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182話―一路東へ

 翌日、リオたち四人はヤウリナへ向けて旅立った。馬車を乗り継ぎ、東へと向かっていく。最初の目的地であるアーティメル帝国東端の町、ロロンドにたどり着くのに四日を要した。


「だいぶかかったな。ずっと座りっぱなしでケツがいてえや」


「そうだね。なんだか眠くなってきちゃった……」


 長時間馬車に揺られ疲れてしまったリオは、立っているのもやっとという状態だった。ヤウリナへの道のりはまだまだ長く、東に隣接する国と海を越えねばならない。


 疲れきった状態で歩かせるのは酷だと考えたダンスレイルは、ひょいとリオを担ぎ上げおんぶする。暖かいふわふわの翼でくるみ、優しい声でリオに声をかけた。


「ほら、我慢しないでお休みリオくん。こうやっておぶってあげるから、ぐっすりお眠りよ。また後で起こしてあげるから」


「うん……。ごめんね、ダンねえ。おやすみ……」


 うとうとしていたリオは、あっという間に眠ってしまった。歳相応の可愛らしい寝顔を見ながら、クイナは微笑みを浮かべつつ呟く。


「かーわいい。こうして見てると、まだまだお子ちゃまなんだねえ」


「だな。この可愛さで超つええってんだから、改めて考えるとすげえ話だよなぁ」


 クイナの言葉に同調しつつ、カレンはリオのほっぺたをふにふにと指でつつく。むず痒いのか、うにゅ……と寝言を口にしながらリオは顔を背ける。


 そんなリオのリアクションを面白がり、カレンのみならずクイナもほっぺたをつつき始める。口の近くに指が触れた瞬間、リオは条件反射でぱくっとクイナの指を加えた。


「あひゃっ!?」


「赤ちゃんみたいに吸ってるな……ちょっとうらやま……なんでもねえ」


 ちゅうちゅう指を吸われ、クイナは変な声を出してしまう。カレンは今度は自分も……と指を差し出すも、ダンスレイルに睨まれ引っ込めた。


「そのくらいにしておきな? あんまりやると怒るよ?」


「いやー、ごめんごめん。リオくんが可愛いくってつい」


「私だってやりたいの我慢してるんだからね? そこを理解してほしいな」


「そっちかよ……」


 調子に乗りすぎたと謝るクイナに、ダンスレイルは嫉妬心全開で文句を垂れる。単純に自分もほっぺたをふにふにしたかっただけのダンスレイルに、カレンは呆れてしまう。


 そんな感じでわいわい騒ぎながら、カレンたちは国境管理局へ向かい手続きを行う。国境を越えた彼女たちは、アーティメル帝国の東に隣接する国、レンドン共和国へ足を踏み入れる。


「なんだ、国境越えたら随分殺風景な場所に着いたね」


「ああ、ダンスレイルは知らねえか。この国は土地が痩せてて荒れ地が多いんだ。ま、今は関係ねえけどな」


 国境沿いの壁を越えたダンスレイルは、延々と広がる荒野を見ながら呟きを漏らす。カレンは説明しつつ、先頭に立ちどんどん歩いていく。


 ダンスレイルとクイナも後に続き、道に沿って進む。最初の町ノタンに到着した一行は、馬車を借りて旅の足を確保する。クイナ曰く、ここから大陸の端まで十日はかかると言う。


「十日か……。それも、一切休まずノンストップで行けば、なんだろう?」


「そうだねぇ。この国は全然街道が整備されてないし、宿場町も少ないから……普通に行けばもっとかかっちゃうね」


 馬車を走らせながら、クイナとダンスレイルはそんな会話をする。街道は荒れ果てており、馬も進みにくそうにしていた。しばらく考え込んだ後、ダンスレイルは呟く。


「しょうがない。ここは私がなんとかしよう。あまり時間をかけるわけにはいかないからね。カレン、馬車の中に入っておくれ」


「あ? 何するんだよ、ダンスレイル」


 御者席にいたカレンを馬車の中に呼び戻し、ダンスレイルは代わりに外に出る。翼を広げ、馬車の上に飛ぶとオーブを呼び出し獣の力を解放した。


「ビーストソウル……リリース! 空を飛べば、悪路なんて関係ないさ。このままこの国の端までひとっ飛びするよ!」


 大輪の花が咲いたつるを全身に纏い、半人半鳥の姿になったダンスレイルは両足で馬車を持ち上げた。つるを伸ばして馬車と馬を固定し、落ちてしまわないようにする。


「んにゅ……ふああー。なんな揺れてるね……あれ、飛んでる」


「あ、おはよリオくん。ダンちゃんがねぇ、馬車を空に持ち上げてるんだよ」


 馬車の揺れを感じ取り、リオが目を覚ます。馬車の窓から空を見ながら、リオは懐かしさを感じていた。かつてユグラシャード王国を旅した時も、馬車で空を飛んだのだ。


 ひょっこり顔を出し、風に当たっていたその時……リオは不穏な気配を感じ取った。南の空から、ワイバーンの群れが近付いてきており、よく見るとワイバーンには魔族が乗っている。


