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13話―酔っ払いは軍人さん

「お姉ちゃん……一体どうなってるの? これ」


「さあなあ……。あのおっさん、紹介状に何を書きやがったんだろうな。こんな場所に通されるとはよ」


 帝国軍本部の最上階にある応接間に通されたリオとカレンは、困惑しながら周りを見る。豪華な装飾が施された部屋の中を見ながら、リオは何故こうなったのかを思い返していた。



◇―――――――――――――――――――――◇



 一時間ほど前、帝都ガランザに着いたリオとカレンは、帝国軍本部へ向かって大通りを歩いていた。タンザやメイレンより複雑な通りを進み、目的地を目指すが……。


「だぁめだ、全然道が分からん。案内所で貰った地図、クソの役にも立ちゃしねえな」


「ここ、どこなんだろ……。変なところに来ちゃったね、お姉ちゃん。空気も悪いし、早く戻ろうよ」


 道に迷った二人は、帝都の西にあるスラムへ迷い込んでしまった。余計なトラブルに巻き込まれないよう来た道を戻ろうとすると、前方からガチャンという音が響く。


 二人は音の正体が気になり、そっと身体を前に乗り出す。少し離れた場所にある狭い空き地に数人の男たちが集まり、何かを行っているのが見えた。


「んん? あいつらスラムの住人か? 何やって……って、あいつら誰かをリンチしてんのか!?」


 男たちが何をしているのかをジッと見ていたカレンは、彼らが黒い服を来た人物を蹴り付けていることに気付いた。黒服の人物は地面に横たわり、なすがままにされる。


「あいつら……寄ってたかってリンチするたぁいい根性してるじゃねえか。アタイがボコって……」


「待ってお姉ちゃん。こんな狭いところじゃ金棒が使えないよ。ここは僕に任せて!」


 空き地に向かって飛び出そうとするカレンを制止し、リオは頼もしく胸を張る。カレンに通りの陰に隠れてもらった後、大きく息を吸い込み叫ぶ。


「おーい! みんなー、こっちだよー! こっちにおいでー!」


 リオは『引き寄せ』を発動し、男たちの敵意を自分へと向け黒服の人物を助ける作戦に出た。効果はてきめんであり、男たちは一斉に声が響いてきた通りへ顔を向ける。


「なんだ、今の声は!?」


「知らねえな。でもよ、どうにもあの声ムカつくんだよな……。こんな奴ほっといて、あの声の主をボコりに行くぞ!」


「おお!」


 男たちが向かって来るのを見たリオは、民間の壁に飛び付きよじ登っていく。男たちはリオやカレンに気付かず、通りの奥へと消えていった。


 リオは地面に降り、カレンと共に空き地へ向かう。うつ伏せに倒れている人物に近寄り、仰向けにして身体を揺さぶりながら声をかける。


「おい、大丈夫か!? しっかりしろ、傷は浅いぞ!」


「……ねえ、お姉ちゃん。この人、もしかして酔っ払ってる?」


 いくら揺すっても起きる気配のない黒服に焦るカレンの横で、リオがそう呟く。よく見ると、黒服の人物は顔が赤く染まっており、吐く息は酒臭かった。


 死んでしまったのかと思っていたカレンは脱力し、その場に崩れ落ちる。リオは心配そうにカレンの腕にしっぽを巻き付け、立ち上がらせようとする。


「んだよ……心配して損したぜ。いい服着てるし、大方酒に酔ってスラムに迷い込んだいいとこのボンボンって感じかぁ? 迷惑な話だぜ、ったく」


「でも、無事みたいでよかったね。あれだけ蹴られてたのに、傷一つないもん」


 そう言うと、リオはしっぽで黒服の顔をさわさわする。整った中性的な顔立ちに加え、すっぽりと帽子を被っている故に男か女か区別出来ずカレンは考え込む。


(しっかし、こいつは誰なんだろうな? 男にせよ女にせよ、こんなカッコでスラムなんかに入ったらいいカモになるって分からんのかねぇ)


