桜
風に為すがまま揺れているようで、その実、しっかりと根を張り枝を伸ばし、力強く花を咲かせている。
常に姿を変えながら、その横顔はあった。
見たのは一瞬だったのだろうか。
輪郭が僅かにぼやけながらも、色は更に濃さを増して瞼にシミをつけている。
その横顔を、雪に、ひまわりに、紅葉に重ねる。
再びその瞬間に出会う事があったなら、必ず見逃しはしないと。
眼前に広がる一面の向日葵。
向日葵は透くような青空を仰いでいる。
風になぞられていく向日葵が、縞模様をつくる。
緑が膨大な黄色と青を支えていた。
太陽に張り合う黄色は、眩しそうに目を細め笑っていた。
その中に、桜を探していた。
ありもしない、桜を。
風は山に色を与えながら過ぎていった。
山は力を奪われたように黄色くなり。
また、激しい熱を感じる赤になる。
そして、頬を冷やして行く風は、やはり一切の色を奪い去って行く。
私の中に桃色を残して。
ふつ、ふつ、と重なって行く雪に、私は桜を探していた。
あるはずもない桜を。
二度と見逃さないように。
雪に目を向けながら、私は桜を見ていた。
白い雪の中に、桃色の中心を薄紅に暈した桜を。
風が色を与えて行く。
一輪、また一輪と開いていく。
そしてついには、視界全てを覆い尽くすほどの桜が咲く。
一面、薄桃色に染まる。
風に色を与える。
清々しい薄桃色の風は、新鮮な気持ちを呼び起こす。
その中に、私は
桜を探していた。
あの日、あの時、あの瞬間の桜の横顔を。
ありもしない景色の中に、その横顔を重ねて。
これからも私は見逃して行くのだろう。
向日葵の黄色を。
空の青を。
紅葉の黄色を、赤を。
雪の白を。
桜の横顔を、二度と見逃さないように。
出会えたなら、二度と、逃さないように。
自分さえも見失いながら。