117話―最後の神の子
無事金庫の中から三つ目のゴッドランド・キーを手に入れたリオは、レンザーたちと別れカレン、クイナと合流するべく界門の盾をくぐる。
リオが向かったのは、カレンたちとキャンプをしていた広場だった。二人と別れる前、それぞれのやることが終わったらこの場所で集合しようと決めたのだ。
「二人とももう来てるかな……。あ、いた! おーい、お姉ちゃーん! クイナさーん!」
「お、来たなリオ。上手いこと鍵を手に入れられたか」
「やっほ。拙者の御札、役に立ったかな?」
すでにカレンとクイナは広場に到着していた。クイナは小さな金庫を持ってきており、両手で大事そうに抱えている。あの中に鍵が入っているのだと、リオは察した。
三人はそれぞれがどういう経緯で鍵を入手したかについて情報交換を行う。エリルが所持しているものも含め、五つあるゴッドランド・キーのうち、三つを無事確保出来た。
が、問題はこれからである。残る二つの鍵がどこにあるのか、リオたちに全くと言っていいほど手がかりがないのだ。
「無事鍵は手に入れたけどよ、これからどうするんだ? あと二つ鍵あるんだろ?」
「うん。でも、どこにあるのかも分からないし……僕は一旦フォルネシア機構に戻るべきだと思う。この鍵もあそこで保管してもらった方が安全だと思うから」
話し合った結果、まずは一度フォルネシア機構へ帰還し、ファルファレーや神の子どもたちに鍵を奪われないよう預けることに決まった。
……はずだった。
「残念だが、そうはいかない。お前たちが持つ鍵、渡してもらおうか」
「……!?」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。少し遅れて、三人のすぐ近くに白い光の柱が降り注く。その中から現れたのは、黄金の槍を持った長身痩躯――バウロスだった。
「お前は、神殿で会った……」
「覚えてくれていて光栄だ。この状況そのものは光栄でもなんでもないがね」
警戒心をあらわにするリオに対し、皮肉を込めてバウロスは答える。槍を回転させ、いつでも攻撃出来る体勢を整えつつ神の子はさらに話を続けた。
「お前たちには驚かされる。私以外の神の子どもたちを全て打ち倒し、五つの鍵のうち三つを手中に納めたのだから。我らが父も、計画を変更せねばならなくなったのも頷ける」
「計画? 一体何のことさ?」
クイナが問うと、バウロスは口角を上げ笑みを見せる。――そして、彼の口から恐るべきファルファレーの計画、その全貌が語られた。
「もはやお前たちには止められぬのだ、教えてやろう。当初の目的……五つのうち三つをお前たちにあえて奪わせ、残り二つを先に手に入れる。そういう計画があった」
「……なるほど。だからアタイらの方には妨害要員が来なかったのか」
バウロスの言葉に、カレンは納得する。何故彼らが結界で隔離し、いつでも鍵を奪うことが出来たはずのノモロノス王国に来なかったのか。
彼らはすでにリオたちに在り処を知られてしまった鍵の奪取を諦め、まだ所在が明らかになっていない鍵を先に手に入れるため行動しようとしていたのだ。
「だが計画は破綻した。本来、お前たちが知るはずのない鍵の在り処を知り、知るべきだった鍵の在り処を知らずに進んだ。まさか、お前たちが先にメーレナ家の鍵に気付くとはな」
「あ? どういう意味だ? てめえ何を言って……」
「いや、もはやどうでもいいことだ。もう計画は変わった。お前たちは我らが父を本気にさせたのだ。もうすぐ始まるぞ。この大地を舞台に……神々の宴が……な!」
そう言った直後、バウロスはリオ目掛けて槍を投げつける。リオが咄嗟に槍を避けると、彼の背後にある空間そのものに槍が突き刺さった。
空間に亀裂が生じ、ガラスのように砕けてしまう。砕けた空間の向こうは真っ黒な異次元に繋がっており、リオたちを吸い込み始める。
