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エッダ〜俺のロリばあちゃん



  「今まで、お前の歳が離れた妹として生活してきたこの女の子は、実はお前の実の祖母だ。じゃ、俺と母さんは今日からしばらくこの家を出ていくから、達者でな」


 

  ニートで引きこもりたる俺がソシャゲに勤しんでいる所を無理矢理居間に呼び出し、訳の分からない説明(いや、説明にもなってない)をくっちゃべって、父と母は本当にすぐ家から出て行った。


  残されたのは、発育が遅れているという事で見た目的には8歳児くらいのまま変わらなかった『妹』と俺。父曰く『祖母』。


 

  「そういう事じゃ。マサルよ、これから2人きりになるがよろしくのう」



  今まで、同じ屋根の下に居ながら殆ど口をきいたこともなかった目がクリクリして可愛らしい8歳児は独特の口調で挨拶をしてきた。意味が分からない。



  まず俺自身の紹介をする。

  俺の名は阿僧祇あそうぎマサル。

 


  顔立ちはもろ日本人だが、左目の瞳の色が白人のように青い。行った事は無いが波打ちぎわが透明なハワイの海の向こう側みたいな色をしている。


  と言うと自慢げに聞こえるかもしれんが、生まれてこのかたこの目のせいで散々面倒くさい思いをしてきた。


  「ハーフなの?」という質問ならまだしも、片目だけが青いせいで不気味がられてきたのであった。

  両親共に普通に黒い瞳を持っているのに。


  そういう訳で俺も人間が嫌いだ。


  特にジロジロ見てくる子どもとウェーイ系が嫌いだ。いやそれだけじゃない、普通の人間も嫌いだ。心の中では何を思っているのか分かったものではない。



  俺も家族を含めて人間を信じていないし、物心ついた時から周りには極力人当たり良く接してきたつもりだが本心を明かした事は無い。

  周りには不思議でドライな奴だと思われていた事だろう。

 

  また、大学までは頑張って入ったが、他人からのこの扱いは最高学府に行っても相変わらずだったので2年生になる前に退学して、以後引きこもり兼もちろんニートのままだ。

  歳は23歳になる。




  「マサルよ、不思議に思うのは分かる。わしの本名は『阿僧祇・アヤコ・エッダ』じゃ。半分ドイツ人じゃ。ほれ、儂の目は両目ともお前さんの左目と同じ色をしておろう? 血が繋がっている証じゃ。儂はある悪い神々の呪いのためにお前が生まれて数ヶ月の時この姿になったのじゃ」


  この幼女はドイツ籍だったのか?


  年中ノースリーブのフリフリワンピース、スカートは何故か透明だが下にちゃんと履いている可愛らしい『アヤコ』はそう言うと、一息ついて


  「ところでほれ、お菓子を食べんか。美味しいぞ」


  その幼女は確かに孫におやつを食べさせたがる『祖母』のようにブルボンのホワイトロリータを勧めてきた。


  見かけがロリだからホワイトロリータとは、なんというくだらん洒落だろう。



  「いや、いらない」



  それより聞かなければいけない事が沢山あるのだろうが、俺はそのまま自室に篭りに行った。


  面倒くさい。


  ただその一言だったのだ。


  父も母もその内帰ってくるだろう。


  8歳児くらいにしか見えないロリータが実の祖母だって? 馬鹿馬鹿しい。何かの冗談だろう。


  俺はどんな事とももう関わり合いになりたくない。そう思ってベッド側に座りコーラを飲んだ。

  そしてこれから先の事を考えた。

  先の事を考えると暗くなるが、楽しくもある。


  俺の『城』にまたもや静寂が訪れた。俺にとってはささやかに幸せな静寂だった。




  ーーと。



  「うわあああああ!! 来たな!! 呪われし『神』め!!!」


  「ぶほっっっ!!!」



  きったねえ。コーラを吹き出す俺。

  何なんだよ『神』って。

  子どもの冗談はやめにしてくれ。



  と思ったが、俺には生まれつき空気の流れを読む言うなれば『人より強い本能』が備わっていた。

  そのせいで人間嫌いになったとも言える。


  先の叫び声は間違いなく『アヤコ』のものであり、そして1階からはタールをスプレー状にして籠らせたような嫌なオーラが漂ってきていた。


  さすがに放置しておくのも気分が悪いので、俺は悲痛な叫び声のあった方向へと足を運んだ。



  居間に入ってみると……



  巨人がいる。

  3メートルくらいの、女の『巨人』。大女。髪は銀色に輝き肌は黒い。如何にも悪役的な不気味極まりない顔で『アヤコ』に襲いかかろうとしていた。


  『アヤコ』は西洋のつるぎのような物をかざしていたが、俺が入って来たのを見つけると、必死で叫んだ。



  「マサル!! お前はまだ来てはいかん!!!」



  ーーその刹那、巨人はその大きな舌で俺の全身を巻き込んだ。


  「くっ……! コレなんだよ、何がどうなってるってんだ」


  ギリギリと俺の身体を締め付ける巨人の舌。


  「マサル!!!」


  『アヤコ』は、彼女の身長よりも大きいであろう剣を振りかざして向かってきた。ーー自分を邪険にしてきた俺を助ける為に。


  「ガーーーーー!!!」


  「どうじゃ!! フリッグ!!!」


  『フリッグ』というのがこの巨人の名前らしい。

 

