少年、逃走中にて。
ー苦しい。
刺された傷が大きいわけではない。だが自分の身体を
異物が貫いたのだ。
得物が自分を貫いた映像。そのインパクトが大きすぎる。
身体の痛み以上に心と映像の衝撃が大きくのしかかる。
ー苦しい。
ここはどこだ。
痛みの情報を忘れる為ではない。
生きる為に次の情報を適切に得る必要があるだけだ。
ここはどこだ。
少年は朱に染まるシャツを右手で握りしめ、心を鼓舞する。
折れるな。そんな傷ではない。
挫けるな。戦いはそういうものだ。こういうものだ。
焦るな。次の状況に対応出来るように呼吸を抑えろ。
どこかの室内だ。人は居ない。が、物音が聞こえる。鳥の声も聞き取れる。暗い室内を目を凝らして周囲の情報を探る
窓はない。照明があるが明かりをつけるのは得策が愚策か。
まだ目はなれていない。
鼓動は落ち着いてきた。刺された環境は既に遠い過去。
今はこの「どこかに跳ばされた状況」からどう自分の
保身を確保するか。
ごく単純に判断すれば。いまは劣勢だ。傷を負い、
知らない場所へ吹っ飛ばされた。動いて身の確保するか
今のまま、情報を得てから動くか。
呼吸の波は整いつつある。室外から(廊下?)足音がする。
先程の物音の主だろうか。
自分の存在に気付いて向かっているのだろうか。劣勢継続。
窓はないのだ。この室内に入られたら少なくとも友好的な
展開にはならない。劣勢継続なのだ。
雑魚ならいいが、一度負けたといえる状況の相手に
跳ばされた先での遭遇。戦闘。敗北。は濃厚な線だ。
考えろ。落ち着け。選択肢を持て。