8章
波乱の予感。そして新しい方向に進もう。
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夏休みが近づいてきた頃になっていた。
クラスに陸が居るというだけで、話し声がしているだけで幸せな気持ちになった。
陸の顔を見る度に心がくすぐられるのだ。陸の事を考えるだけで、頭の中がルンルンして来るのだ。
それとは逆に翔太の事を考えると、苦しくなる。
翔太とLINEする事も電話をする事も辛くなり、もうすぐ期末テストがあるので、LINEは控えめにしますと伝え、あまり返事を返さなくなった。
それでも翔太は、懲りずにメールを送ってきた。
学校では、いつもの6人で空き教室で集まりテスト勉強をする事が度々あった。
陸と真由美は、何やら壁際で話をしている。だんだん2人は言い合いになり、声が大きくなった陸が、
「真由美、もううちの店に来んなよ。」
「ほっといてよ。」
真由美はそういい、走り去っていった。
陸が4人の所に気だるそうな顔をして戻って来きた。
「何々、痴話喧嘩?」
河合が話かけると、
「最近真由美、おかしいと思わないか?」
逆に陸が皆に質問を投げかける。
すかさず熊澤が、
「凄い痩せたよね。」
「そうそう、激やせしたって。」
唐沢も同意して答える。
少し間置いてから、陸が答える。
「真由美さ、うちの店に来るようになったら、俺の先輩に入れ込んじゃってさ、毎日来るし、先輩に凄い何回もメールしたり、異常な感じになってきてさ。」
それを聞いて河合美穂が、
「真由美、たぶん拒食症になっているよね。」
「たぶんね。」
「この1ヶ月で8キロ近く減ってそうな感じだね。」
河合が、陸を見て、
「テスト終わったら皆で真由美をどうにかしよう。」
5人は深刻な面持ちで頷き、テスト勉強を始めた。
麗奈は、真由美が陸狙いでは無い事が分かってほっとした。
だが、その事ばかりにとらわれて、真由美がおかしいことに気付いてあげられて居なかった事に苦い気持ちになった。
テスト最終日の最後の科目である生理学が終わったら、真由美を捕まえて、皆で真由美の話を聞いてあげようという事になっていたが、真由美は最終日に学校には来ず、それ以降学校に来る事はなかった。
スマホでも、誰一人真由美に連絡をとる事が出来なくなった。
下校後、熊澤以外の3人はバイトがあるからと、帰って行ったが、熊澤は何も予定が無いから麗奈のアパートに寄って帰ろうと麗奈と2人で校門を出て麗奈のアパートまで歩き始めたその時、
「麗奈!」
後から呼び止められた。
熊澤と、麗奈が振り替えるとそこには翔太が立っていた。
「翔太!どうして。」
翔太が近づいて来たので、熊澤は、
「麗奈、やっぱり私帰るね。」
そう言い、駅の方に歩いて行った。
翔太は、無言で立っていたが顔からは不安が滲み出ていた。
「翔太、ごめんね。」
「何がごめんなの?」
答えられず、麗奈は無言になる。
そのまま、無言で歩道に立ち尽くす2人。
「なんで、なんで、LINEも返事くれないし、電話も出ないし、嫌いになったのかよ、俺のこと。」
そう言われ、麗奈は無言でしかない。
何と返せばいいのかもわからないのである。
翔太を目の前にして、翔太に嫌われたくないというか、悪者になりたくないという身勝手な気持ちで曖昧な態度をしてきた事に、どうしたらいいのかまだ何も考えてなかったのだ。
翔太は、この数日間考えていたことをぶちまける。
「俺、麗奈が好きだよ。麗奈じゃないとダメなんだよ。麗奈が連絡くれなくなって、なんでって考えてもどうにもならなくて、好きな奴でも出来たの?俺が嫌いになったの?やっぱり山梨と東京で離れるからこうなるのかな。明らかに最近態度がおかしいよな。」
