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16話―盾魔神リオ・アイギストス

「ど、どうしてここに!? アイージャさん、消滅しちゃったはずなのに……」


 何故己の精神世界の中にアイージャがいるのか。理解が追い付かず混乱するリオに近寄りながら、アイージャは話し出す。何故消滅したはずの自分が、リオの中にいるのかを。


「そうだ。確かに、(わらわ)はあの時滅びた。そう、()()()()。だが、妾の魂までは滅んではおらぬ。力を継承した時に、お主に血を飲ませただろう?」


「う、うん……」


 継承の儀を行った時のことを思い出し、リオは頷く。確かにあの時、リオはアイージャと口付けを交わし、彼女の血を与えれたのだ。


「その時、血と一緒に妾の魂もお主の中へと送り込み眠っていたのだ。いつの日か、妾の助けが必要になった時に備えて、な。そして今、妾の助けが必要な時が来た」


 そう言うと、アイージャはそっと両手をリオの頬に添える。かつて神殿の中で出会った時と同じ微笑みを浮かべ、優しくリオを見つめる。


 その瞬間、リオは悟った。今再び、アイージャが己に力を授けようとしてくれているのだということを。


「リオ。今一度、妾がお主に力を与えよう。魔神の力に肉体が馴染んだ今なら……妾たち魔神が持つ真の力を使いこなせよう」


「魔神の、真の力……?」


 アイージャの言葉に、リオはそう呟く。あの時与えられた力が魔神の全て。そう思っていたリオにとって、アイージャの言葉は驚くべきものだった。


 リオを見つめながら、アイージャは猫耳をプルプル震わせる。リオの瑠璃色の瞳を覗き込みながら、そっと己の後継者たる少年を胸元に引き寄せる。


「……一つだけ、心残りがあった。あの時、妾の全てをお主に与えられなかったことを。だが、今は違う。魔神の力が馴染み、眠りに着いていた妾も目覚めた」


 そこまで言うと、アイージャは位置を調整しリオと真正面から向かい合う。かつての魔神と、今の魔神。二人は黙って互いを見つめ合う。


「リオよ。受け取ってくれるか? 妾の真なる力を」


「……うん。僕は、みんなを助けたい。カレンお姉ちゃんも、ジーナさんもサリアさんも……大切な人たちを、守りたい。そのために……もう一度、僕に力をください!」


 リオは決意を込めてそう口にする。ジーナとサリアを守れなかったという後悔が、彼の背中を押す。アイージャは再びリオと深い口付けを交わし、己の持つ力の全てをリオへ渡す。


 かつてとは違い、リオの身体の中を冷たい氷の魔力が駆け巡り満たしていく。氷を司る盾の獣の力が、リオを新たなステージへと導き、その力を増幅する。


「リオよ。今この時より名乗るがいい! 新たなる盾の魔神……リオ・アイギストスの名を!」


 アイージャが叫ぶのと同時に、精神世界を青い光が満たしていく。リオが雄叫びを上げた直後、視界が闇に染まった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「ぐっ……。はあ、はあ……どうした? 自慢の傀儡の力はそんなもんかよ?」


「あり得ぬ……このオーガ、どこまで耐えるつもりなのだ!?」


 その頃、闇の結界の中ではリオを守らんとカレンが奮闘していた。鎧はヒビ割れ、全身から血が流れている。それでも、カレンは膝を着かない。


 愛する者を守るために、何度でも、何度でも……不死鳥の如くよみがえり、ザシュロームに立ち向かっていく。一向に倒れないカレンを前に、傀儡道化は焦りを募らせる。


「ぬうう……! 倒れろ! 倒れろ! 倒れろ! たかがオーガごときが、いつまでも粘るな!」


「嫌だね! てめえなんぞにリオを渡すくらいなら、道連れにしてやったほうがマシだ!」


 ジーナ・ドールの鉄拳の連打を金棒で凌いでいたカレンだが、足元に出来た血溜まりに足を滑らせてしまう。


「! やべっ……」


「これで終わりだ! その顔を粉砕してくれるわ!」


 死を覚悟したカレンは、目を瞑り痛みが襲ってくるのを待つ。が、一向に痛みを感じないことに疑問を抱き、恐る恐るまぶたを開く。


 そして、彼女は見た。気絶していたはずのリオが、ジーナ・ドールの拳を右手で受け止めている姿を。


「リ、オ……?」


「一人で戦わせてごめんなさい、お姉ちゃん。でも、もう大丈夫だよ。ここからは……僕が、戦うから! ビーストソウル、リリース!」


 リオが叫ぶと、彼の身体から青い光が放たれる。光はザシュロームを傀儡もろとも吹き飛ばし、闇の結界を粉々に破壊する。そして、騎士たちと戦っていた魔族たちを一瞬で氷像へ変えた。