「うわっ! す、吸い込まれる!」
「リオくん! これに捕まって!」
穴から一番近い場所にいたリオは踏ん張ることが出来ず、吸い寄せられてしまう。クイナは素早く忍装束の帯を解き、リオに向かって投げた。
が、それよりも速くバウロスが動いた。穴の吸引力をものともせず、槍を手元に引き戻したバウロスはクイナに襲いかかる。狙いは、彼女が持つ金庫だ。
「鍵はいただくぞ、女。大人しく渡せば殺しはしない。従うか?」
「それは御免だね! でもまあ、今拙者は動けないから……カレン、お願い!」
「任せろ! オラッ!」
空間の穴から最も遠い位置にいたカレンがクイナの代わりにバウロスに飛びかかる。電気を纏う金棒を呼び出し、神の子を叩き潰そうとするが……。
「フン、そんな単調な攻撃が私に当たるとでも? そう思っているのなら、お前は愚かだ」
「なっ!? こいつ、片手で……」
強い電流が流れているのにも関わらず、バウロスは金棒を片手で掴んで攻撃を防いでみせた。驚愕するカレンに呆れたような口調で告げた後、腕を振る。
「まずはお前だ。邪魔者には消えてもらおう」
「うおっ!?」
「お姉ちゃん! 危ない!」
バウロスは金棒ごとカレンを穴の方へ放り投げたのだ。穴に吸い込まれる直前、リオがしっぽを伸ばしカレンの身体を巻き取ったことで、吸引されることは阻止出来た。
が、それで済ませるバウロスではない。地面にクナイを刺し、どうにか吸い込まれまいと耐えているクイナに狙いを変更した。ゆっくりと槍を振り上げ、静かに告げる。
「仲の良い奴らだ。なら、三人揃って我らの拠点に案内してやろう!」
「ひゃっ……わああ!」
クイナの手首に槍が振り下ろされ、切断されてしまった。クイナが呻く間もなく、三人は空間に空いた穴の中に吸い込まれてしまった。
それを見届けたバウロスは、ジェルナの死と同時にファルファレーから通達された使命を思い起こしながら、自らも穴の中へと飛び込む。
「これ以上奴らの好きにはさせん。ここで消す。神の子どもたち最強と目された……この私がな」
◇―――――――――――――――――――――◇
「う……。二人とも、大丈夫?」
「アタイはなんとかな。クイナ、お前は?」
「ん、大丈夫。手首ももう治したしね」
穴の中に吸い込まれたリオたちは、いつの間にか気絶してしまっていた。しばらくして目を覚ました三人は、身体に異常がないか確認する。
三人とも特に異常はなく、鍵も紛失していなかった。確認を終え、リオは周囲を見渡す。どうやら、薄暗く広い部屋の中にいるらしい。
「ここ、どこなんだろう? 凄く広いけど……」
「さあな。ここがどこだか知らねえけどよ……やっこさん、殺る気満々みたいだぜ」
リオの言葉に、カレンはとある方向を見ながら答える。リオがその方向へ顔を向けた直後、ブーメランのように黄金の槍が飛来してきた。
三人は咄嗟にしゃがみ、槍を避ける。槍は大きく弧を描き、薄暗い部屋の奥……恐らくバウロスがいるのであろう場所へと風を切りながら戻っていく。
「避けたか。ま、そうでなくては楽しめないからな。ようこそ、ベルドールの子たる魔神たちよ。我らが父のおわす地……聖礎エルトナシュアへ」
薄暗い部屋の奥から、バウロスが姿を現した。黄金色の槍だけが、光源もないのに不気味に光り輝いている。リオはピクッと猫耳を動かしながら声をかけた。
「……いいの? ここに連れてきて。ここは僕たちの目的地でもあるんだよ?」
「構わない。どのみち鍵が揃っていない今のお前たちでは、ここに来ても何も出来ないのだから。何を為すべきかも知ることなく……ここで散るがいい!」
「そういうわけにはいかないよ。僕たちは……絶対にお前を倒す! 覚悟しろ、バウロス!」
バウロスの言葉に、リオは啖呵を切る。神の子どもたちとの最後の戦いが、今始まろうとしていた。




