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121話―魔王の誘い

 グランザームの言葉に、リオは何も言えなかった。それも仕方ないことであろう。突如敵の本拠地に拉致され、同盟を打診されたのだから。


 当の魔王自身もそれを理解しているらしく、もやの中から覗く片目からは若干申し訳なさそうな気配を放っていた。本当に若干ではあったが。


「ふむ……少し急過ぎたか。何も事情を知らぬのだろう? 少し長くなるが聞かせてやろう。何故余がお前を招いたのかを」


 そう言うと、グランザームは語り出す。リオたちが神の子どもたち(カル・チルドレン)を倒してから七日の間、裏側で何が起きていたのかを。


 何故リオにとって不倶戴天の敵である魔王が、同盟を結ぶことに思い至ったのかを。



◇―――――――――――――――――――――◇



 ――四日前、グランザームは己の分身をとある場所へ派遣していた。魔界を覆う結界が消え、邪悪な気配が流れ込み始めていることを危惧し、自ら調査に乗り出したのだ。


 彼が訪れたのは、ファルファレーが潜む流刑地、事象の地平であった。色を失った大地を歩きながら、グランザームは気配をたどる。そしてみつけだす。不倶戴天の敵を。


「ほう、これはこれは。偉大なる魔王閣下が、こんな場所に何のご用かな?」


「とぼけるな、ファルファレー。分かっているはずだ、ここに余が来る……それが何を意味しているかを」


 事象の地平のとあるエリアに、ファルファレーはいた。小さな岩の上に腰掛け、悠然とした様子でグランザームに声をかける。


 まるで、彼がこの場所に来ることを知っていたかのように。


「ククク、勿論だとも。だからこそ、ジェルナがお前に挑むことを止めなかったのだから。あやつから聞き出したのだろう? 我の計画……神々の宴(ゴッズパーティー)を」


「そうだ。だからこそ止めにきた。貴様の邪悪な企みを阻止し、消し去るために」


 グランザームの言葉に、ファルファレーは愉快そうに高笑いをあげる。魔王はただ黙って立ち、かの者の笑いが止むまでじっと待ち続けた。


「面白い冗談だ! 貴様も我と同じ穴のムジナであろうに。大地の覇権を狙う者同士、そこに違いはないというのに……正義の味方でも気取るつもりか?」


「同じ穴のムジナ? いいや、それは違う。余はあくまでも己と組織の力で正々堂々神の座を奪うために動いている。だが貴様は違う。卑劣な手で神の力を奪い、歴史を書き換えるという禁じ手を行った」


「卑劣? フン、くだらぬな。矜持などというくだらぬものを優先し破滅するような愚かな真似をしない、ただそれだけのこと。だからこそ、我は今神となったのだ」


 二人の舌戦が繰り広げられるなか、周囲に張り詰めた空気が広がり、溢れ出た魔力が渦を巻く。他に生き物がいればすぐにでも逃げ出してしまうほど、禍々しい気配に満ちていた。


「ああ、もう一つ違う点が余と貴様にはあったな。余が目指すのは支配者であり、貴様が目指すのは殺戮者だ。異神を呼び込み、全ての命を根絶やしにし、何を目論む? 偽りの神よ」


「目論見? そんなものは決まっている。全ての命を滅ぼし、我に忠実な新たなる生命を創り出す。全ての大地を……そうだ、神々のいる神域も、闇の眷属が潜む暗域も! 全て滅ぼし創り直すのだ! 我が意のままに!」


 自分とファルファレーの違いを指摘し、返ってきた答えにグランザームは口をつぐむ。これ以上の対話は無意味だと、魔族を束ねる王として判断したのだ。


 魔力を放出し、大鎌を作り出すと、ファルファレーはニヤリと笑う。どこまでも侮蔑に満ちた笑みに、グランザームは殺気のこもった声で尋ねる。


「……何が可笑しい? 偽りの神よ」


「ククク……いやなに、たかが十分の一の力しか持たぬ分身風情が我に勝てるつもりでいるのが滑稽でな。まあよい、計画の始動まではまだ時間がある。遊んでやろう。かかってくるがいい」