涙ぐむ翔太。
思い詰めて、試験最終日の今日、山梨からやって来てずっと校門前で麗奈を待って居たのである。
そんな翔太を見て、麗奈も涙ぐんできた。
色々思い出すし、翔太の好きな所も沢山ある。
2人で沢山やりたい事も、行きたい所もあったし、今まで2人で過ごしてきた時間は有意義であったのは間違いなかった。
「・・・・、嫌いなったんじゃない。」
「じゃー、なんで?俺の思い込み?」
「違うの、私が悪いの。」
「さっぱりわからないよ。じゃー、このまま付き合ってくれるだろ?麗奈。」
「・・・・・.。」
「麗奈。」
「ごめん。翔太とは付き合っていられない。翔太は悪くないし嫌いになったんじゃないんだけど・・。」
そこまで話し、言葉に詰まり麗奈のほうが、号泣し始めた。
「しょう、翔太に、言いたくなかった・・・。だって・・・・、翔太の事、好きなんだよ。」
「・・・麗奈?」
「で、でも・・・。」
麗奈の号泣がピークになり麗奈から、言葉が出ない。
「なんか俺が泣かせているみたいだよな。」
そう、翔太が呟いてオロオロするくらい号泣する麗奈。
「このまま・・、このまま翔太と付き合うのは、ずるいから。」
無言で翔太は、麗奈の話を聞く。
「私・・・私、他に好きな人がいる。翔太とこのまま付き合えない。」
それを聞き翔太も、頭の隅で言われるかもと覚悟していた言葉だったので、すぐに言い返す。
「そいつと付き合っているのか?っていうか誰だよ!」
「付き合ってなんかいない。私の勝手な片想いだよ。」
麗奈の号泣は、やや落ち着いてきたが、泣きながら体の向きを変え翔太に背中を向けて、
「ごめん、翔太。」
そう言い走り去って行った。
号泣しながら、家に着いて、さらに大泣きした。
翔太を傷付けた事、どうにもならないんだけど、悲しくて涙が止まらなかった。
2人の関係が終わるという事態が突然来てしまった事にショックでもあった。
自分のせいなのに、翔太の居ない生活になる寂しさと、翔太との思い出を考えると涙が止まらなくなるのだ。
大切な人を失った事にただただ泣き通す夜を過ごした。
そのまま、寝ずに朝になり、ひどい顔をしていたので、伊達メガネをして学校に行った。
麗奈の顔を見て熊澤に抱き締められたが、陸も河合も唐沢も、麗奈の顔を見て、何も話しかけて来なかった。
何となく、皆は気が付いただろうが、鈍感な唐沢だけは、河合に「麗奈どうした?」と聞いていたので、4人でこそこそ熊澤を囲んで昨日翔太が来ていて、それでそれなりの話があったんだろうという事を聞いていたようだ。
翌日、麗奈は、河合と熊澤に、翔太と別れた事を告げた。
その後、夏休みに入るまでは、陸が毎日気を使ってくれているのか、よく話しかけてくれた。
麗奈は、翔太と別れたからと言って陸にすぐに乗り換えるのもどうかと思うので、陸がとても好きなのだが、気分は少し距離を置き接する事を努力していた。
それと、いざ、陸のことが好きだからといっても、どうしたらいいのかと考えても行動に移せない気がした。
陸の言動にも、彼女という存在をやはりつくる気がないような感じがあるのだ。
ブランド物も、お客さんがくれたとか、お客さんとご飯を食べに行ったとか。
特定の彼女は作れない気がするし、「自分にはちゃんとした家庭をつくる自信がないから結婚もしないかもしれない」と言ったりするのだ。
そこまで、はっきり言われると、陸に踏み込みたくても踏み込めない、見えない壁を麗奈に対して作ってきている感じがする。
麗奈は、陸と居る事に居心地良さや楽しさを感じ好意を持っても、陸からみたら他の友達と同じ存在に過ぎないのかもしれない。好きになっても、「遊ばれるだけなのかも」と色々考えてしまう。
