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見えない壁、その向こうには。  作者: 山口 佳
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3章

これからの展開が楽しみです。


 山梨に帰り、他の2校も受験したが、右手のギプスで、指先しか使えず受験の筆記がほぼ出来なかった。

結局、県内の2校は、落ちてしまい、蒲田医療大学のみ合格した。


 翔太は、山梨県内の国立大に無事合格した。

 翔太には、東京の受験時の骨折を、かなり心配された。

骨折は治癒したものの今度は、山梨県内への進学が出来なくなり、麗奈が東京に進学する事が、心配でたまらない。


2人で会う時間が県内進学よりも絶対的に減るのである。


「でも、俺、バイトしてお金貯めて、東京に会いに行く回数増やすから。」


「そうだね。淋しいけど、私も帰って来られそうな時には帰ってくるよ。」


 そんな、まだ想像でしかない4月からの大学生活の話が2人の間では日に日に増えていった。


 麗奈はたまに、東京の事や受験の日の事を思い出すと、一緒に病院に付き添ってくれたあの青年を思い出すのである。

 手足が長くすらっとした美青年。例えるならば、マネキンのような美しさがあった。

笑った時の優しくて、胸が締め付けられるような素敵な顔が蘇るが、時間が経つにつれて、その笑顔がどんな顔だったかは、ぼんやりぼやけた記憶になっていった。


 三月に、両親とアパート探しなどで度々東京を訪れ、交通費の事を考えれば、大学の近くに住むのが適当であろうという結果となり、東急多摩川線の矢口渡駅と、東急池上線の蓮沼駅が徒歩圏内のアパートで64000円の家賃の所に決めた。


4月2日。


 東京に引っ越す日が来た。

 レンタカーのハイエースに荷物を詰めこみ、父の運転で大田区まで行くのだ。

荷物を車に乗せようとして朝早く玄関を開けると、翔太が立っていた。まだ寒い4月の朝である。


耳も鼻も赤くなっていたので、30分くらい前から待っていたのだろうか。


「翔太、おはよう。見送りに来てくれたの?今朝はLINE来てなかったから、まだ寝ているのかと思ったけど、来てくれてたんだね。昨日は、カラオケ楽しかったね。ありがとう。」


「うん。」


返事をした翔太は、手に持っていた、紙袋を麗奈に渡し、麗奈の顔を見つめた。


 そして、何かを言おうとしたのかも知れないが、震える唇から何も声は出ず、片方の目から涙が伝い流れてきた。

視線を少し下に向けた翔太。

そのまま、何も告げることはせずに、翔太は、走り去って行った。


 朝の静けさの中、しばらくと言っても十秒くらいだろうか、翔太に驚き動けず麗奈は立ち尽くしていた。


 その後、バタバタとし、両親と荷物を車に積み込み面倒くさそうな弟を連れて、東京に向かう。

その車中で、翔太の涙の顔を何度も思い出した。


 翔太から貰った紙袋を開けると、麗奈が好きなチョコと、翔太と麗奈のツーショットで撮った写真が入った写真盾と、クマのヌイグルミが入っていた。


この、クマのヌイグルミは、翔太の部屋にずっとあった物で、麗奈が気に入っていたのだが、もともと翔太がずっと大事にしていたクマのヌイグルミなのだ。


 それをくれるとは。


 麗奈は、翔太の気持ちを強く感じる日となった。


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