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普通の少年、普通にパーティを追報される。

――普通の人間になりたい。


それが僕の唯一と言っていい願いだった。


優れた武才も、卓越した魔力も、救世の宿命もいらない。

これといった特徴も特技もなく、スライム程度のモンスターを倒すことで精一杯な―――どこにでもいるような冒険者として、平凡な生活を送りたかった。


…それなのに。


「気に入った。俺はお前を認めよう――真の勇者よ」


僕は魔王に認められた。









時計の針を少し巻き戻そう。

事の発端は、僕がパーティを追放されたことにある。


ある日、リーダーである女勇者マープルの家に呼び出され向かうと、そこには既に僕以外のメンバー全員がそろっていた。

僕は卓の下座に座らされ、上座にマープル。右側には剣士ランスが、左側には僧侶エリカが座っている。


「これで全員集まったな。早速だが、本題に入ろう」


マープルが口を開く。心なしか、ランスがにやりと笑ったような気がした。

なんだろうと訝しむ。今後の旅について、とかだろうか。


しかし、次の言葉は僕が全く予想していないものだった。


「シャーロック。きみにはパーティを抜けてもらう」


シャーロック――紛れもない僕の名前だ。

突然のパーティ追放。虚を突かれた僕を面白がるように、二人が便乗した。


「俺としては、やっとかって感じだぜ。シャーロックがいると、なんか調子狂うんだよな」


と、ランス。


「彼のために魔力を使うの、勿体ないと思ってたのよね。これで有意義に私の素晴らしい魔法が使えるわ」


と、エリカ。


言いたい放題言われている気がするが、僕は全く状況が理解できず何も頭に入ってこない。

そんな僕の様子を見かねてか、マープルが面倒くさそうに再び口を開く。


「我々は――元々、たまたま《・・・・》同じダンジョンを同時に攻略していたからという理由で結成されたパーティだ。草の根冒険者だった我々も、長い旅路を経て強くなった」


「俺はそのうち最強の剣士、『剣聖』の称号を得るための試験に挑むつもりだ。世間じゃすっかり俺の剣技は評判でな」


マープルの話に割り込んで、誇らしげにランスが言う。

確かに彼の剣はこの世界でも有数の才能がある。

少々自信家なところが鼻につくのがマイナスであるが。


「私は攻撃、防御、回復…そのすべてを上位魔法まで習得したわ。ゆくゆくは最上位魔法を習得して、魔力の全てをつかさどるの」


負けじとエリカが自己主張をする。

彼女の魔法の幅広さは随一で、パーティはどれだけそれに支えられてきたかはわからない。

彼女もまた、少々高飛車な部分があるのが癪に障る。


その二人を鋭い目で一瞥してから、マープルは立てかけてあった己の剣を手に取った。


「そして、私はこの剣に選ばれた――伝説の勇者の剣、エクスカリバー」


エクスカリバー。

世界を救う勇者の資格がある人間しか所有することができない、伝説の剣。

とあるダンジョンで見つけ、そしてマープルは剣に選ばれた。

世界中が認める、唯一無二の勇者になったのである。


「さて…きみはどうだ?シャーロック」


咎めるような視線。

双眼に射抜かれて僕は思わず委縮する。


その様子を見てか、ランスとエリカがフンと鼻を鳴らした。


「剣の腕は悪くない。が、特別良いわけでもない。まぁ、普通だな」


「魔法の筋も悪くはないわ。けどこれといって特徴に欠ける…平凡って感じ」


これまで共に様々な苦難を乗り越えてきた仲間たちからの、遠慮のない評価が下される。

そうか、彼らから僕はそう見えていたのか。


特別な才能を持つ彼らから見た僕の評価――普通、平凡。


それは僕の心を静かに揺らした。


「我々はもうただの冒険者ではない。世界を背負う資格を持った、特別な冒険者の集まりだ」


淡々と、マープルが事実を述べる。


「これから我々は魔王を打倒して冒険を続ける。その旅に、普通な奴はいらない」


すっ、と頭の中が真っ白になっていく。

その空っぽの頭の中に、特別の彼らの言葉が反響した。


「「「さようなら、普通の冒険者(シャーロック)」」」








僕はその日のうちに、故郷に帰るために山道を歩いていた。


「まさか――自分から抜ける手間が省けるとは」


元々、近いうちにあのパーティを抜けるつもりだった。

普通の冒険ができると思って加入したあのパーティが、あそこまで成長するとは思わなかったからだ。


あのパーティは、僕が求めている普通(モノ)とは大きくかけ離れすぎている。

かけ離れすぎてしまった。

だから、抜けようと思っていたのだが。


「にしても、随分な言われようだったな」


普通、平凡。

特別な彼らから見た僕の評価。


あまりにも――あまりにもあからさますぎただろうか。


何の取り柄もなく、何の特徴もなく。

何の特技も、何の幸運もない。


けれど決してそれらはマイナスにはならず、あくまですべてが平均点の人間。

そんなの、いるわけがないのに。


少し、没個性を演じ(・・)すぎてはいなかっただろうか。


「まあ、いいか」


普通に、パーティを追放されたわけだし。

これで、また普通の生活に戻れるのだから。


なんて、思っていたとき。


「グルルルルル……」


不意に目の前に、モンスターが現れた。


黒い毛並みに赤い瞳。狼のような見た目で、熊ぐらいの大きさ。

名前はなんだったか――正直、モンスターの名前なんていちいち覚えていなかった。

特徴や攻撃パターンも、全くと言っていいほど頭に入っていない。

高みを目指す冒険者ならば、ちゃんと勉強しているんだろうけど。


僕は別に、普通でいい。普通になりたい。



牙を剥き出しにして、飛びついてくるモンスター。

僕は身構えることもなく、武器を手に取ることもなく。

魔法を唱えるでもなく、ただその場に立ち尽くす。


「ガァァ――」


次の瞬間、モンスターは白目をむいて、大量の血を吐き出した。

そして、そのまま地面に倒れ伏して――絶命した。


僕は服に血がかかっていないか確認して、再び歩き出す。



普通になりたい。普通の生活を送りたい。

それが異常で、特別な僕の唯一の願いだった。


評判によって話を続けていこうと思います!

評価よろしくお願いします!

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