ある日、夏休みの事を考えて独り言をつぶやいていた。
「夏休みに入るから、私もバイトしようかな~。みんなもバイトしてるし。」
麗奈は夏休みに山梨に帰ろうとは思っているが、長く帰ると、近所なだけに翔太に会うかもしれないので何となく気が向かない。
それに実家の両親は共働きで平日は居ないので帰るにしても短期で帰ろうかと思っている。
そのため、蒲田で夏休みを過ごす時間が長くなるであろうから、社会勉強を兼ねて、バイトを始めようかと考えていた。
「麗奈も、夏休み、長くは山梨帰らないなら板橋の花火大会に行かない?皆で夏休みも1回位集まらない?」
熊澤が言い始めた。
熊澤は、和光なので地元近くの花火大会である。
「板橋の花火大会?行きたいよね。」
河合が、乗り気になり、5人と、熊澤の彼氏が一緒に来る事になって、当日は船間舟渡駅で落ち合う事になった。
麗奈は、バイト雑誌を見て、いくつか目星をつけたが、第一候補の服屋さんの面接が受かり、行くことになった。
品川の駅ビル内の服屋さんで、夏休み中は、オープンからの時間を働くが、夏休みが終わったら夕方からのシフトに変えてもらえ、続ける事が出来そうであった。
花火大会、当日。
唐沢と河合と陸と麗奈の4人は埼京線を一緒に乗って船間舟渡駅まで行った。
改札を出た所で、熊澤が彼氏を連れて待っていた。
バスケットをしている彼氏なので、背の高いガッチリした男性であった。
麗奈に気を利かせたのか、河合は唐沢の袖を引っ張り、今日は、私をエスコートしなさいと言わんばかりに、唐沢を自分の横に並べていた。
麗奈は、陸と隣に立って歩き始めたが、駅から会場まではかなりの混雑で、人の波に押されながら歩いた。
そのため陸が自然と自分の方に麗奈を近づけようと手を繋いだ。陸の手の大きさを感じて7月にフライデーWOOのライヴへ行った時を思い出した。
陸は、すごく笑顔だった。
「なんか、いいな。花火大会に出掛けるの、高校以来かも知れない。」
といい、ニコニコしている。
忙しくしている日々の中で陸はこの日を楽しみにしていたのかも知れない。
そんな陸を見て、麗奈も笑顔になる。
心の中で、陸好きだよって何回もリピートしてみている。
陸も同じ気持ちならいいのにって、何回も思ってみた。
露店も込み合っていた。
品物を買うのにかなり並ばないとならなかった。
食べ物を買うのに何組に分かれて違うものを買い合流しようと言う話になり、麗奈・陸は焼きそば、熊澤と彼氏はたこ焼、河合・唐沢は唐揚げに並ぶ事になった。
麗奈は陸と買い物の列に並ぶと、陸がおもむろに話始めた。
「フライデーWOOの時の話とか、今日の話を母さんにしたらさ、母さんが麗奈に会いたいって言い始めて、毎日のように催促されてさ。」
「えっ。お母さんが私に?なんで?」
「いや、俺が話たから、どんな子か会ってみたいんじゃないかな?でも、麗奈が嫌ならいいんだ、親だからさ、別に断ればいいからさ。」
「私はいいよ。むしろ、陸のお母さんにそう言ってもらって嬉しいし、私も会ってみたいよ。」
私の事を陸がお母さんに話していること自体が意外であったため、陸のお母さんに会ってみたいと言われたことは、とても驚いた出来事であった。
「じゃー、今度麗奈のバイト休みの日、教えてくれる?」
「もちろん!」
そう、約束して焼きそばを購入して、手を繋いだまま、花火大会を過ごしていた。
陸と見る花火はとても輝いた素敵な花火に見えた。
「しあわせだなぁ。」
「なに、ババアみたいな言い方。」
陸に笑われた。
でも、何気ないことが幸せに感じる。
誰かを好きになるって、辛いこともあるけど、幸せだよね。
つづきはまた時間があるとこに投稿します。まだまだ先は長いのです。