩だ」
長い距離を移動し続けいた一行は、一旦休憩をとることになった。コウマが去った後、オウゼンはふと何かを思い出したらしく話しかける。
「そういえば、西の国では別の名前を使っているようだなァ、ミナカ。せっかくいい名前を付けたのにもったいないぞ」
「しゃーねえだろ。習わしもあるけど、アーティメルだと目立つンだよ、ヤウリナの名前は」
オウゼンの言葉に、カレンはそう答える。リオは話についていけず、困惑してしまう。そんなリオの様子に気付き、カレンは声をかけた。
「あー、リオな、実はアタイ、本名はミナカ・タチカワってんだよ。この国の風習で、名前を変えてたんだ」
「そうだったんだ……。もっと早く教えてくれればよかったのに」
自分に本名を隠してきたことが面白くないようで、リオはぷうと頬を膨らませる。そんなリオを宥めながら、カレンは釈明を行う。
「仕方なかったんだよ。この国の習わしで、一度国を出た奴は戻ってくるまで他国の人らに素性を明かしちゃいけねえんだ。黙っててごめんな、リオ」
「そんな習わしがあるんだ……。まあ、それならしょうがないかなぁ」
これ以上カレンを問い詰めるつもりもなく、リオは納得し話を終えた。……と思われたその時、ふとあることが気になったらしくカレンに問いかけた。
「あ、じゃあ僕もこれからは本名で呼んだ方がいいのかな? ミナカお姉ちゃん?」
「ぐほっ!? そ、それは……ぐっ、どうする……本名で呼ばれるのはなんかこそばゆいし、やっぱり……いや、でも……ああああああ!!」
「ああっ、お姉ちゃん! し、しっかりしてぇ!」
リオの質問を受け、カレンの中の何かが壊れたようだ。苦悩の声を漏らす彼女に必死に呼び掛けるリオを見ながら、オウゼンは笑い転げる。
「ダーッハッハッハッ!! こいつぁ愉快だ! お前たち、いい芸人になれるぞ!」
「オウゼン様、そろそろ出ぱ……なにが起きたのです?これ」
出発の時刻になったことを告げにきたコウマは、牛車の中のカオスな状況を目の当たりにし唖然とすることしか出来なかった。
◇―――――――――――――――――――――◇
「カクト様、報告致します。盾の魔神の一味を発見しました。奴らはオウゼンと合流し、エンリャンに向かっています」
「ほぉ! そいつぁ都合がいいや。よぅし、手勢を集めろ。奴らどうせエンリャンで一休みするだろ。そん時に奇襲をかけるぞ」
西海岸地方一の都であるエンリャン。その近隣にある森の中にて、ダーネシアの配下が一人、カクトが部下からの報告を聞いていた。
リオたちの動向を知ったカクトは、奇襲作戦を決行するべく準備を始める。彼にとって、リオ一行とオウゼンの抹殺とエンリャン陥落を一気に行えるチャンスだった。
「しっかし、まさかテンキョウにいるはずのオウゼンがこんな辺境にいるたぁなぁ。ま、ちょうどいい。エンリャンの結界塔をぶっ壊して、ついでに亡き者にしてやらぁ」
ニヤリと笑いながらそう呟くと、カクトは右手に炎の玉を作り出す。炎の玉は形を変え、長い棒になる。くるくると棒を回し、カクトは木々の枝を飛び移りながら移動を行う。
「キャキャキャキャ! さあ、オイラの力を見せてやる! 五行鬼が一角……火行のカクト様のなぁ!」
そう叫びながら、猿のように軽やかな動きでエンリャンを目指して進軍していった。
◇―――――――――――――――――――――◇
一方、リオたちは二時間ほどかけて何事もなく無事にエンリャンに到着し、旅の物資を補給しつつ休憩を取っていた。最初に立ち寄った集落とは比較にならない賑わいに、リオは目を丸くする。
