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ロキ〜追跡するトラブルメーカー

  「マサルや、それじゃあわしと愛子はでぱあとに行って来るからの。居間におやつが用意してあるから食べるんじゃ」



  そう言ってアヤコばあちゃんは愛子を連れて街に出掛けて行った。



  梅子はいつもと同じように昼寝をしていた。こうなるとなかなか起きない。



  俺は、その日はソシャゲではなく何となくベッドの上で日独辞典をパラパラとめくっていた。



  暗記できるとはさすがに思えないが、いつまた『ロキ』に怪物にされた女神達が襲ってくるとも限らない。その為の準備のつもりであった。



  アヤコばあちゃんや梅子によると、浄化待ちの女神達はあと10体近くもいるらしい。そんなにいるとなるとウンザリするが、最悪この日独辞典を使ってエニグマればいいんだろう。


  それまでの経験から推察してそんな風に気楽に構えていた。



  しかし、それにしても『ロキ』というのが気になる。



  梅子の説明によると『トラブルメーカー』らしいが、一体どんな『神』なのだろうか。

  書物を読むと『ロキ』は神々の関係を引っかき回し、また良い事も悪い事もするトリックスター的存在でもあるという。



  全ての元凶は『ロキ』にある。



  となると、こいつさえ倒せば女神達は一斉に元に戻るのではないだろうか。

  しかしエニグマの魔法にも限界があり天界にいる者にはその魔力は届かないようだ。


  『ロキ』が近くに寄ってきさえすれば、あるいはーー。


  読書なんかして普段使わない頭を使っていると眠くなってきた。俺は日独辞典を横に置き、そのまま眠ってしまった。






  様子がおかしい。



  というより、目がおかしい。



  起きた時、全ての物がモノクロに映っていた。


  起きようとしても、中々背中を起こせない。

  代わりに、『俺の身体』はクルンと身軽に回転してベッドの上を降り、床に着地した。



  やっぱりおかしい。



  俺は四つ足だった。



  おまけに毛のような物に四つ足が覆われているのがモノクロに映る目でも分かった。



  俺はーー四つ足の化け物になってしまったのか?



  急いで洗面所に行ってみる。身体が軽く、周りの物が、家全体がいつもより何倍も何倍も大きく見えた。



  洗面台にジャンプして昇り鏡に『俺の身体』を映す。





  「ニャアアアアアアアア!!!!!」



  猫だ!! 俺、猫になってる!!?



  よりにもよって、アヤコばあちゃんの唯一苦手で大嫌いな猫に……!!



  「梅子……! 梅子!!」



  そう叫んだつもりだったが猫だから当然ニャーニャーとしか発音できない。



  しかし、今頼りに出来るのは家にいるあのダ女神しかいないのだ。

  俺はそう思って必死で梅子梅子とニャーニャー鳴いた。



  「う〜ん……。うるっさいわね……。しかも、何だか嫌な『臭い』がするわ……」



  やっと起きた梅子のセーラー服のスカートを口で引っ張る。助けてくれ。



  「ん? 何よこの汚い猫は。臭いの元はこれ?」




  「ニャ、ニャー!!」




  梅子は文字通り汚いモノを見る目で俺を一瞥いちべつし、



  「どこから入ってきたのかしら。シッシッ。アヤコがまたうるさくなるわ。私が連れてきたと思われたら堪らないわよ、出て行きなさい」



  「ニャー!!!」



  こいつ、本当に女神なのか? 神通力の欠片かけらも無いじゃないか。



  愛子。愛子なら何とかしてくれるだろうか。


  ダメだ。あいつは今アヤコばあちゃんと一緒に出掛けているし、トマトの精に何かが出来るとも思えない。



  「あら、よく見るとこの猫、オッドアイね。マサルみたい」



  「ニャー!!」



  よく気付いてくれた!! 梅子にしては上出来だ。

  猫は白黒でしか物が見えないという。先に洗面台で自分を見た時も目の事に気付かなかった。



  そうだ、俺はマサルなんだよ。



  「体毛の色もマサルの髪に似ているし、これはまさか……」



  うん、うん。いいぞ梅子。「ニャー!!」



  「口の形も似てるわね。あんまりふんにゃりし過ぎてない所とか……」



  そうだそうだ。

  よくぞ俺の口の形なんかを覚えていてくれたな。




  「まさかーーこの猫はーーマサル!?」



  「ニャー!!!」



  当たりだ、梅子! 腐っても女神だ!! さあアヤコばあちゃんが帰って来る前に俺を助けてくれ!!!



