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見えない壁、その向こうには。  作者: 山口 佳
15/19

15章 (美穂と和也)

この章から主人公が変わります。

麗奈の大学の友人である河合美穂26歳。

年下の彼氏、唐沢和也とのストーリーお楽しみください。


河合美穂は、唐沢和也と付き合いはじめて3ヶ月経っていた。


理学療法士を目指す2人。

理学療法士は、英語でPhysical Therapistと英語で言うので略してPTと医療者間では言う。


PT科2年を取り巻く季節は春から夏へと移り変わっていた。


唐沢に好きだと言われ、美穂は6歳年下の男の子と付き合い始めたのだ。


それまで、次に付き合う人がいたらお洒落な町を歩き、お洒落なレストランでご飯を食べて、お洒落なホテルに泊まってという大人なデートを想像していたので、年下の学生の男の子が彼氏というイメージが全くなかった。


美穂と同じ短大だった友人や、前の会社の同僚には、商社や有名企業の彼氏がいる人もいて、唐沢と付き合うまではいつも友人達を羨ましいと思っていた。


美穂にそのような彼氏が今まで居なかった訳ではない。

短大の時に、年上で会社員の彼氏が居たことがあった。爽やかで、優しい彼氏だった。ドライブに行ったり、映画に行ったりとし、深い仲になったのだが、その2カ月後に、相手に急に別れたいと言われたのだ。

それは、美穂が浮気相手だったからだ。

会社員の彼氏には他に本命の彼女が居た。その子と結婚するから別れたいと言われた。

美穂はただの都合のいい女だったのだ。


その男に嘘をつかれていたのかとショックだったが、何より自分が相手にとって一番必要とされる存在ではなかった事が自分の存在を否定されたような気がしてショックであった。