  しかし、『フリッグ』は2本の太い尻尾でアヤコを吹き飛ばす。そのかわり、化け物が咆哮している隙に俺は巨大な舌から逃れる事ができた。


  アヤコはーー。思い切り柱に打ち付けられて気を失おうとしている所だった。


  何でーー何でだよ。

  俺はお前に、なんの関心も示さなかったんだぜ。何で、そんな自分の事しか考えてない薄情な人間に命を捧げるんだ?


  アヤコを抱き起すと、彼女はうっすらと目を開いた。

  よくよく見ても、俺の左目と同じ色をたたえている。


  「……マサルか……。ああ、良かった。無事じゃったか」


  「おい、何て無茶な事するんだよ。っていうかこの巨人は何者だ」


  「説明は後でする……ああ、マサルに怪我が無くて良かった……」


  「何だって?」


  よく聞こえない。



  「マサルが大丈夫で良かった。私の孫だもの。たった1人しかいない、可愛い大切な大切な孫だもの」



  俺は、ガンと後頭部をぶん殴られたような気がした。

  巨人の攻撃ではない。

  俺が運んで、巨人とは距離を取った場所にいた。


  「……あの怪物を倒すにはどうすればい? アヤコ……さ……ん」


  「庭の蔵に行って、『こんぴゅうたあ』を探しておくれ。そこで、『きいぼおど』で『フリッグ』と書いておくれ。この場は儂に任せて」


  「……分かった」


  それだけでいいのか?

 

  俺は韋駄天のごとく走って庭の蔵に入ると、その『コンピュータのような物』を見つけて、仰天した。これって……。



  「エニグマじゃねえかよ……」



  エニグマというのは、1900年代初頭にドイツで発明され、その後ナチスに採用された暗号装置だ。

  昔暇に任せてネット徘徊をしていた時にこれの記事が目に入ったので知っていた。


  キーボードが付いていて、そこに入力すると文書が暗号化されるという。

  当然こういった物を見たのは初めてだし、俺の目の前にあるのはかなりの年代物に見えるからもしかして本物なんじゃないのか。



  「しかし……」


  あの巨人、『フリッグ』。

  それは、ドイツ語で書かなきゃいけないんじゃないのか。

  ダメだ、詰んだ、と思ったら、おあつらえ向きに日独辞典が蔵の中の本棚で埃をかぶっていた。


  何とかなりそうだ。


  俺は夢中で日独辞典のページをめくって、めくって、めくって、あれも違うこれも違うと集中して探しながらも『フリッグ』なる単語を見つけた。


  ーー 『フリッグ』。人間の運命を

 読み取る女神。


  そんな女神が、何でウチにやってきて暴れ回ってるんだ。

  いや、今はそんな事はどうでもいい。

  とにかくアヤコに言われた事をするんだ。


  しかし辞典と睨めっこしながらキーボードを叩いている最中ーー。


  俺の右目。

  黒い方の瞳。

  そこから、涙が止めどなく溢れてきた。


  「あれ……?」


  俺は、幼い頃から泣くとしたらいつも右目だ。

  青い方の目からは涙なんか流れてきた試しがなかった。


  『大事な、大事な孫だもの。たった1人しかいない大切な孫だもの』


  黒目は滝の如く涙を流し続けた。

  しかし『フリッグ』の入力は終わった。



  ーー天地がひっくり返ったかと思った。




  「ぎゃああああああああああ!!!!」



  巨人の物と思われる、凄まじい断末魔の声が聞こえたのだ。ご近所迷惑にならないだろうか、と考えていると、家の屋根に北極のオーロラのごとくキラキラした光のカーテンが覆い被さった。



  「マサル、やったな!! さすがマサルじゃ!!!」


  アヤコ……ばあちゃん。

  ロリロリでどう見てもばあちゃんには見えない愛らしい幼女ばあちゃんが蔵に向かって子猫みたいにトテトテと走ってきた。


  ばあちゃんの目は美しく光り輝いていて、俺自身の左目もこんな色をしているのかと思うと生まれて初めてちょっとだけ誇りに思えた。


全てのおばあちゃんっ子に捧げます。

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