  「そんな訳ないか、てへ。それにしても、この猫何処かで嗅いだ事のある嫌な臭いをしているわ。さっさと追い出さないと」



  梅子は俺を持ち上げ、縁側に出そうとした。やっぱりこいつはダ女神だ、少しでも期待した俺の喜びを返せ。全く頼りにならない。


 

  こんな時に頼りになると言えば、やはりアヤコばあちゃんだ。



  ーーアヤコばあちゃん。



  アヤコばあちゃんはトマトを女の子にしてしまう魔力の持ち主だ。神の巫女だ。

  もしかしたら、この訳の分からない事態でも解決してくれるかもしれない。



  ただーー俺は、この姿を、アヤコばあちゃんにだけは見られたくなかった。

  アヤコばあちゃんの忌み嫌う猫に、よりにもよって猫に変身してしまった俺を、どんな目で見るだろうか。



  俺はーーアヤコばあちゃんに嫌われたくない。化け物を見る目で見られたくない。



  そして何よりも、アヤコばあちゃんに迷惑をかけたくないーー。



  しかし、そこで声がした。



  見ると、玄関口にアヤコばあちゃんと愛子が荷物を持って立っているのがモノクロで見えた。



  「マサル!!? マサルじゃないかの!? どうしたんじゃそのーー姿はーー!!?」



  「ーーニャアーー」



  「マサル? 何言ってんのよ、アヤコ。それよりこの猫不吉だわ、さっさと追い出した方がいいわよ」



  するとアヤコばあちゃんは、猫である俺に臆する事なく近付きーー。

  ピシーーーンと梅子のほっぺたを引っ叩いた。



  銀髪女神のほっぺたが波を打つ。



  「だまれ、このポンコツ女神!! 最初に魔法をかけられた女神の癖に『ロキ』の臭いを忘れたか!!! この猫、は、『ロキ』から変身の術を受けたマサルじゃ!!」



  愛子も、そうだ、これはマサル様だ、とでも言うように黙って俺を見つめていた。



  アヤコばあちゃんは猫の姿になった俺に多少の恐怖の色を滲ませながらも、



  「そうじゃ、これはマサルじゃ!! ただの猫じゃない、儂の愛するマサルじゃーーええい!! 寄越せ!!!」



  と叫び、梅子の手から俺を引ったくり、思い切り抱きしめた。



  一方の梅子は、



  「『ロキ』……!? 『ロキ』ですって……!!?」



  と叫び、恐怖のせいかその場にへたり込んだ。

  相当なトラウマがあるらしい。



  アヤコばあちゃんはーー『猫』に対する恐怖に打ち勝とうとするように、




  「これはマサルじゃ、マサルなのじゃ……!!!」




  と自分自身に呟きながら、俺を抱きしめ続けた。



  するとーー。



  俺の身体は、徐々に人間の形になっていき、アヤコばあちゃんの腕の中で完全に元に戻った。



  まるで、「今日はこれくらいにしといてやるよ」とでも言うかのように。



  裸になるのを見越したのか、愛子が服を持って来てくれていた。やはりドラえもんだ。






  「『ロキ』のやつめ、人間界に来ていたとは……」



  猫を抱いてしまった恐怖からまだ冷めないようで、アヤコばあちゃんは震えながらもそう呟いた。



  おれを抱きしめた事により猫への恐怖心は無くなったかと言うとそういう訳でもないらしい。



  俺はアヤコばあちゃんのおれへの愛情に感謝しながら、とても温かい気持ちになっていた。




  「梅子、お前さんはそこでしばらくそうしているのじゃ! マサルを追い出そうとした罰じゃ!!」



  アヤコばあちゃんは梅子をまたもや柱にくくり付け、ドイツ語でおまじないが書かれたお札を頭に貼り付けたのだった。



  「それを貼っておくと神力が増すのじゃ!!」



  「痛い!! 何だかおデコがピリピリするわ!? 剥がして!! ねえこのお札剥がしてよ!?」



  「うるさい!! お前さんは本気を出せば強いはずなのにどうしてそうサボるのじゃ!!」



  「痛い!! おデコが痛いわ!!!」




  女神の癖に巫女に負けるってどういう事なんだろう、と俺は思った。


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