「隊長、魔神と思わしき連中を発見しました。如何致しましょうか」


「抹殺しろ。ダーネシア様のヤウリナ侵攻の邪魔立てはさせん」


 ひっそりと斥候の任務に着いていたダーネシアの部下たちが、リオ一行を発見したのだ。主であるダーネシアの計画の邪魔をさせまいと、先制攻撃を仕掛ける。


 一方、リオもダンスレイルたちに南からワイバーンに乗った魔族たちが接近してきていることを伝えた。現状、空を飛べる戦力がリオしかいないため、自ら迎撃に出る。


「僕があいつらを引き付ける! ダンねえは先に行って!」


「分かった……いや、もう一人暴れてもらおうかな。クイナ、行けるだろう?」


「もち! 拙者、空を()()()からね! いくよ、ビーストソウル……リリース!」


 そう言うと、クイナは馬車から飛び出す。リオが驚いている間に、クイナは獣の力を解き放ちサメの化身となる。身体に水のベールを纏い、なんと空中を泳ぎ始めた。


「わあ、凄い!」


「ふっふーん。どうどう? 拙者もねえ、地獄の特訓を耐え抜いたんだよ。成果を見せてあげるから楽しみにしててね!」


「うん!」


 リオは頷き、クイナと共に迎撃に向かう。双翼の盾を装着し、猛スピードで南へ突き進む。二十メートルほど進んだところで、両軍はぶつかり合う。


「来たか! お前たち、返り討ちにしてやれ!」


「そうはいかないよ! なんでここにいるかは知らないけど、他の人たちに危害を加える前に倒させてもらうよ!」


 斥候部隊の隊長とリオが互いに相手を威嚇するなか、戦いが始まった。計八体のワイバーンに乗った魔族たちは、火の玉を飛ばしリオとクイナを攻撃する。


 クイナはリオにいいところを見せようとはりきり、薄い水のカーテンを伸ばして火の玉を遮断する。水のカーテンを束ねたクイナは、巨大な手裏剣を作り出す。


「いっくよー! ゴブリン忍法『大水手裏剣』の術!」


「な……ぐわああっ!」


 放たれた手裏剣は空気中の水分を吸ってリーチを伸ばし、三体のワイバーンを魔族ごと両断した。圧倒的な殲滅力に目を丸くしつつ、リオも負けじと奮戦する。


「クイナさん、凄いなあ……。ようし、僕だって! メルトビッグバン!」


 リオは右の拳を握り、ジャスティス・ガントレットの力を解き放つ。赤と水色の宝玉が輝き、炎に包まれた水蒸気の塊が魔族たちに向かって飛んでいく。


「なんだ? これは?」


「知るもんか、ぶっ壊せ!」


 一人の魔族が訝しむなか、軽率な魔族がワイバーンを操り火球を吐かせる。水蒸気の塊に火球がぶつかった瞬間、大爆発が起こり魔族たちを跡形もなく吹き飛ばした。


 部下たちから離れていた隊長格の魔族だけは辛うじて生き残るも、凄まじい火力を前に呆然とすることしか出来ない。クイナも唖然としていたが、その瞳には熱が籠っていた。


「わあ……! やっぱりリオくんは凄いなぁ! あんなの拙者にはまだ出来ないや……。リオくんを見習ってもっと頑張らなきゃ!」


「えへへ、それほどでも……」


 クイナに誉められ、リオは照れ笑いを浮かべる。一方、一瞬で部下を全滅させられた魔族の男は、悔しそうに歯噛みしながら撤退していく。


「クソッ……覚えていろ! ヤウリナにいるダーネシア様に言い付けてやるからな!」


「えっ……?」


 捨てセリフを残して帰っていく魔族の男を追撃しようとしていたリオは、予想外の言葉に目を丸くしてしまう。ヤウリナに、魔王軍の幹部がいる。


 初めてその情報を知ったリオは、追撃を止めクイナと共にダンスレイルたちの元へ戻っていく。ヤウリナに敵がいるならば、確実に戦いが起こるだろう。


「まさか、ヤウリナにまで手を伸ばしてるなんて……。これは一筋縄じゃいかなさそうだね」


 そう呟くリオの言葉は、後に現実のものとなる。すでに、ダーネシア率いる部隊が、ヤウリナへ侵入していたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空を泳ぐか(  ̄- ̄)これで海上戦ならどれだけヤバイんだ?Σ( ̄ロ ̄lll)
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