「な、なんだ!? 一体何が起きているのだ!?」


「ギ、ギオネイ将軍! あれを見るであります!」


 ギオネイたちは光の発生源に目を向ける。光が収まると、そこにはリオが立っていた。両足を分厚いの氷の具足で覆い、手にバレーボールほどの大きさの青色のオーブを持った状態で。


 オーブの中には盾が納められており、僅かに光が漏れていた。リオはオーブを身体の中に取り込み、両手を真横へ広げる。そして、大声で叫びを上げた。


「出でよ! 氷爪の盾!」


 リオの声に呼応し、冷気が彼の両腕に集まる。三つの鉤爪を備えた細長い六角形の盾を装着し、リオはザシュローム目掛けて走り出す。


「よくもお姉ちゃんをいじめたな! 絶対に許さないぞ、ザシュローム!」


「ぬうっ、返り討ちに……」


 ザシュロームはジーナ・ドールを操り、リオを迎撃しようとする。しかし、気が付いた時には近くの民家の壁に叩き付けられていた。


 数拍遅れて、ようやくザシュロームはリオの攻撃を受けたという現実を理解した。ジーナ・ドールは地に倒れ伏し、元の人形に戻る。


 二つの人形を失い、ザシュロームは徒手空拳で戦わざるをえない状況に追い込まれた。しかも、配下の部隊はリオと騎士たちの手で倒され、援軍も望めない。


「ぐうっ……! この程度の劣勢、まだ覆せる! 私を甘く見るなよ、少年……いや、リオ!」


 そう叫ぶと、ザシュロームはリオへ飛びかかる。ボグリスにそうしたように、彼も己の拳で叩きのめそうと突進していく。


「ごめんね、ザシュローム。僕は負けるつもりはないよ。出でよ、凍鏡(いてがみ)の盾」


 リオがそう口にすると、二人の間に氷で作られた大きな青色のヒーターシールドが出現する。ザシュロームは構うものかと盾に向かって拳の雨を叩き込む。


 が、どれだけ殴っても凍鏡の盾は砕けない。そればかりか、衝撃を吸収しより固く強靭さを増していく。


「何故だ!? 何故砕けぬ! こんなちゃちな盾、砕けぬはずがない!」


「ちゃちな盾なんかじゃない! アイージャさんから受け継いだ魔神の力を舐めるな、ザシュローム! 凍鏡の盾よ、その身に受けし力の全てを跳ね返せ! ミラーリングインパクト!」


 リオが叫ぶと、凍鏡の盾がそれまで蓄えた衝撃の全てをザシュロームに跳ね返した。ザシュロームは衝撃に耐えきれず、呻き声を上げながら吹き飛ばされる。


 それを見たリオは凍鏡の盾を消し、背中に双翼の盾を装着してザシュロームに向かって飛びかかっていく。両腕に装着した氷爪の盾を振りかぶり、トドメの一撃を叩き込む。


「食らえ、ザシュローム! ジーナさんとサリアさんの痛みを思い知れ! アイスシールド・スラッシャー!」


「ぐおああああああ!!」


 鉤爪で胴を切り裂かれ、ザシュロームは遠く離れた場所にある教会の壁に激突する。崩れ落ちた瓦礫の中に埋もれ、ピクリとも動かなくなった。


「お、おい……ザシュローム様がやられちまったぞ……」


「あんな奴に勝てるわけがねえ! 逃げろー!」


 僅かに生き残っていた魔族の兵士とレッサーデーモンたちは、ザシュロームが敗北したのを見てクモの子を散らすように敗走していく。


 上空に出来た空間の歪みの中に飛び込み、みっともなく魔界へと帰っていった。その様子を見ながら、カレンはへなへなとその場に座り込む。


「……ははっ。全く、リオはすげえや。ザシュロームの野郎を一撃でぶっ倒しちまったぜ」


「お姉ちゃん! 大丈夫!?」


 その時、リオがカレンの元へ駆け寄ってくる。盾も氷の具足も全て消え、心配そうにカレンへ飛び付いた。カレンはリオを力いっぱい抱き締め、ニシシと笑う。


「おう! アタイなら大丈夫さ。あんな人形なんかの手でくたばるほど弱くは……って、なんだよ、泣いてるのか?」


「だって、だってぇ……お姉ちゃん、死んじゃうかもって、思った、から……」


 緊張の糸がほぐれたリオは、カレンの腕の中で泣き出してしまった。大切な仲間を守れた。その嬉し涙につられ、カレンの目尻にも涙が浮かぶ。


「へへっ、嬉しいな。そんなにアタイのことを大事に思ってくれてるなんてよ。ありがとな、リオ。リオのこと……大好きだぜ」


 そう呟き、カレンはそっとリオの額に口付けをする。その光景を見た騎士たちは、リオの健闘を称え敬礼をする。彼らの顔には、微笑みが浮かんでいた。


 ――今日この日、次代を担う盾の魔神が産声を上げた。それを知る者は、まだほんの僅かしかいない。しかし、すぐに全世界の者が知ることになるだろう。


 新たなる盾魔神、リオ・アイギストスの名を。

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