 そんなことを考えている間、リオはしっぽでこちょこちょと黒服の顔をくすぐる。次の瞬間、黒服は勢いよくくしゃみをし起き上がった。


「はっくしょん! うう、何事でありますか? あれ、ここは一体……自分、酒場で飲んでいたはずでありますが……」


「お、やっと起きやがったか。この酔っ払いめ。ひとまずここからずらかるぞ。また面倒なことになったら嫌だからな」


 キョロキョロと周囲を見渡す黒服に、カレンが声をかける。黒服はポケーッとしていたが、またコテッと寝てしまった。


「おやすみであります……」


「おやすみじゃねえよ!? 起きろ! こら、自分で歩け!」


「あれ? お姉ちゃん、ポケットから何か出てきたよ? 名刺……なのかな?」


 爆睡している黒服の胸ぐらをカレンが掴み上げると、その拍子にポケットから名刺らしきものが落ちた。それを拾い上げ、じっと見ていたリオは目を丸くする。


「にゃっ! この人、軍人さんだって。ほら、ここにアーリー・メイチェルって名前が書いてあるよ」


「軍人だぁ? 軍人にしちゃアホな奴だな……。まあいいや、さっさと行こうぜ。ここにいるのはもう飽きた」


 カレンは黒服――アーリーを担ぎ上げ、リオと共にスラムを出る。道中目を覚ましたアーリーに案内され、ようやく二人は帝国軍本部へ到着した。


「いやー、申し訳ないであります。自分、どうも酔うとあちこち放浪するクセがあるようで……迷惑かけてすみませんであります」


「ホントだよ、ったく……。ま、おかげで帝国軍本部まで来られたからいいけどよ」


 アーリーはひたすらペコペコ頭を下げ、リオたちに謝罪する。三人が本部の正門に着くと、見張りの兵士がアーリーを見て大声を出す。


「ああっ! やっと戻って来たな、アーリー! 昨日からどこ行ってたんだ!? 将軍が凄くお怒りだったぞ! 今すぐ謝ってこい!」


「うっ、そうでありましょうな……。はあ、これは三ヶ月は減俸を覚悟しなくてはいけないでありますな、とほほ……」


 アーリーはそう呟き、正門をくぐって中に入る。見張りの兵士はリオたちに気付き、声をかけた。


「ん? 君たちは……ああ、アーリーを見つけてきてくれたのか。悪いな、冒険者にまで迷惑かけて」


「気にしてないよ。僕たち、ここに用があっから道案内してもらって助かったもん。これ、偉い人に渡してくれますか?」


 リオはポーチから紹介状を取り出し、見張りの兵士に手渡す。兵士は怪訝そうな顔付きで紹介状を受け取り、書かれている内容を読み始める。


 少しして、見張りの兵士は驚愕の表情を浮かべリオと紹介状を交互に見やる。リオとカレンが首を傾げていると、見張りの兵士は緊張した声で二人に告げた。


「す、少しお待ちください! ただ今迎えの者を寄越しますので!」


「え? あ、まっ……」


 兵士は脱兎の如く駆け出し、本部の中へ消えていった。その後ろ姿を、リオとカレンは見送ることしか出来なかった。



◇―――――――――――――――――――――◇



 リオがこれまでのことを思い返していると、応接間の扉が開き一人の男が入ってきた。軍服の胸元には多くの勲章が付けられており、一目で偉い人であることが分かる。


「いや、お待たせしました。我輩はギオネイ。アーティメル帝国軍を纏める将軍の一人です。以後、お見知りおきを」


「は、はい! こ、こちらこしょ……あう」


 いきなり軍のお偉いさんと面会することになるとは思っていなかったリオは盛大に噛んでしまい、顔を赤くしてうつむく。微笑ましそうにそれを見ていたギオネイは、本題を話し出す。


「さて、まずはお二人に感謝しなければなりませんな。例の紹介状に、あなた方が魔王軍から手に入れた指令書について書いてありましてね。見せてもらえますかな?」


「あ、はい、どうぞ……」


 リオはポーチから指令書を取り出し、ギオネイに渡す。指令書の内容を読んだギオネイは、顔を強張らせ懐にしまう。


「いや、これは……お二人とも、感謝します。すでに帝都に敵の魔の手が伸びていたとは。もしお二人がいなければ、我々は一方的にやられていたでしょう。感謝してもしたりない」


「感謝ならリオにしてくれよ、将軍サン。その指令書を手に入れたのはリオなんだからな」


 そう言うと、カレンはリオの頭を撫でる。リオが気持ち良さそうに喉を鳴らしてカレンに甘えていると、ギオネイが聞き捨てならないことを言い出した。


「いや、流石ですな。先天性技能(コンジェニタルスキル)を二つも所有しているだけあるというものだ」


「……へ? ふ、二つ?」


 ギオネイの言葉に、若干雲行きが怪しくなってきたことを感じながらリオは尋ねる。すでに嫌な予感しかしていなかったが、ギオネイは二人の予想通りの言葉を口にした。


「ええ。この紹介状に書いてありましたよ。そこの少年は、先天性技能(コンジェニタルスキル)を二つ所有する、希代の天才なのだ、と」


 その言葉に、二人は絶句する。とんでもない勘違いが、リオに襲いかかろうとしていた。

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