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178話―エルディモスの切り札

 粉々に砕けながら、バラルザーは吹き飛んでいく。キカイのパーツを撒き散らしながら地面を何回か転がった後、ようやく動きが止まった。


 手足は吹き飛び、もはや原型を留めない状態にまで損壊してなお、バラルザーは機能を停止していなかった。双眼がゆっくりと近付いてくるリオを捉えるも、何も出来ない。


「これで終わりだね、バラルザー。この一撃で……トドメを刺す」


「ク……ハハ。参ったな。この状況ではもう何も出来ん。私の負けだ」


 リオは一瞬、レケレスを介抱するファティマとエリザベートに視線を向けた後、ゆっくりと足を振り上げる。バラルザーの頭部に向かって降ろそうとした瞬間、声が響く。


『あー、あー。この音声が再生されてるっつーことは、俺がやられて人造魔神たちも全滅したってことだな。自分で言うのも何だが、クソみてぇな状況だな、おい』


 バラルザーの身体に内蔵されているスピーカーから、あらかじめ録音されていたエルディモスの声が聞こえてきたのだ。突然の出来事にリオが戸惑う中、音声は続く。


『まあ、俺は天才だからな、こんなこともあろうかとバックアップを残しておいた。昔、ザシュロームが作ったまま放置してた自動人形(オートマトン)五千体とバラルザーを材料に、()()()()()()()()出来るように細工したぜ』


 こうなることをあらかじめ予測していたらしく、エルディモスは最後の最後でとんでもない隠し玉の存在をあらわにしてきた。直後、人形たちの残骸に異変が起きる。


 突如残骸が空中に浮かび上がり、一つに集まり始めたのだ。リオたちが唖然としていると、バラルザーの身体も浮き上がり、キカイの塊と一体化し始めた。


『ま、この音声が終わる頃にゃあ誕生してるだろうよ。最強の機巧の戦士がな! ギャハハハハハハハハ!!!』


 エルディモスの不快な笑い声が響き渡るなか、キカイの塊に変化が起こる。パーツがひとりでに組み上がり、腕や足、頭といった部位を構築し始めたのだ。


 この場に留まるのは危険だと判断し、リオは界門の盾を開いてファティマたちと一緒に避難する。離れた場所に呼び出した、レオ・パラディオンの足元にて状況を窺う。


「我が君、この状況……如何致しましょう?」


「まさか、エルディモスが復活するなんて……。こんなの、予想外だよ……」


 ファティマの言葉に、リオはそう答える。その間にもキカイの塊は変化を続け、身長百メートルは越えるであろう機巧の巨人となりエルディモスが復活を遂げた。


「グハハハハハハ!! ようやくよみがえったぞ! この力で、帝国を蹂躙してくれるわ!」


「で、でかい……! レオ・パラディオンの何倍もある……!」


 天を衝く巨人となったエルディモスを見上げながら、リオは焦りのこもった声でそう呟く。軽く見積もっても、レオ・パラディオンの五倍近い大きさがある相手に勝つのは厳しいだろう。