 どこまでも余裕に満ちた態度を崩さないファルファレーに、グランザームは闘志をたぎらせる。ここまで挑発され、黙って帰るのは王としてのプライドが許さない。


 何より、自分がただの分身であると侮っている偽りの創世神に一泡吹かせてやりたいという思いがあったのだ。大鎌を構え、一瞬でファルファレーに肉薄する。


「……! くっ!」


「おや、これはこれは。あまりにもあっさりと傷を与えられたな。少し身体がなまっているのではないか? ファルファレー」


「貴様……!」


 辛うじて攻撃を避けたファルファレーだったが、完全に避けることは出来ずかすり傷を負ってしまう。先ほどの趣向返しとばかりに挑発され、憤怒の形相を浮かべる。


 グランザームの分身を滅ぼすべく、ファルファレーは力を解放する。燃え盛る炎のような複雑な形状の刃を柄の両端に備えたツインセイバーを呼び出し、片手で振り回す。


「我を怒らせたこと……死をもって償わせてくれる! たかが十分の一の……」


「おっと、一つ訂正させてもらおう。今の余は……本体の五分の一の力を持っている」


 ファルファレーの言葉を遮り、グランザームの分身は嗤う。大鎌を振るい、偽りの神を切り刻もうとする。対して、ファルファレーはツインセイバーを使い、的確に攻撃を捌く。


 二人の打ち合いは速度を増し、目にも止まらぬ速さへ加速していく。大鎌とツインセイバーがぶつかる甲高い金属音が鳴り響くなか、先に動いたのはグランザームだった。


「やるな。だが、これはどうかな? 冥門解放……壱の獄『万魔鏡』解放」


「むっ……!」


 グランザームが楕円形の鏡を作り出すと、ファルファレーは即座に攻撃の手を止める。鏡へ攻撃すれば自分にダメージが跳ね返ってくるこに、すぐに気付いたのだ。


「ほう、気付いたか。だが、どうやってこの状況を覆す? 貴様の手腕を見せてもらおうか!」


「フン、くだらぬ手品だ。ジェルナは引っ掛かったが、我はそうはいかぬ」


 鏡の中の世界に引っ込み、一方的な攻撃をしてくるグランザームに対しファルファレーはそう口にする。連続で繰り出される斬撃を避けつつ、ファルファレーがとった行動は――。


「この技の真の突破方法……それは! 己の背後にある……もう一つの不可視の鏡を砕くことだ!」


 そう叫ぶと、ファルファレーは己の背後にある何もない空間に向かって裏拳を叩き込む。すると、ガラスが砕け散る耳障りな音と共に、空間に亀裂が広がる。


 グランザームが生み出したものと対になる、もう一つの鏡が砕かれたのだ。すると、魔王が鏡の世界から吐き出され、万魔鏡は消滅してしまった。


「ふっ、やるな。こうも早々に万魔鏡の秘密を見抜かれるとは。神を騙るだけあるというものだ」


「随分と余裕だな。貴様の切り札はもはや封じられたのだ、少しは焦ったらどうだ! 残影剣!」


 技を破られてなお余裕の態度を見せるグランザームに、ファルファレーは苛立ちを募らせる。刃を地面に突き立て、影を操り魔王に斬撃を叩き込む。


 素早く飛び上がって影の刃から逃れたグランザームは、左手を伸ばし闇の鞭を作り出す。鞭をしならせ、地面に叩き付けて影の刃を破壊しつつ笑う。


「切り札? 愚かしいことを。万魔鏡は相手を試すための試金石に過ぎぬ。むしろ……これからが地獄の始まりなのだ、ファルファレー! 冥門解放……弐の獄『虚空針』解放!」


 グランザームは着地しつつ、新たなる冥門を開く。ファルファレーは周囲の空間に僅かな()()()を感知しつつも、その正体を探ろうとはしなかった。


「フン、何をするかと思えば……。ただのこけおどしか。くだらぬことを……ぐっ!」


 特段何も変化がなかったことで、ファルファレーは気を緩めてしまった。それが致命的な間違いだったと気付いたのは、己の左足が切断されてからだった。


 グランザームに向かって歩を進めようと前に動かした左足は、一瞬のうちに見えない()()()によって切り落とされてしまったのだ。


「なっ……!? バカな、一体何が……」


「ファルファレーよ。お前は強い。それは認めよう。だが……お前には一つだけどうしようもない欠陥がある。あまりにも……己以外の全てを見下し過ぎだ」


 左足を一瞬で再生させるも、ファルファレーはその場から動くことが出来ない。足を切り落とした何かの正体が分からない以上、迂闊に動くことは己の死を意味するからだ。


「フッ、そんな欠陥など貴様を倒すうえでなんの障害にもならんわ。そろそろ見せてやろう。ラグランジュを喰らい、手に入れた神の力を!」


 グランザームに対し、ファルファレーはそう叫んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神の力、神の力って口で言ってる時点でもう安っぽく聞こえてくるな(´д`|||)すべての破壊者すべての創造者に成っても未来永劫一人遊びの世界でお前は満足なのか?( ̄▽ ̄;) [気になる点] …
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