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「ぃ…おぃ…おい!優希起きろ!次体育だぞ!急がねぇと遅れんぞ!」
居眠り常習犯の俺の体を、親友の涼太が激しく揺さぶる。
(あっ?…授業終わったのか…)
毎晩遅くまでゲームの攻略に勤しんでる俺は、睡眠が取れてない殆どの不足分を、こうして学校の授業時間に寝る、と言う学生には有るまじき行為で補う毎日を過してる。
だが、不思議と勉強には着いていけてる、成績は上の方から数えた方が早い。
「お前、またあれやってたのか?」涼太の言う「あれ」とは、毎晩攻略に勤しむ「あれ」だ。
「悪ぃかよ…」ため息混じりに言い返す。
「うん、悪いっ、つーかさ、毎日それで授業ちゃんと受けなくても勉強出来るとか、お前の頭がチートだよな?」涼太は半分冗談の様に少しニヤついた顔で俺の事を弄る、その会話は俺と涼太の中では当たり前になってる。
「さてと…体育か…だりぃな…」重い腰を持ち上げ、体育着の入った鞄を肩に更衣室へ向かう。
ダラダラと歩く俺の横を、涼太が歩きながら肩に肘を置くと「なぁ優希、お前の言ってた金策方試したんだけど、あれ凄いな!1時間ぐらい集中してやってたら、1臆セラ越えたぞ!ありがとな!」
件のゲームの事である。
「まぁ、俺もネットで調べた金策方だから、考えた奴すげーなって思ったよ。」
体育がめんどくさいと思い、ローテンションで返事をする俺とは、真逆のテンションで涼太は続いて、「装備とか結構整えられたしさ!この前行ったダンジョン行こうぜ!流石に前みたいにワンパンでは殺られないと思うぜ!」
それは、3日前に連れていったダンジョンの事だろう…正直ワンパンとは言わないけど、あまり役には立たないと思うのだ…涼太のキャラはモンスターとのレベル差があり過ぎる。
「いや…あそこは無理だろ?まだレベル足りてないんじゃね?どうしてもってなら、あのダンジョンより2つ前ぐらいが丁度楽しめると思うんだけど。」
「うっ!!!やっぱこの前の所はまだ無理か…わかった、お前の言うそのダンジョン行こうぜ。」渋々だが色々足りないのは自覚してるのだろう、ダンジョンは前回の2つ前所に行く事に決定し、この話題はここで終わった。
ここまでの会話の経緯を見れば、誰でも分かると思う。
そう、俺は無類のゲーム好き、要はゲーマーだ。
何度も何度も、あの世界に入れたら、あんな世界で暮らせたら、などと非現実的な事に思いを募らせた事もある。
「今日野球するんだってよ!ウォームアップとグラウンド3周走ってバックネットに集合だってさ!」更衣室で着替える最中、クラス委員が、今日の体育の内容を皆に聞こえるよう通ったに声で伝える。
「野球か…おれ苦手なんだよな…体育とか無くなれば良いのに…」隣で着替える涼太が小言を漏らす。
その小言を俺は聞き逃さなかった。
「涼太、野球が苦手じゃなくて、お前って体育の殆ど苦手じゃないか?」
事実、涼太は運動音痴な奴で、スポーツのそれは本当に見るに耐えるものだ。
そう言い放った俺を、涼太は少し嫉む様な目付きで睨み「お前…スポーツもそこそこ出来るんだよな…やっぱチーターだなお前…爆発しろよ」と言って更衣室を後にしようとする。
「涼太待てって、人には向き不向きがあってだな〜」…と言いかける俺に、涼太は「良いって!んまっ、俺運動音痴なのすっげぇー自覚してるし、正直もう慣れた!」ケラケラと笑いながら話しを切った。
更衣室を出て、グラウンドに向かう途中、後ろから抱きつくように女子生徒が絡んでくる、背中に当たる柔らかい感触と男子には無い良い香りでそれが女子だと直ぐに分かるが、少々乱暴な当たりで俺は少しよろめく、絡んで来たのは幼馴染みの早織である。
「優希ぃぃ!!…体育?いいなぁー交代して!次の授業情報処理なんだよ!私パソコンとか無理だし!優希パソコンとか得意でしょ?」冗談だとは分かってる…だが敢えて言い返そう、「いや、無理だろ…つか離れろっ!暑苦しい!」首に絡まる早織の腕を無理矢理引きはなそうと揉みくちゃになる。
「よっ!お二人さんいつも仲睦ましくて!」両手を口元に添え、煽るように涼太がいい放つと、「あ…涼太いたんだ」と、そこに涼太が居なかったかの様な反応をする早織、「えっ…えぇ…」ガッカリする様な呆れたような言葉を漏らす涼太、これもまた早織お得意の冗談である。
”キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン”休み時間終わりを告げるチャイムが鳴る。
「やべっ!優希ウォーム急がないと!!先行ってるぞ!」チャイムを聞くなり涼太は俺を置いてグラウンドまで走っていった。
「優希ごめんね!私も行くね!」無理矢理引き剥がそうにも離れなかった早織もチャイムには弱いらしくアッサリと腕をほどいて、軽く手を振りながら教室に向かっていった。
「はぁ…体育か…めんどくせぇ…」トボトボと歩き出す俺、「こらぁっ!柏木優希!まーだウォーム終わらせてないのか!!!」グラウンドの手前付近で体育顧問の武内がメガホンを口に当て怒号を飛ばす。