少年、弁慶と出会う。
「失礼、こちらは噂にきく霧の砦だろうか」
三メートルはある大男とその肩に座る女性が門のなくなった入り口から声をかけてきた。
リリエラとイツキは次の来客がきたことにもう揺れなかった。
今日はもう「そういう日」。諦めよう。
女性が大男の肩から地上に飛び降りる。
「こちらは巨人族のガルダン。私は弁慶という。ガルダンの一族を探して旅をしている」
「弁慶、というと音に聞いた、武芸者の弁慶様?」
イツキが驚いた様に声をあげる
「音に聞いたといわれると無図痒いな。私は郭弁慶。なかなか普通の街で巨人族の情報等ないので、森や山をいくつかまわっている日々で、霧の砦が実在するとは……正直思わなんだ」
本来なら彼から話したいのだが、と続け
「彼ら、巨人族の大半…ガルダンもそうだが発声の発達が弱い部族でな。無愛想という訳でもないが、私の方から色々話をさせてもらう」
「巨人族、というのは初めて見るが耳にしたことはある。だがこのあたりでは住めぬと思うよ。このような王猪がいる森だ。砦の様な場所でない限り、安心して住めぬ所なのでね」
弁慶に砦の主らしく言葉を選んで返すリリエラ。
「…の割にはかなり軽くあしらった様子だが……」
「えへへ(*´∀`)♪」
郁沙は弁慶の言葉に照れていた。というのも
「いやー、強っそーな人に言われると照れるなー、確かにそんな苦戦もしてないけどー、弁慶さん?だってこの程度の相手、余裕だって感じの雰囲気とゆーか覇気わかるよー」
弁慶の武が相当なものだと感じてテンション上がりまくり。
『まあ王猪の殺気を感じて喜んで近付くのだからこうなるか』
分かりやすい娘だ。リリエラとイツキは郁沙に好感を持ち始めていた。
一方ルナティカと名乗った少年は……
『脳筋か…いや、馬鹿ではないのだろうが。それこそ猪武者か』
ペースに巻き込まれた先刻の流れを悔いながら、場のなかで空気であろうと黙って会話から引いていた。
霧の濃さが夜の帳とともにあたりを包んでいく。
「ここは本来、客を泊めるような場所ではない。が、今日の来客の多さにいちいち帰れだ無理だのと一人一人やりあうのも面倒なのも事実。霧が晴れる時間を教えるがそれを忘れてくれるなら、今宵の宿をお貸しする」
『さっき強引に休んでいけって……』
ノリなのか建前なのかわかんない女性だな、と少年は再びぐたぐだで居残ってしまうのだった。