「やっぱり、国は違っても町の賑わいは変わらないね、カレンお姉ちゃん」
「だな。しっかしまあ、エンリャンも変わんねえなぁ。九年前とほぼ同じだな」
長い長い葛藤の末、カレンは結局これまで通りの呼び方をしてくれるようリオに頼んだ。いきなり本名で呼ばれるのは、とんでもなく恥ずかしかったのだ。
ダンスレイルやクイナも合流し、リオたちはエンリャンの町を見て回る。観光の足しにしてくれとオウゼンからヤウリナの通貨を貰い、あちこちを巡っていく。
「ダンゴ~、ダンゴはいらんかね~。美味しいダンゴだよ~」
「おダンゴだって!? むむむ、これは買わなくちゃ! おばちゃーん、ダンゴ四人分くださいな!」
観光の途中、ダンゴ屋の客寄せにクイナが飛び付いた。四人分のダンゴを購入し、店の前の長椅子に座りおやつを食べる。初めて食べたダンゴに、ダンスレイルは顔をほころばせた。
「美味しいねぇ、これ。おダンゴだっけ? アイージャたちにも食べさせてあげたいよ」
「ふっふーん、そうでしょそうでしょ? 拙者、おダンゴには目がなくてね。いやー、久しぶりに食べれて大満足!」
ダンゴを食べ終え一息つくリオたち。そろそろ行こうか……リオがそう声をかけようとした直後、里の東から大きな爆発音が鳴り響いた。
黒煙が立ち昇り、悲鳴が聞こえてくる。何かが起こったということを察知し、リオたちは手早く会計を済ませ音がした方向へ向かって走る。
「さっきの音は……こっちだ!」
「火の手が上がってる……一体誰がこんなことを」
リオたちが到着すると、すでに戦いが始まっていた。里の中に侵入しようと試みる魔族たちと、それを押し留めようとする武者鎧を着た武士たち。
武士たちを援護するべく、リオは両腕に飛刃の盾を装着し大声を上げる。
「皆さん、僕たちも加勢します!」
「ん? おお、誰かは存じぬが助かる! 奴らを……ぐああっ!」
「おーっとっと、ダメだぜ、雑魚はやられてくれなくちゃあ。オイラたちの邪魔はさせねえよ」
リオの声に一人の武士が応えるも、その直後全員薙ぎ払われてしまう。長い棒を肩に担いだ、猿のような顔をした男――カクトが現れたのだ。
カクトはキョロキョロと周囲を見渡し、リオたちの姿を見つけるとニヤリと笑う。その笑みに、何か嫌なものを感じ取ったリオたちは顔をしかめる。
「キャキャキャ、狙い通りだな。派手に爆発騒ぎを起こせば、向こうからこっちに来てくれるってすんぽーよなぁ」
「お前、何者だ!? 名前を名乗れ!」
盾を構えながらリオが叫ぶと、カクトは首をこきこき鳴らす。そして、棒を構えつつ大声で呼び掛けに答えた。
「オイラの名はカクト! 偉大なる千獣の覇者ダーネシア様に仕える五行鬼が一角よ!」
そう叫ぶと、棒を振り先端から炎を飛ばす。拡散する炎は里の家屋に燃え移り、大火事となってあっという間に広がっていく。
それを見たクイナは、水のカーテンを作り出し街中へと走り出す。
「リオくん、拙者は火事を消火してくる! その猿モドキは任せたよ!」
「うん、分かった!」
離脱したクイナに向かってそう叫んだ後、リオはカクト目掛けて飛刃の盾を投げつける。が、カクトは動じることなく、盾に向かって棒を伸ばす。
「キャキャキャ、お前はオイラにゃ勝てねえよ。火克金……浄猛炎!」
「あいつ、何を……!?」
次の瞬間、棒の先端から高熱の火炎が噴き出し、飛刃の盾を一瞬で蒸発させてしまった。それを見て唖然としているリオに、カクトは笑う。
「さあ、始めようぜ。他の魔王軍の連中たぁ一味違う……オイラの力を見せてやる」