 とはいえ、生身で挑んだところで返り討ちに合うのは誰の目にも明らかだ。対抗策が見つからず万事休すかと思われたその時、エルカリオスの声がネックレスから響いてくる。


『リオよ。聞こえているか? どうやら、私の力が必要なようだな。ここは一つ、私が力を貸そう』


「え? どうやって……」


『もう一度、私が顕現する。その後で話そう』


 リオの問いにそう答えつつ、炎を纏ったエルカリオスがエリザベートに憑依し再び姿を現す。遠くで復活の喜びを噛み締めているエルディモスを見ながら、フンと鼻を鳴らした。


「性懲りもなくよみがえったか。なら、もう一度あの世に叩き落としてやるまでだ。レオ・パラディオンと言ったか……この兵器と私の力を合わせれば、奴に対抗出来るだろう」


「……そうか! ビーストソウル!」


 エルカリオスの策に気付いたリオはそう叫ぶ。リオに頷きながら、エルカリオスは剣が納められた赤色のオーブを作り出し両手で抱える。


「……この力を使うのは、一万年ぶりだ。お前たち、危ないから離れていろ。さあ、今こそ……我が力を解き放つ! ビーストソウル……リリース!」


 リオたちを遠ざけた後、エルカリオスは紅の輝きを放つオーブを取り込み力を解放する。炎が吹き荒れ、太い火柱が天高く立ち昇っていく。


「……む? 奴らめ、何をするつもりだ? まあいい、今の俺の敵ではない。放っておいても問題はないだろう」


 エルディモスは火柱に気付くも、タカをくくって無視を決め込んだ。リオたちに背を向けた直後、火柱が霧散しエルカリオスが姿を現す。


 ――紅蓮の体躯と大きく広げられた翼を持った、身の丈二十メートルを越える巨大なドラゴンへと姿を変えて。


「す、凄い……。これが兄さんの獣の力……!」


「ふむ、よく馴染んでいる。これなら存分に戦えよう。リオよ、あの兵器に乗り込み、我が背に跨がれ。今度こそ、あやつを滅ぼすのだ」


「うん!」


 エルカリオスの言葉に頷き、リオはカギをかざしてレオ・パラディオンのコックピットに乗り込もうとする。が、身体を起こしたレケレスが待ったをかけた。


「待って……私も、一緒に行く。おとーとくんだけに危ないことはさせられないよ」


「ダメだよ、おねーちゃん。そんなボロボロなのに……」


「だいじょーぶ! 傷も治ってきてるし、まだ戦えるよ!」


 自分も共に戦おうと、レケレスは立ち上がる。ある程度の傷は魔神の治癒能力で再生しているとはいえ、まだ全快とはほど遠い状態であった。


 何度か問答が続いた後、最終的にリオが折れた。レケレスと手を繋ぎ、カギを天にかざす。すると、二人の身体が消え、コックピットの中に転送される。


「わあ、すごーい。見たことないピカピカがいっぱいある!」


「あんまりあちこち触っちゃダメだよ、おねーちゃん。僕も、ここにあるキカイの役割を全部知ってるわけじゃないから」


 改良が施され、一人でレオ・パラディオンを操縦出来るようになっていたが、コックピットの広さは変わっていなかった。おかげで、二人は快適な乗り心地を味わうことが出来た。


「さあ、いくよ! ブレインコントロールデバイス接続! 目覚めよ、レオ・パラディオン!」


 ヘルメット型のコントロール装置を装着し、リオはレオ・パラディオンを起動させる。エルカリオスの背に乗り、炎の手綱を握り締めると、巨竜は翼を羽ばたかせ空へ浮かぶ。


「ゆくぞリオ、レケレス! 我ら真なる魔神の力を見せつけるのだ!」


「うん!」


「おおー!」


 雄叫びを上げながら、エルカリオスは猛スピードで空を飛ぶ。隙だらけなエルディモスの背中に体当たりをブチかまし、挨拶代わりの先制攻撃を叩き込んだ。


「ぐおっ!? な、なんだ!?」


「逃がさないよ、エルディモス! お前がよみがえったなら、もう一度地獄に叩き落としてやる!」


「チッ、邪魔をしおって……! 羽虫如きがこの俺に勝てると思うな!」


 エルディモスは激昂しながら、太い腕を振りかぶりパンチを繰り出す。華麗な空中制動で攻撃を避けつつ、エルカリオスは一空高く舞い上がる。


 口の中に炎を集め、灼熱のブレスをエルディモス目掛けて放射した。


「食らうがいい! フレアブレス!」


「ぐぬう! ちょこざいな!」


 顔面を狙って放たれた炎のブレスを手で防ぎつつ、エルディモスは肩のパーツをスライドさせる。肩に格納されている大量の矢を発射し、エルカリオスを串刺しにしようとする。


「これでも食らうがいい!」


「そうはさせない! パラディンシールド!」


 リオはレオ・パラディオンの右腕を覆う強化装甲外骨格(エグゾスケルアーマー)を変形させ、巨大なラウンドシールドを作り出す。盾を構え、矢を全て防いでみせた。


「助かったぞ、リオ。今度はお前の番だ。派手に決めてやれ!」


「うん! 食らえ! ジャッジメント・セイバー!」


「させるものか! デウスエクスブレイド!」


 レオ・パラディオンの左腕を覆う強化装甲外骨格(エグゾスケルアーマー)が形を変え、巨大な剣になる。リオはジャッジメント・セイバーを振るうも、防がれてしまう。


「武装を使えるのが貴様だけだと思うなよ! 俺の身体にはバラルザーたち四人の人造魔神の力が宿っているんだ、そう簡単には勝てん!」


「いいや、勝つさ。僕たちとお前たち……どっちの絆の方が強いのか、勝負だ! エルディモス!」


 邪悪なキカイの巨人と、機巧の竜騎士の一騎討ちが今、幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 残骸から再生復活とは渋い奴よ(´д`|||) そんで竜に股がり竜騎士モードかそれもいいがエルカリオス+レケレスの力で第二形態なんかもロマンだな(  ̄ー ̄)ノ
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