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168話―ベーモン防衛作戦

 翌日の早朝……リオはファティマと共にメルミレン近郊の町ベーモンにいた。調査の結果、魔族たちは工場のある町を中心に襲撃する傾向があることに気付いたからだ。


 大きな工場がいくつもある工業の町であるベーモンが次の標的になる確率が高いと判断し、リオは夜が明ける前にメルミレンを発った。結果、襲撃前に町に到着出来た。




「ふーちゃん。魔族たち、来るかな?」


「……今のところ、わたくしのセンサーに反応はありませんね。まあ、温かい紅茶でも飲みながらのんびりと待ちましょう」


 リオとファティマは町の外に出てかまくらを作り、その中で魔族たちの襲来を待っていた。ファティマが持参した水筒に入った紅茶を飲んでいると、センサーに反応が出る。


 魔族たちがベーモンの町を襲うため、大挙してやってきたのである。二人は急いで紅茶を飲み干し、かまくらの入り口から顔を覗かせ外の様子をこっそりと伺う。


「ふーちゃん、敵の数は?」


「総勢十六名ですね。うち一名は……以前出会った人造魔神のようです。我が君、いかが致しますか?」


「よし、打って出よう。あいつらを町に入れるわけにはいかないからね!」


 ファティマに問われ、リオはすぐに答えた。これ以上魔族たちの好き放題にさせるつもりは毛頭なく、二人はかまくらを飛び出し雪原に立つ。


 一方、グレイシャ率いる部隊の面々は鳥の魔物に乗り、ベーモンの町へ空から押し入ろうとしていた。町を目前にしたその時、一人の魔族兵が地上を見る。


「……ん? 今何か下で光らなかったか?」


「そうか? 光が反射してよく見えな……ぐあっ!」


 二人の魔族兵がやり取りしていた次の瞬間、地上から何かが飛来し片方に直撃した。地上にいるリオが飛刃の盾を投げつけ、先制攻撃を叩き込んだのである。


 朝日が雪に反射し、視認性を下げているせいで魔族兵たちはリオの存在に気付くのが遅れたのだ。――ただ一人、人造魔神たるグレイシャを除いては。


「フン、生意気な小僧め。ずいぶんな挨拶だな。お前たち、先に行ってろ。オレはあの小僧を始末してから行く」


「ハッ!」


 グレイシャは部下たちを先行させ、自らリオを抹殺せんと鳥の魔物から飛び降りる。雪原に降り立ったグレイシャは、長い鼻を動かし首を掻き切るジェスチャーを行う。


 脇腹のパーツを展開し、体内に格納していた鞭を取り出してお返しだとばかりにリオへ飛びかかる。鞭が空気を切り裂き、勢いよく叩き付けられようとしていた。


「小僧ウウウゥゥ!! お前はこのオレが殺してやるよおおォォォ!!」


「わっ……と!」


 リオはグレイシャの第一打を不壊の盾で受け止め、その後は回避に徹する。変幻自在の軌道を持つ二本の鞭による攻撃を盾で受け止め続けるのは、困難だと判断したからだ。


「フン、よけるだけかぁ? そんなんじゃ、オレには勝てねえなぁ! それに、オレの部下どもが町に到着しちまうぜぇ?」


「大丈夫だよ。あの魔族たちはふーちゃんが相手してくれてるからね」


「ああ? んだと……」


 次の瞬間、ベーモンの上空で派手な爆発音が鳴り響く。魔族たちの侵入を阻止するため、ファティマが戦いを始めたのだ。グレイシャは不機嫌そうに鼻を鳴らし、鞭を構える。


「フン! まあいいさ。なら貴様らを叩きのめせばいいだけだからな! 鞭の魔神の力を見せてやる!」


「やれるものならやってみなよ! まあ、負けるつもりはないけどね!」


 鞭が乱れ飛ぶなか、リオは攻撃を避けながら少しずつ前進しグレイシャに近付く。遠距離から攻撃しても鞭で叩き落とされてしまうだろうと踏み、近距離攻撃を行うことにしたのだ。


 その作戦に気付いているらしく、グレイシャの方も雪原を動き回りながら鞭を振り、リオを牽制する。中距離から一方的にいたぶり殺すつもりのようだが、そう上手くはいかない。