そのあと何人かと付き合ったが、なんとなく相手を疑い必要以上に嫉妬深くなり、ギクシャクして別れた事が何回かあった。

自分の理想の男性像は理想でしかなかった。

理想で付き合っても、上手くはいかない。


何故なら、好きになると言う気持ちは、理想など関係ないからだ。

現実は理想とは違う。

自分をこんなにも好きになってくれる人は理想像とはかぎらないのだと。

そして、自分も好きになる相手は理想像とは限らないと、唐沢の存在で気が付かされた。


唐沢も美穂と同じくらい嫉妬深く、それほどまでに美穂の事が好きでいてくれる事がわかったのだ。

美穂は、唐沢の若さゆえの情熱を感じた。


唐沢は、美穂に色々聞いてもきたが、唐沢自身の事も知ってほしいからと、日曜に唐沢の地元に呼ばれたのだ。


午後3時頃、東京メトロ行徳駅で降りた。

唐沢に電話をしたら、小走りで唐沢が走ってきた。

美穂を見てすごい笑顔で走ってきた。


「美穂さん。」

そう言って、唐沢は右手を差し出した。

手を繋ごうと言う事らしい。

美穂は、笑顔でその手をとり唐沢と手を繋いだ。

唐沢がウキウキして嬉しそうなのがとてもわかる。

犬みたいな子なのだ。

楽しいときは、しっぽでも振っているよう。困っているとき悲しい時は、しっぽを下げているように、しゅんとしていたり、感情がものすごい顔や態度にでているのだ。


美穂に会うだけでこんなにも笑顔で居てくれることに美穂もただただ嬉しくなるのだ。


10年以上は経っているだろう少し古く感じる白い軽のミニバンを近くの駐車場に停めてあり、2人で乗り込んだ。

唐沢の車は、内装にステッカーが張ってあったり、小物が置いてあったり、大事に乗られているようだった。

ヒップホップが流れる車内、軽自動車なだけに、2人の距離は近い。


「美穂さん、これどうぞ!」

いつも美穂が飲んでいるカフェオレを用意してくれていてようだ。

「ありがとう。」

唐沢の運転で走る車は、少し大きな通りに出た。


しばらく走ると、

「ここ、俺がバイトしている弁当屋っす。」

チェーン店のお弁当屋さんで、唐沢は弁当の調理をしている。今日も14時半までバイトをしたあと美穂を迎えに来たのだ。


「美味しいよね、ここのお弁当。この前ハンバーグのお弁当買ったよ!」


「マジで!おすすめは、唐揚げ弁当なんで、マジうまいんで今度買う時には食べてみてくださいよ。」


「わかった!今度買ってみる。」

唐沢と居ると美穂も20歳の頃に戻ったような気分になる。

ウキウキしてくる。

唐沢は海方面に向かっているようだ。


「俺がいつも行くスケボーパークがあるんで、今から行きます。友だちと待ち合わせてるんで。」


唐沢は、スケートボードが好きで時間がある時はスケートボード仲間とずっと練習しているらしい。

車を駐車場に停める。

美穂は、カフェオレを持ち、唐沢はジュースにヘルメット、スケートボードを持ち、スケートボードパークに歩いて向かった。


もう、7月手前、16時近くになったが暑い時間だった。

少し曇っていたが、少し外にいるだけで汗が出てきた。

それでも、スケートボートパークには、沢山の人が居た。

皆ジャンプしたり、斜めになっている場所を順に滑っているようだった。

「かず!」

少し向こうで立っている男の子に唐沢が呼ばれたようだ!

「ナリ!」

そう言うと、唐沢は美穂をナリと呼んだ男の子の所へ連れて行った。


唐沢とナリは、ハンドシェイクをして、お互いの肩をぽんぽんと叩いたあと、ナリが、美穂を見て笑顔で話してきた。


「はじめまして。美穂さん、ですよね。俺、加藤友成っていいます。ナリって呼んで下さい。」

「はじめまして。河合美穂です。よろしく。」

ナリと握手をしていると、

「はいはい、俺の彼女だから手を出さないでね。」


そういい、唐沢はナリと美穂の手をほどいて、美穂と手を繋いだ。

「大丈夫だって、誘惑しねーよ。」

ナリは、わかってるからと軽いノリで答えた。


そのあと、ナリと唐沢はスケートボードの事を話ながら、唐沢は板に乗る準備をした。

ナリは、先にある程度乗り終わった後のようで、汗をかいており休んでいるようだ。

「じゃー、美穂さん、少し行ってきます。」

そう唐沢は言うと、ボードに乗りに行った。


唐沢は、上手にボードに乗っていた。板をくるっと回してまた上に乗ったりジャンプしたり、他にやっている人と比べても上手に乗っている方だと美穂でもわかった。


「かずと高校からの友達なんすけど、2人でその頃からずっとやってるんすよ。

かず、上手いっすよね。最近なんか、もっとうまくなりたいからって筋トレするのにもインナーマッスルも鍛えるとか、スケボーバカっすよ。あいつの腹筋バキバキのチョコレートになってるの知ってます?」


ナリにそう言われて、美穂は唐沢とこの前ホテルに行った時の事を思い出して、赤面して頷いた。


唐沢の体は、無駄な脂肪もついておらず、ナリが言うようにある程度鍛えられた綺麗な21歳の体だった。


「あっ、すんません。言わなくてももちろん知ってたっすよね。」

ナリはにやけた顔で赤面してる美穂をみた。

ナリは、2人の体の関係事も知っている様子であった。


「ラブラブで羨ましいっす。」

「ナリくんは、彼女居ないの?」

「今頑張ってる子は居るんすけど、無理っぽいっていうか。」

「そうなんだ。」

そう話してまた、唐沢を見た。


いきいきスケートボードしている、唐沢はかっこよかった。

自分が知らなかった魅力があった事に気が付いた。

ふと、唐沢は、もてるんじゃないのかと思った。

「唐沢ってもてるのかな?」


ナリはそれを聞いて、いやいや~と顔の前で手を振った。

「アイツ、奥手なんすよ。というか、軽い人見知りっていうか。あんまり接点がない子とすぐには仲良くなれないんすよ。だから、学校で美穂さんに初めて話しかけられた時とか、板橋の花火大会で2人で手を組んで歩いた時とかマジ嬉しかったって言ってたっす。で、アイツなかなかはっきりしないところあるんで、美穂さんみたいにがっつり言ってくれるタイプの人が好きみたいっすよ。」

