6章
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6月1日
衣替えにもなり、暑くなり始めた。
東京に住んでいる人達の方がずっとファッションの衣替えが早い事に気がついた。
麗奈は、5月から休みの日には、渋谷・原宿・池袋等、主要なところへ行っては、服や化粧品を見るのが好きになっていた。
一度だけ、熊澤紗耶香と一緒に池袋で約束して、日曜に買い物に行った事があった。友達とも仲良くなってきて、大学生活に慣れてきた頃。
「麗奈の家に泊まりに行ってもいい?」
熊澤紗耶香が、声をかけてきた。
熊澤紗耶香は、埼玉の和光市から通って来ているバスケ女子で、背が高くてボーイッシュな女の子。
「いーよ。おいでよ。」
麗奈は、何も夜は予定もないので、一言返事である。
熊澤紗耶香は、皆から熊ちゃんと呼ばれるようになっていた。
体の大きさから、やや当てはまるピッタリネームだが、名字がそうだからとあからさま過ぎていいものなのだろうかと麗奈は思っていた。
しかし、当の本人は、
「全然、大丈夫だよ。プーさんとか呼ばれていた時もあるし。むしろ、地元でも熊ちゃんだよ。」
と言っていた。
「いーな。私も行きたい!」
その話を聞いていた河合美穂も、麗奈の家に泊まることになった。
河合美穂は、東京中野出身で、短大卒業後にOLをしていたが、理学療法士になるため、蒲田医療大学に入学してきた。
おしゃれな感じだがはっきり物を言うお姉さまであった。
遠藤真由美にも声をかけたが、生憎先に予定があり来られないと言うことで、女子3人でお泊まり会をすることになった。
木曜の夜に、熊澤と河合は麗奈のアパートに泊りにきた。
熊澤も、河合も実家住まいで独り暮らしをしたことがなかったので、麗奈のワンルームの小さなアパートでも、一人暮らしをしていることを羨ましいと何度も2人で話していた。
3人で簡単な夕飯を用意して、テーブルで話始めた。
「麗奈の彼氏、イケメンだよね。前もスマホで見せてもらったけどさ。この写真も、どうみてもイケメン。」
山梨から、引っ越したときに翔太からもらった写真をちゃんと部屋にかざってある。
それを見て河合は、話を始めた。
それを聞いて麗奈も熊澤の話をする。
「熊ちゃんの、彼氏だってかっこいいよね。バスケ部の先輩だし、地元だから頻繁に会えるのが羨ましい。」
「まあ、会うって言っても、バスケOB・OG会に行っているだけだけどね。」
そう言って熊澤は苦笑いをしている。
麗奈は、久しぶりに翔太と会ったときのGWデートの話をした。
「わかるわかる、そういうことあるよね。」
熊澤は頷いて言う。
「なんかこっち行った方が近道だったのにみたいになって、イライラしてさ。結局彼氏と喧嘩になるみたいな。」
河合も頷き言う。
「そうそう。何かわからないのに勝手にイライラしだして不機嫌になる男とかさ。」
「でも、麗奈の彼氏は、イライラしなかったんでしょ?」
「うん。逆に申し訳なさそうにしてたよ。」
それを聞き、河合は、感心したように言う。
「翔太くんは、優しいね。かわいいなぁ。」
河合は、頷きながら妙に関心している。
「いいな、2人とも彼氏がいて。私もイケメンの彼氏なら欲しいな・・。で、話変わるけどさ、陸って、いい男だと思わない?優しくてイケメンだしさ、あんな出来上がってるイケメンなかなか居ないよね。」
「まーそうだよね。出来上がったイケメンだよね。」
3人とも、頷き同意する。
それくらい、陸は、かっこいいし、性格もいい、話も上手だった。
多くの人混みに居ても、かっこいいとわかるくらいの見た目があった。
麗奈が入試の時、陸に助けてもらった事は、仲良しグループの皆には話をしていたので、麗奈と陸の出会いは、熊澤も河合も知っていた。
「あんなイケメンに私も助けてもらいたい。」
河合は、ジョーダン混じりに話す。
「いや、美穂さんなら絶対イケメン彼氏出来ますよ。今現在、彼氏が居ない事もおかしいもん。」
と、熊澤が返すと、
「私も、こんないい女に彼氏が居ないのはおかしいと思ってる〜(笑)。」
と、河合は彼氏居ない事をプラス思考でとらえる。
「でもさ、時々麗奈と陸くんがいい雰囲気過ぎて、話しに入れない時があるんだわ。」
「えっ?」
いきなりの河合の指摘にビックリする麗奈。
だが、熊澤もそれを聞いてそうだと言わんばかりに、うなずいている。
「いや、普通に話してるだけだけど・・」
すかさず否定する麗奈だが、それを聞き、河合は、真面目な顔つきになり、
「いや、どうみてもじゃれあっている時もある。こいつらできてるじゃないかって思うくらい。」
それを言われ、麗奈も言い返す事ができない。
確かに、陸と盛り上がった物事についてやフライデーWOOの話をしている時など、陸が麗奈の頭を撫でたり、近くに体を寄せてくる時がある。
麗奈も陸が嫌ではないので、2人で寄り添い、フライデーWOOの動画を見ている時があるのだ。
「あれは陸に行くでしょ。」
河合があまりにも麗奈攻めするので。
「美穂さん、言い過ぎ~。」
熊澤が、河合にストップをかけた。
でも、自分でも認めたく無かった事を、河合にズバリ言い当てられたような気がした。
麗奈の心の中で隠そうと思っていた、陸への気持ち。
確かに、私は陸に好意を持ち始めている。
最初は、翔太に会えない寂しさからかと思っていたが、それはやはり陸に対して好意があるからということに気が付いたのだ。
ただ、陸に聞きたくても聞けない事があった。いや、聞きたくないから、聞かなかったのだろうが。
「でも、あんなにかっこいいから、もちろん彼女いるよね。」
麗奈は、不意に呟いていた。
「いや、居ないらしいよ。」
即答する河合。
「なんで美穂さん知っているんですか?」
「そりゃ、本人に聞いたからだよね。」
熊澤も麗奈も身を乗り出して、陸をおかずに話をする。
「なんであんなイケメンに彼女がいないの?」
「遊んでいる女は居るでしょう。だって、身に付けているものがブランド物ばかりでしょ。財布もかばんもグッチ、ベルト、時計はドルガバ。服もそれなりのデザインのものを着ている。」
「ですよね~、それ気が付いていました。バッチリブランド物を身にまとっているのは。でも、ずっと学費稼ぐのにバイトしていたって陸に聞いてたから、お金持ちじゃないと思ってたんですけど?」
そうだよねと言わん顔で3人で沈黙になると、1人が口を開く。
「ヒモ?貢がせている?」
「ヤバイバイトしているのかも。」
「いや、モデルかもしれないですよ。」
「不思議くんじゃん。やっぱりいい男には、何かあるんだわ~。私が今まで会ったイケメンも掴めない男ばかりだったからなぁ。」
女子の話は花が咲き、夜も更けてくのであった。