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リーベス・アプフェル〜トマトから変身した少女

  愛子は普段、アヤコばあちゃんの家事の手伝いをしたり、読書をしたりして過ごしている。



  その読書の量は凄いものであり、父親が家に置いて行った本を読破し、また図書館通いもしている様子だった。人間の知識を少しでも身に付けたいのだろうか。



  彼女は前述した通り、プチトマトである『アイコ』の妖精だ。

  そのプチトマトの妖精が何故俺の『しもべ』となったのかは謎のままだった。



  そんな愛子が、テーブルで何やら地図を広げて赤ペンで丸を付けている。


  「愛子、何してんの。その赤丸は何だ?」


  俺が聞くと、愛子は無表情で


  「丸を付けた辺りで野良猫が集会を開いているのです」


  と答えた。ははあ。


  「アヤコ様が間違えてこの辺りに行かれませんようにご注意させて頂きます」


  「成る程ねえ。愛子、お前は優秀な『お手伝いさん』だな」



  すると愛子は、頰をそれこそ薄いトマト色に染め、


  「いいえ、マサル様。わたくしは『お手伝いさん』ではなく『しもべ』にございます」


  と呟いた。何故赤くなるんだか分からなかった。




 

  「あの、愛子が外で何をしているんだか調べてみる必要があるわね」


  縁側で涼んでいた俺に、またもや梅子が後ろからいきなり話しかけてきた。本当にフリーダムな女神だ。いや、ダ女神だ。


  「何で調べる必要があるんすか」


  「だってそうでしょう? 急に現れて『あなたのしもべです』って言うなんておかしいじゃないの。トマトの精とかいう話だけど、何者か分かったもんじゃないわ!」


  愛子が本当は何者か分からないのは俺も同じだ。だけど、そんなに悪い子だろうか。


  「ーーもしかしてーー」


  梅子は続ける。


  「もしかして、『ロキ』の使者かもしれないって話もある訳よ」


  「そんな馬鹿な」


  確かに愛子はずっと同じ赤いワンピースで、いきなり『しもべ』とか言い出して謎が多い。

 

  だけど『ロキ』の使者だったらアヤコばあちゃんが何か勘付くはずだ。ダ女神の梅子はともかくとして。



  「私、愛子が1人で外出した時に尾行してみるわ!! マサル、アンタも来なさいよ!!」


  「あ、俺引きこもりなんで」


  本当は梅子と2人で外に出るのが嫌だったからだが、俺はまずこう言って断った。



  そういう訳で、以下は梅子が探って来た愛子のザックリとした動向である。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  夕方、愛子はアヤコばあちゃんから頼まれた晩飯用の買い物がてら図書館に本を返しに行く。そこで本のタイトルも碌に見ないで5〜6冊程新しく本を借りて行ったという。



  愛子にしては少ないほうだが、買い物もあったからだろう。



  帰りがけ、梅子は意外なものを見る事になる。



  愛子は、ほうぼうのお宅に繋がれている犬という犬に挨拶をしてまわり、1匹につき1分くらいかけて背中や胸の辺りを撫でていたという。


  大きい犬、小さい犬は関係ないらしく犬なら全部撫でた。散歩中の犬も飼い主にきちんと断ってから撫でた。

  相当な犬好きだという事が分かった。


  後で理解出来た事だが、犬は『トマト』達に肥料をくれるかららしい。


  その理屈で言うと愛子は猫の方だって決して嫌いではないという事になるが、アヤコばあちゃんの事を考えて触るのは我慢しているのだろう。猫の毛でも付こうものなら鋭いアヤコばあちゃんがニ〝ャーと泣き叫ぶだろうから。


  犬達への挨拶が終わると、ようやく愛子は帰路に着いたという。その時、夕焼けを見上げてじっとしている愛子の姿を梅子は見た。その夕焼けはトマト色に染まっていたという。




  以上が梅子からの報告だ。


  「ね? 怪しいでしょ?」


  「何にも怪しい所なんか無いじゃないすか」


  俺は梅子の意見を一蹴した。怪しいどころか良い子である事が分かったくらいじゃないか。


  「怪しいっていうのは、例えば空よ。赤い空に向かって『ロキ』に忠誠を誓っていたのかもしれないわ!!」


  「は、はあ」


  梅子は荒ぶっていた。


  「そして、犬!! 何故近所の犬全部を懐柔する必要があるっていうの!? きっとその辺の犬をまとめ上げていずれこの家を襲わせるつもりなんだわ!!!」


  こいつは本当に女神なんだろうか。アホな事を考えさせたら神級ではあるが。


  「大丈夫なんじゃないすかね、愛子に関しては」


  「全く、アヤコに似て孫のアンタまで呑気のんきな性格してるわね、マサル!」


  俺に否定された梅子は、捨てゼリフを吐いて客間を出て行ってしまった。

  呑気も何も、トマトらしくて全くむしろ可愛らしいエピソードばかりだっていうのに。


  そんな風に俺が考えているとーー。




  「マサル様、入ってもよろしいでしょうか」



  愛子の声だった。

  正直、驚いたし梅子が勝手にやった事とは言え罪悪感もあった。


  少し悩んだ後で「いいよ」と応えると、愛子は音も無く客間に入ってきた。



  「………」


  「………」


  沈黙の時間が重い。しかし愛子は冷静に、こんな言葉を呟いた。



  「私の存在が、マサル様達に不審に思われているのは気付いてございます」


  「え……」


  どうやら梅子が自分を尾行していた事を気取けどっていたらしい。

  ますます、罪悪感に囚われる俺。


  「何か、ごめんな」


  素直に謝ると、愛子は首を横に振り、


  「この事は、ずっと言わずにおこうと心に決めていた事なのですが、仕方がございません。マサル様、私は12年前にマサル様が私の種を蒔いてくださった時から、ずっとマサル様の事ばかりを考えてございました」


  「……!?」


  愛子の元となった種を俺が蒔いた? そんな事ーーすっかり忘れていた……。


  「12年前、私を蒔いてくださったマサル様は、毎日お水を私に飲ませてくださったのです。それからは、幼女となられたアヤコ様が毎日お世話をしてくださいましたが。『美味しくなあれ、美味しくなあれ』と」


  「……」


  「私はマサル様の事を忘れることが出来ませんでした。幸いにして、アヤコ様は魔法とも呼べる不思議なチカラをお持ちになっております。アヤコ様が『美味しくなあれ』の呪文を唱える度に、私の自我が育ち、人間の姿に変身出来る用意が整ってございました」


  あ、それであの日?


  「私は決心してございました。もし、マサル様がいつか、外にお出でになる日が来て、私に呪文をかけてくださったらーーその時こそーー人間の姿に変身して『しもべ』にならせて頂こうとーー」


  「そうだったのか。忘れててーー悪かった」


  いいえ、と愛子は再度首を振る。そして、トマトのくせに爆弾発言をした。


  「ご覧の通り、私は人間で言うと小学生くらいの姿です。ですから、真弓子さんとのお邪魔は決して致しません」


  「何だよそれどういう意味だ!?」


  いつも冷静な愛子が本当にトマトのように真っ赤になり、「それでは、夕食の準備がございますので失礼致します」と言ってそそくさと部屋を出た。



  何なんだ一体。



  食後に、愛子は自分の分も含めたアイスクリームを皆んなに配った。配ったのだがーー。



  「ちょっと愛子!? 私の分のアイスクリームはどこよ!?」


 

  梅子が激怒している。


  「ああ。ちょうど3個しかございませんでしたので」


  と言って平然とアイスクリームを食べていた。

  愛子までが梅子の扱い方を分かってきたらしかった。


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