「ふ~ん。」


「美穂さんに告るまで、かなり苦労してましたっす。」

人見知りな事に安心したような気もしたが、ナリにかなりの事まで話しているんだなと親し過ぎる事に気が付かされた。

唐沢と美穂の二人の秘密かと思っていた出来事をナリに知られていた。

唐沢に裏切られたような、そしてナリに嫉妬したような気分になった。


「因みに、俺もはっきり言うタイプなんで。」

「だね。何となくわかるわ。」

唐沢の事を他の人から聞く事自体嫌だった。


でも、嫉妬した自分が居る事で、唐沢をすごい好きになっている事は自覚した。


タオルで汗を拭きながら、唐沢が、美穂の場所まで戻って来た。

「何2人で話し込んでたんすか?気になっちゃった。ナリ、変な事を話してないだろーな?」


「変な事って何だよ。」

笑いながら楽しそうに話をしている唐沢を見るのが、また幸せだった。


「かずは、学校から帰って来てから練習出来るし、春休みとか毎日来れるし、学生っていいよな!俺も学生なりてー。」


ナリは、そう言って唐沢を羨ましがった。

ナリは高校卒業後、金属加工の会社に就職して、残業もあり日曜しか休みがないので、練習にあまり来れないと話した。


そのあとも、1時間ほど、ナリと唐沢はスケートボードをした。その間に他の何人かの顔見知りの人と話をしたりして、美穂を紹介していた。


ナリと3人で駐車場まで行くと、ナリはフォードのSUV車に荷物を入れた。

ナリは学生が羨ましいと話していたが、学生では乗れない車に乗っているから、それはそれで唐沢から見たら羨ましいんだろうなと、唐沢の軽自動車を見てそう思った。


汗だくの2人は、駐車場で着替え始めた。

スケートボードをしている時から気になっていた事があった。


「なんか2人ともファッションが似すぎてない?」

そう美穂が聞くと、すぐにナリが答えた。


「あー、俺たちよく一緒に買い物行くんすよ。結局、俺のセンスで決まっちゃうんで、かずも俺と同じような服装になっちゃうんすよ。たまに、俺の古着をかずにあげてるし、大体似ちゃうんすよね。因みに今、カズが着てるのも俺のお古っすよ。」

唐沢は、何回も頷きながら着替え終わった。

それにしても2人の仲が良すぎるように感じた。


「今日は、焼肉食いに行こうぜ。」

ナリのその言葉に、決定されて、焼肉屋に行く事になった。


ナリは、自宅に車を置き、唐沢の車に3人で乗り込み焼肉屋に向かった。

お店に向かいながらの車内、唐沢とナリが一緒に歌を歌いながらノリノリで走った。

今日は私を紹介するよりも、唐沢とナリの仲の良さを見せつけられているような気がすると美穂は思わずには居られなかった。


焼肉屋では、4人掛けのテーブルに唐沢と美穂が横に並んで座りナリが向かい側に座った。

ナリはビールを飲み、唐沢はコーラ、美穂はジントニックを飲んだ。

ナリは、お酒には強いらしく、酔って居ても気を使って、お肉の焼き加減をみて、唐沢や美穂にお肉を配分してくれた。


「この肉、美穂さんにあげて。」

唐沢は当たり前のようにナリに頼んでいた。

「りょーかいっす。」


ナリも当たり前のように頼まれている。

「2人でよく、焼肉屋に来るの?」

美穂は聞かずには居られなかった。

「まー、2ヶ月に1回くらいっすよ。」

「なんか、仲が良いよね。二人とも。」


唐沢も、当たり前な事ですよと言うように頷きながら食べて飲んでしている。唐沢は自分では肉を取ることはほとんどなく、ナリが焼き肉を焼いてくれた。

唐沢が美穂の皿に食べ物を取り分ける事はなかった。


顔つきが変わり口数が少なくなった美穂を見てナリは美穂が不機嫌なんだろうと気が付く。

「かず!もっと美穂さんに気を使ってやれよ。」

唐沢が驚いた様に反応する。

「美穂さん。俺何か悪い事言いましたか?」

「自分の彼女の気持ちくらい分かれよ。」

「えっ、意味わかんないっす。」

2人のやり取りを聞いて、厄介な話になったと美穂は2人を制した。

ナリは、感も鋭いようだ。


「そんなんじゃないけど、なんか2人とも仲が良すぎて、私の入り込む隙が無いなって思ってさ。」

その言葉にナリが仲の良い理由を答えた。


「すいません。美穂さん。気が付かなかったみたいで。でも、マジ、かずとまー、親友ってやつですよ。かずが浪人してる時も、ずっと遊んでたんで、息が合いすぎて、マジすいません。」