「ちょこまかと動き回りおって! いい加減死ね!」


「そうはいかないよ! ジャスティス・ガントレット発動! フローズン・エア!」


 リオはジャスティス・ガントレットの力を解き放ち、反撃を行う。青と灰色の宝玉が輝き、冷たい北風が吹き荒ぶ。風は鞭をあっという間に凍らせ、固めてしまう。


 武器を機能不全に陥らされたグレイシャは、打つ手なしの状況に追い込まれた。と思われたが……。


「これで鞭は封じた! 食らえシールド……」


「甘いんだよ! オレにはまだ鞭があるぜ! 食らいな、ノーズウィップ!」


「うあっ!」


 グレイシャは長い象の鼻を振るい、近付いてきたリオに対してカウンターを叩き込んだのだ。鼻の中から出現した氷の刃によって、リオは顔の左側に傷を負ってしまう。


「くう、まさか鼻を鞭にするなんて……」


「バァーハハハハ! お前が猫の力を宿しているように、オレも宿しているんだよォ。象の力をなぁ! お次はこうだ! ロングタスク・スピア!」


 カウンターを決めたグレイシャは、鼻の両脇に生えている湾曲した牙を伸ばし追撃を放つ。リオは牙を盾で防ぎながら、傷を治すため少しずつ後退する。


 その間、グレイシャは牙による攻撃をしながら今度は前進していく。すでにリオが仕込みを始めているとは夢にも思わずに。


「バァーハハハハ! どうしたどうした、もうへっぴり腰か!」


「違うよ。ちょっとだけ準備してるんだ。お前を倒すための準備をね! ……今だ! フロストマイン!」


 リオは再びジャスティス・ガントレットの力を発動し、青色の宝玉を輝かせる。グレイシャの足元にある雪が炸裂し、強固な足枷となり動きを封じた。


「ぐうっ、なんだこれは! このっ、外れろ!」


「無理だよ、力ずくで壊そうとしてもね。近くの雪を吸収して修復されるから」


 その言葉通り、グレイシャが枷を壊す側から周囲の雪を吸い取って修復されていく。足枷の破壊を一旦諦めたグレイシャは、再び牙による攻撃を行う。


「ハッ、動きを封じたところで何の意味もない! オレの伸縮自在の牙と鼻がある限り、お前は近付けないんだからな!」


「近付かなくてもお前を倒す方法はあるさ! お前たちの襲撃に備えて、仕込みはたくさんしてきたからね! 出でよ、界門の盾!」


 リオはそう叫び、界門の盾を呼び出しゲートを開く。すると、中から大きなドラム缶が転がってきた。門の向こうでは、モローがドラム缶を転がしている。


「ドラム缶だぁ? ハッ、そんなもんで何が出来るってんだよ」


「ただのドラム缶じゃないよ? この中にはね、キカイを溶かしちゃうコウジョウハイエキ? ってのがたくさん入ってるんだってさ」


 その言葉に、グレイシャの顔から笑みが消えた。センサーによる解析の結果、総勢八つのドラム缶の中は工場廃液で満たされていたのだ。


 リオは廃液で満タンのとんでもなく重いドラム缶をしっぽで掴み、ゆっくりと持ち上げる。そして……。


「これでも食らえー!」


「この小僧……マジか!?」


 グレイシャに向かって、勢いよくブン投げた。ドラム缶は老朽化しており、牙や鼻で叩き落とそうとすれば、即座に破裂し廃液が撒き散らされるだろう。


 そうなればグレイシャといえどただでは済まない。とはいえ、そう簡単に廃液の直撃を許すほど、リミッターを解除した人造魔神は甘くない。


 リーロンがそうだったように、グレイシャにもまた切り札があるのだ。


「オレじゃなかったら詰みだったがよぉ……。オレにはコイツがあるんだよ! クリスタル・シャワー!」


「えっ……!?」


 グレイシャは大きく息を吸い込んだ後、鼻から透明な液体を発射する。すると、ドラム缶が瞬く間に透明な結晶に包み込まれてしまった。


「これは一体……!?」


「バァーハハハハ! オレは体内に凍結液が入ったタンクを内蔵してあるのさ! どんなモノでも結晶にしちまう……強力なやつをなぁ!」


 その言葉に、リオは気を引き締める。二人目の人造魔神も、強大な力を持つ存在なのだということを、身をもって知ったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鞭の魔神なんていってるけどまんまマ○モス○ンやんけ(|| ゜Д゜)こんな奴にロシア戦法は無理だロ○ン戦法で挑まんとΣ( ̄ロ ̄lll)
[一言] グレイシャ、コイツも強敵だな…… どうでもいいですが、『下の方のムチ』とか使えぶべら!?
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