Presenty——08
状況から斜め読みで済ませたマニュアルの中に見落としがあった可能性は否めない。
だが、帰宅直後に鳴り響いた警報音……。
あれを止めるべく操作したボタンが起動プログラムと連動していたとして、そもそも何故、そのような設定が採用されているのか。
あのようにけたたましく音を鳴らす必要がどこにあった?
……上手く言葉にできないところで引っかかっているものがある。
「申し訳ございません。起動以前の事柄は参照できる記録がないためお答えしかねます」
女はすまなそうに言った。
予想はしていたので、仕方ない。
明弘がぶつけた疑問は、彼自身が考えを整理するのに口に出しただけとも言えるものだ。
「また、メタマイズケースのエネルギー残量がわずかとなっておりますことをご報告させていただきます。性質的都合上30秒後には全ての封が解かれ、その場に中身————つまりは私の各パーツや備品類が散乱することとなりますのでお気を付け下さい」
「…………は?」
言い終わるが早いか。
側面のモニターに数字が表示されカウントダウンが始まった。
メタマイズケースとは女を収納しているこの鉄の箱のことらしい……。
いやいやいや。
待ってくれっ!
明弘は慌てたが、その間にも減り続けた数字はきっかり30秒後に0を刻む。
光が走った。箱を成していた鉄は収縮しモニターに集まってキィンと高音を響かせる。
——ガタガタッドタドタッ。
鉄を収納したモニター含め、その場に散乱した箱の中身に思わず腰を浮かせて半歩下がった。
バラバラの四肢。
首と繋がっている胴。
一糸纏わず晒されている肌。
「いたっ」
痛覚まで再現されているのか、床に叩きつけられることとなった彼女は痛みを訴える。
二の腕までしかない腕をバタつかせてうつ伏せの状態から顔を上げた。
…………嘘だろ。
右を見て。左を見て。明弘を見付ける。
瑠璃の瞳と視線が絡んだ。
「あの、恐縮ですが四肢の接続にお手を貸してはいただけませんか?」
控えめに様子を伺う声色。
奇しくも彼女の体がマニュアル端末の表示通りで————ヒューマノイドだという主張は事実だったと、確定付けるように物理的証拠が目の前に広げられたことになる。
……が、残念ながら混乱からフリーズしかけの頭では困り顔を覗かせる女の頼みにすぐには頷けなかった。