Presenty——06
手のひらにすっぽり収まる小さな機器には大きな丸が1つ。
その下に小さな丸が4つ、傾いた四角形を作るように並んでいる。
リモコンかコントローラと言われた方が納得のできる形状だ。
もしくはレコーダー。
兎にも角にも画面らしい画面がない。
「側面のボタンを押していただきますと電源が入ります。マニュアルの前にチュートリアルをご覧になられますか?」
使い方に悩んでいるとそう声を掛けられた。
側面……。
右側に小さく薄いも出っ張りがある。
これが電源ボタンか。
じわりと背筋に絡みつくような、どうにも言い表しがたい感情を覚えて明弘は女の方へ視線を向ける。
……まあ、視界に映るのは鉄の箱ばかりだが。
開いた口を、しかし、何も言わないままに閉じる。
真偽を確かめるために手に取ったのだ。
疑ってばかりでは埒が明かない。
助言は助言として素直に受け入れよう。
視線を戻す。
掛けた指に力を込めてボタンを押す。
————カチチチッ。
僅かな機械音と共にスピーカーかマイクかと考えていた大きな丸が段階的に開いた。
レンズが露わとなり、カメラのような見目へと変わった刹那。
——放たれた光が視界を焼いた。
「うわっ!」
反射的に目を閉じ端末の向きを変えるも瞼の裏で星が瞬く。
「どうされました? 大丈夫ですか?」
声音だけならまるで本心からこちらの身を案じているかのようにも聞こえたが、英語、日本語……と、変わらず複数の言語で同じ内容を繰り返されては台無しだ。
ロボットらしいと言えばロボットらしいが……。
ゆっくりと目を開く。
落ち着いた視界で原因を確かめる。
いったいなんだったのか。
見るとそこには画面があった。
光の粒子によって構成された平面映像。
SF映画でよく目にする——立体を映し出すことも可能なそれを思い浮かべてもらえばいいだろう。
プロジェクターの投射レンズを真正面から覗き込めば視界を焼かれもするというものだ。
だが、原因なんてもはやどうだっていい。
夢物語の中にしか存在しない技術が今まさに己の手に握られている。
驚きで思考が塗り潰された。
————近年、技術の進歩により空中に映像が浮かんでいるかのように見せるための機材が揃ってきているのは確かだ。
しかし、これ程までに小型化されてスクリーンを必要としない領域に達しているという話は一度だって耳にしたことがない。
好奇心が顔を覗かせる。
気付けば女に話し掛けていた。
「なあ、これの言語はどこで設定すればいいんだ?」
画面の中に浮かぶ文字は箱の側面に取り付けられているパネルと同様、ラテン文字だが明弘が理解のできる言語ではなかった。
内容を知るには設定を直さねばならない。
女は答える。
「まずは言語の指定をお願い致します」
……いや。だからその方法を尋ねているのだが。
「英語でしょうか? 日本語でしょうか? それともクメール語でしょうか?」
「…………日本語で」
「かしこまりました。では一度、全ての端末における言語設定を日本語に統一させていただきます」
よろしいですか?
機械らしくこちらの意思を確認する女の問いに、躊躇いを残しながらも頷いた。