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メーア〜海・2

  波に身体を委ね、浮き上がった所をまた沈めて足を砂に着地させる。これを繰り返す。



  ああ、そうだ。『海』ってこんなんだったな。遠い記憶を思い出していた。

  少し沖の方に行けばご家族連れはいないし、ウェーイ系は砂浜でウェーイに夢中だし。静かな『海水浴』を楽しめる。


 

  『楽しめる』?


  そうなんだ。引きこもりの俺が、『海水浴』を『楽しんで』いたんだ。

  わざと目立つように変な格好した人ばかりだから俺の片方だけ青い目だって誰も気にしない。


  俺の目は、こういうお祭り気分の場所ではなく日常生活の中でこそ異常な事になるんだな、と気が付いた。



  「おーい、マサルよ。くろーるはどうじゃ、気持ちがいいぞ」


  アヤコばあちゃんが沖の方で見事な水泳テクニックを見せている。


  「アヤコばあちゃん、クロールが得意だったの? 俺も泳ごう」


  「おーい、ちょっと待って、皆。本格的に泳ぐ前にお昼にしない? 水分も摂らないといけないし、一旦浜に戻ろう」


  真弓子がその大きな胸を、浮かぶマシュマロのようにプカプカさせながら提案した。俺はその辺りから視線を逸らした。

  水分か、最もな事だ。愛子の様子も心配だし。


  「マサルや、真弓子ちゃんはしっかり者のお嫁さんになりそうじゃな」


  アヤコばあちゃんが真弓子には聞こえないよう耳打ちしてきた。大変感嘆しているように見える。


  「だから、人の結婚事情を勝手に決めないでくれってば」


  俺はアヤコばあちゃん相手に牽制した。



  砂浜に戻ると、愛子は先程と変わらず文庫本に目を通していた。3冊目の模様である。


  「愛子ちゃん、ごめんね! 退屈だったでしょう、お昼にしよう」


  「ありがとうございます、真弓子さん。お陰様で読書が捗っております」


  ニコリともしない、子どもらしくない愛子に圧倒された真弓子は「そ、そう」と言って彼女得意の『凍った笑顔』を貼り付けた。



  「あー、お腹が空いたわ!! お昼は何!?」



  海で適当に遊んで来たらしい梅子が、誰も呼んだ様子も無いのにタイミングよく勝手に帰ってきた。

  自慢の長い銀髪の先からポタポタと水を落としている。



  「海の家で何か買っても良かったがの。今回は儂がお弁当を作って来たんじゃ」


  「わあ! アヤコちゃん、美味しそうなお弁当!! あ、ちゃんと保冷剤まで……!!」


  おむすび、おいなりさん、唐揚げや野菜の肉巻き等色とりどりのおかずが並ぶ重箱には食欲をそそる魔法がかかっているかのようだった。



  「……いただきます!! うーん、美味しいね!! ねっ、マサルちゃん!! アヤコちゃんの料理は最高!!」


  真弓子が本当に美味そうにパクパク食べている。


  「うん、美味い。美味いよ、アヤコばあ……アヤコ」


  「本当、女神に対する態度はなってないけど料理の腕だけは一級品だわ!」


  アヤコばあちゃんは嬉しそうに、


  「沢山あるから、ほれ、皆もっと食べるんじゃ」


  とポットから冷たいお茶を注いで周った。


  愛子は体育座りをし、両手でおむすびを持って黙々と食べている。


  エニグマを持ってきたそうだが、こんなに平和じゃ使いようがないじゃないか。面倒で悪い事をさせたな、と思った。



  「あー、お腹いっぱい食べたわ!! 私はまた海に浸かってくるわね!!!」



  と、梅子が海の方へ走って行った直後。



  ビーチが騒がしい。


  「痛い、痛い痛い痛い!!!」


  「刺された、痛い、痛い痛い!!」


  「何で、何あの大きいの!?」


 

  クラゲか?

