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「機械仕掛けの天使の脳髄」シリーズ

ショートショート「黒歴史地獄」(習作)

作者: 超プリン体

「なろう系タイトルジェネレータ」で生成させたタイトルである、


  「黒歴史地獄」


これに、自分なりのストーリーを付けてみることにしました。


 ・黒歴史とは、なくしてしまいたい過去。

 ・身を焼かれるような思い。


なお私の最近の創作スタイルは、「設定を考え、プロットを考え、それに従い描写する」、というものではないので、多くの人にとっては楽しめない恐れが高いのだけれど、絵画でいう写実に対する抽象画のような、一風変わったスタイルでつづられているものだと認識しておいていただき、その中に何かのヒントでも、読み取っていただければと思います。


 ではやってみましょう。「黒歴史地獄」の、はじまりはじまりぃ。

 からからからからからからかかららから……、規則的に、あるいは時折異音を放ちながら、小さな幻燈機械がリールをたぐっている。真っ暗な部屋の中で、その幻燈の弱弱しく白い光が、壁に貼られた白いスクリーンにモノクロの映像を投影している。


 その映像の中で、中学生くらいとおぼしき、古いデザインの学生服を着た少年が、山奥の舗装のされていない田舎道を歩いている。道端で、農作業着を身に付けた中年の女性が、大根の仕分けをしている。


 少年はその女性に近づいた。女性は少年の靴をちらっと見た。それはボロボロになったアップシューズであり、女性はさらに少年の顔を見るために頭上に視線をやった。女性の、マスクのついた後ろタレのついたガーデニング帽の奥で光る射貫くような冷たい視線が、少年の顔に容赦なく突き刺さる。痛い、と少年は思った。だが少年は、そんな気持ちをおくびにも出さず、無表情に女性の顔を見おろしたままだ。怪訝な目で少年を見ていた女性だが、やがて鼻から下を覆っていたマスクを外して帽子を抜いた。はら、とボリュームのある美しい黒髪がまろびでた。硬い表情ではあるが、女性の意外と整った美しい顔立ちに少年ははっとなった。白黒の映像なので顔色まではわからないが、若干赤面したように見えなくもない。少年は目を泳がせ、半歩ほど後ずさった。女性が笑顔を顔に宿して立ち上がった。女性の背丈は少年の胸ほどまでしかない。画面は真っ暗になり、白抜きの文字が表示される。サイレント映画なのだろう、音声は出ない。


 どうかしたの? 学生さん?

 どこから来たの?

 どこへ行かれるの?

 もうすぐ日が暮れるわよ?


 画面が再び女性と少年を映し出す。右手にはガーデニング帽を、左手には一本の大根を持ち、真っ白な歯を見せて笑顔をこぼす女性が、品定めするかのように、狡猾そうな目で少年の顔をなめるように眺めている。少年は右手で学生帽を深くかぶり直して、詰まりながら答えた。再び画面が黒い背景に白抜きの文字となる。


 す、少し離れた町から来ました

 あてのない、ひとり旅です

 日が暮れたら、そこらへんで野宿します

 

 女性は少年の顔から視線を下げ、その身体を品定めする。その表情はさきほどまでの屈託のない微笑から、奸濫かんらんをともなう妖艶ようえんな薄笑いへと変わっている。彼女の細めた目の奥に、再び射貫くような残虐な光を見てとった少年の心は震えた。そこへ、一台の小型のトラック、ダイハツ・フェロー1969年式が、通りがかり停車した。荷台には農作物と農具が整然と置かれている。運転している白い手拭いを鉢巻きにした小柄な男が、女性と少年を交互にいぶかしそうに見つめた後、女性に言った。


 今日もそろそろ、乗っていくかい?


女性の顔はふたたび、優しそうな大人の女性の笑みに戻り、男にこう答えた。


 今日は町から親戚の子がきてるの

 だから大根運びも手伝ってもらうの

 ねえ、いいわよね?


女性は少年をまっすぐに見つめた。輝くような笑顔の女性に、少年は慌ててこくこくとうなづいた。トラックの男は一瞬強い嫉妬の色を浮かべたが、すぐにさげすむような、下衆げすなニヤニヤ笑いを顔いっぱいに浮かべて少年と女性に無礼な視線をくれた後、トラックのエンジンをかけなおしてゆっくりと去っていった。少年は、複雑な心境で、夕闇の道を遠ざかって行くそのトラックのテールランプを見守った。女性は少年の手を握った。振り払うことも出来ず、硬直する少年。再び画面に文字が表示される。


 町はどうかしらないけど

 山の夜は寒いわよ

 今日はうちに泊まっていきなさいな

 大根運び、お願いね


 女性の眼が一瞬、獲物をねらう猟犬のようにきらめいた。少年は狼狽ろうばいした。なぜだ……、一体なぜこのようなことに……。彼はさきほどの自分の行動を、うかつにこの女性に近づいたことを深く後悔した。彼は昨日の夜、将来のことで父と大ゲンカをした後、たまらず家を飛び出しあてもなく彷徨さまよい続けていたのであるが、女性の言う通り、確かに山の夜は寒く、少年は一睡もできずに疲れ切ってしまっていた。どこか温かい場所で、温かい食事を取りたい、と少年は思っていた。誰かの愛に、温かく包まれながら……。


 女性は両手で少年の右手を包み込み、そっとなで続けた。その手は熱いくらいに温かかった。こうして、少年にとっての一生の恥辱、最大の黒歴史として彼を悩ませ続けることとなる、彼女とのおぞましくもなまめかしい地獄の一夜が幕を開けたのであった……。


(おわり)

「黒歴史地獄」、というタイトルから、夢野久作さん風の映像を思い浮かべて描写してみました。突然始まり、突然終わる。しかも肝心な所は描写しない。これが私の好きなスタイル。続きはあなたの脳内で。


また、もしよかったら、あなたなりの「黒歴史地獄」を、書いてみてください。

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