「そう、真剣に返されると、逆に恥ずかしいから、大丈夫だって。」

美穂は苦笑いしながら、2人に濁した。


唐沢は気を使って、美穂の言葉に少し笑い、テーブルの下で美穂の手を握って来た。

美穂は素直に握られて居たが、握り返す気分になれずに唐沢の手を握り返さなかった。


ナリを自宅に降ろして、唐沢が美穂を中野まで車で送ってくれる事になっていた。

唐沢の軽自動車は首都高に乗った。

時間は22時半になっていたので、渋滞は無くそれなりに進んでいた。

東京の夜景と共に走っていた車内BGMの音を下げて唐沢は美穂に話した。


「美穂さん、なんか今日すいません。」

「何が?」

「・・・。いや、楽しくなかったすよね。」

「何が?」

唐沢は黙り込んでしまった。


しばらく経ってから、美穂が話し出した。

「私こそごめん。何か不機嫌になって。でも、ナリくんに頼り過ぎてない?ナリくんに合わせ過ぎてる気もするし、焼き肉だって、私にと取ってくれるの、ナリくんに頼まなくても唐沢でもいいじゃん。なんかそういうところ、どうでもいい事なんだけど、イライラしちゃって。ごめん。」


「いや、嫌な思いさせてすいません。」


唐沢はそう返してくれたが、それ以上話す事がお互い見つからず、無言で中野にある美穂のマンションに着いた。


美穂は停まった車内で、降りる前に一言御礼だけ言った。

「ありがとう、唐沢。気をつけて帰って。」


「美穂さん・・・、おやすみ。あの・・・、マジで好きっすから、美穂さんの事。」

それを聞いて、美穂は助手席から降りた。


マンションに向かって歩きながら、モヤモヤしている気持ちと、最後に唐沢が「マジで好きっすから」と言ってくれて嬉しかった気持ちが混ざっていた。


美穂は以前から唐沢に感じていた事があった。

話をしていても、同じ事を何度も聞いて来る時や、なんでか説明を理解してもらえない事がありイラつく事があった。

性格も優柔不断でなかなか物を選べ無いなど、態度がはっきりしない時がよくあるのだ。


年下だし、まだまだ美穂から見たら、可愛い存在なので、そのうちしっかりした性格になっていくだろうと美穂は唐沢にやんわりアドバイスをしながら美穂のやりたい方向に進めるという、年上女房気分で接していた。


この前も一緒に買い物に行った時に、口紅の色はどれが良いのか唐沢に聞いた事があった。でも、どれも良いとか、口紅に①~⑬番まで番号が振ってあったのをみて、真ん中の⑥か⑦くらいの色がいいのかもと言ったり、真剣に選んでくれているのか聞きたくなった事もあったが、男の子に好みを聞く事自体が難しいのかもと諦めていた。


優柔不断な性格なだけに、今までナリに頼り過ぎて来たのかもと美穂は唐沢の性格を分析した。


そうであっても、今日は本当に私の只の焼き餅なだけだと、大人げない自分自身を反省した。


そして、焼き餅焼くほどやっぱりやっぱり唐沢が好きなんだと改めて思った。

そう思えば思うほど、心はもやもやするのに唐沢が愛しくて、さっき離れたばかりなのに逢いたくてしょうがなくなった。


胸が張り裂けそうなほど唐沢に対して好きという気持ちがあった。

美穂は自宅の自室で唐沢にLINEでメッセージを送信した。

「今日はごめんね。不機嫌になって。でも、唐沢が大好きです。」

そう、メッセージを送った一時間後に、唐沢から返事が来た。


「今家着きました。俺も大好きです」

メッセージの後、ハートマークが沢山入ったスタンプがつけ加えてあった。

それを見て笑顔にならずにはいられなかった。


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