  しかし、ただのクラゲにしては様子がおかしい。


  アヤコばあちゃんは目を光らせ、


  「マサル、この気は3番目の女神『エイル』のようじゃ。彼女は海の化け物にさせられたのじゃ。愛子」


  「はい、アヤコ様。こんな事もあろうかと持って参りました」


  愛子は釣竿を2本取り出し、俺達に差し出した。エニグマの事といいドラえもんみたいなヤツだな。


  「マサル様とアヤコ様が使えばそれは魔法の釣竿になる事でしょう」


  と小声で囁き、そして、


  「真弓子さん、真弓子さんはこちらへ」


  「へっ!? 何!? 愛子ちゃん!?」


  愛子は真弓子の目を手で隠し、砂浜の奥の方へと導いた。


  俺は愛子の機転に感謝した。

  俺は、真弓子には『女神退治』をしている所を見せたくなかった。隠し通していたかった。


  真弓子は、俺にとって『普通の日常の証』だったから。

  だから、愛子の行動は『しもべ』として120点だった。こんな所はあまりドラえもんぽくない。



  「マサル」


  「うん」


  魔法の釣竿を海へと振りかざす。

  この釣竿には、普通の魚や人間はかからない、とアヤコばあちゃんは言った。

 

  普通ではない『魔物』のみがかかるはずだそうである。


  相変わらず騒がしいビーチの中、


  「かかった!!」


  俺の釣竿が反応し、光を放った。


  「マサル、りーるを!! りーるを巻くのじゃ!!」


  「分かった!!」


  「!? おかしい、儂の釣竿も反応しているぞ!? 『魔物』は2匹以上いるのか!?」


  そう言ってアヤコばあちゃんがリールを大急ぎで巻くとーー。


 

  梅子が引っかかっていた。



  針は梅子の水着に引っかかり、カツオ漁のごとく勢いよく空中を高く飛び、砂浜に打ち付けられた。


  怒る梅子。


  「ちょっと、何すんのよ!!?」


  「えーい、梅子!! 邪魔するでない!!! マサル、りーるを巻くのじゃ!! そっちが『エイル』じゃ!!」


  「分かってる!」


  光り続ける竿の様子で分かる、これは『魔物』だ。


  釣り上げた『魔物』は確かにグロテスクな色をした巨大なクラゲのような生き物で、とても元女神とは思えない。


  クラゲは先程の梅子のように空中を高く飛んでいた。


  ここで、エニグマだ。


  俺は愛子の持ってきた荷物を解き、中を改める。ご丁寧に日独辞典まで入っていた。愛子、有能。


  ちなみにエニグマと言うと巨大な『こんぴゅうたあ』をイメージするが、アヤコばあちゃんが父親から譲り受けた物は幅は34センチ、奥行は28センチ、高さは15センチ程度とエニグマとしてはかなりコンパクトに改良された物だから普通の女の子ではない愛子なら何とか持ってこられたらしい。


  おまけに魔法で動くからバッテリーすら必要ない。




  「えーと……『エイル』と……。よし!」



  「うぎゃあああああああ!!!!!」



  例によって日独辞典で調べながら文字を打つと、クラゲは見ていられないくらいに身をよじり、暴れーーやがてーーオーロラとなった。


  『エイル』。

  医者の女神。天空で元の姿に戻ってくれ。


  俺が手を合わせて祈っていると、


  「何で私を釣るのよ!?」


  「うるさい、このぽんこつ女神め!! お前さんは何の役にも立っとらんじゃないか!! 恥を知れ!!!」


  「ぽ……ぽんこつとは何よ、ぽんこつとは!!?」


  「フン、これでも優しく言っておるのじゃ」


  アヤコばあちゃんと梅子が喧嘩している所を、戻ってきた真弓子がまあまあと訳も分からず仲裁に入っていた。


  オーロラはビーチの客達をしごく喜ばせたらしく、インスタ野郎達がこぞって写真を撮っていたのはいつもの風景であった。


  ただ、俺の家の屋根にかかっていたオーロラと、この海のオーロラ。

  真弓子がただの偶然だと思ってくれればいいのだがと懸念していた俺であった。

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