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見えない壁、その向こうには。  作者: 山口 佳
12/19

12章

いよいよ陸の心の壁の正体がわかります。



3学期が始まり、またいつもの5人で一緒に居るが、麗奈と陸がよそよそしく接しているのがわかった。


お互い、何となく避けて過ごしている。

2人だけでは話さない。席は隣に極力座らない。


河合がそれを見て言う。

「なんかあったの?2人とも。」

そう言われて、麗奈は肩をすくめた。 


しかし、陸が口を開く。

「何が?もともと、何も始まって無かったけど。」


陸にそう言われて麗奈はあっさり切られた気がしてとてもがっかりした。


河合は、それを聞いて冴えない顔をして陸と私に言った。

「無かったようには見えませんけどね。」


陸とのことを、河合と熊澤に話た方がいいと思い3学期開始早々、麗奈の家に女子3人集合する。


麗奈は、12月23日から元旦に起きた事を話した。


「麗奈は悪くないでしょう。翔太も、ムカつくし、陸は陸で麗奈を弄んでるし。お母さんの事は可哀想だけどね。でもこれとそれは別だから。」

怒ったように河合が言う。


「いや、でも私は一度も陸に好きとも言われてないし、むしろ振られているし。」


「でも、明かに態度が変わったんだから、麗奈の事は好きだったという事だよ。好きじゃなかったらキスマーク見ても態度を変えないはずでしょ?」


「過去形になってるけど。」

麗奈はすぐに過去形と言うことに突っ込みを入れる。


しかし、熊澤が否定する。

「いや、今も好きだと思うけど。」


「いや、完全に嫌われたよ~。熊ちゃん~。」

そう言い、熊澤と抱き合う。


「あー、熊ちゃん。寂しいよ~。」

「よしよし。」

麗奈は、陸の事を忘れた訳では無いが、また好きにならないようにと努めた。


実技授業の時には、唐沢にパートナーを代わってもらい、陸とパートナーにならないようにしてもらった。

話も極力しないようにした。


そんなこんなで、理学療法の勉強と、病院の見学実習、バイトに集中し、予定が無いときには、なるべく熊澤か河合と遊ぶ事にして気を紛らわしていた。


時間は過ぎていき、陸と初めて出会ってから1年が過ぎて冬も終わりになっていた。


春休みを過ごし新しく2年生がスタートした。


桜咲く春。

麗奈は、春休みを挟み陸に合わない時間があったので、少しは心の整理ができていた。

時間が経つと言うのは人の心も変えてくれるのかもしれない。

学校で陸に会っても少しは落ち着いて接していられるようになってきた。


普通にあいさつ。

たわいのない会話。

陸の事を気にせずに、座る席。

たまに隣になっても、心を落ち着けて過ごそう。

なるべく、陸を気にしないようにしよう。

普通の友達。

普通の男の子。


自分と陸の事を気にせずにと思ったら、周りの事もみえてくる。

最近、河合と唐沢が隣に座る事が多い。

しかも、この2人仲がいい!


「ねえねえ、美穂さんと唐沢って、もしかして!」

麗奈が、2人の関係に探りを入れると、あっさり唐沢の口から答えた。

「俺達付き合う事になったんで、よろしく。」


「えー、びっくり。て言うか、おめでとう。」


凄く驚いたけど、春休みも唐沢入れて遊んでいる時、確かに2人は良い感じだった。

それをき聞いて、熊澤も私も陸も祝福した。

そして、久しぶりに気持ちが幸せになった。

陸も嬉しそうだった。


唐沢は、歳上ではっきり物を言ってくれる人がタイプで、以前から河合のはっきりした性格が好きだった。

河合は、優しい態度で接してくれる唐沢に告白されて、意識し始めたら好きになっていたと。


麗奈は、幸せそうな2人をみて、羨ましいと思った。

私も、素敵な恋愛したいな。

陸の横顔を見たら、陸もこっちを振り返り、見つめ合って、お互い笑顔になった。

良かった。また、陸とこう笑い合えて。


久々にそう思ったが、新学期が始まったら、陸が以前のように麗奈に親しく接してくるのだ。

いや、むしろ積極的?

席も隣に座るし、LINEも来るようになったし、妙に優しい。明るいし、嬉しそうだし。


「ねぇ、陸。何か良い事でもあったの?」

麗奈は、そんな別人になったような陸に話しかけた。


「良い事、あったよ。」

そう言うと、以前のような眩しい笑顔を麗奈に向けた。


ああ、私、初めて陸に会った時からこの笑顔に一目惚れしていたんだ。

思い出したよ、陸の笑顔。

忘れてなかった、陸を好きな気持ち。

自分の胸が、ぞわぞわして、どきどきするのがわかった。

また、恋心を抱いた乙女な気持ちが顔を出してきた。

ダメだな、このままだとまた陸を好きな気持ちが隠せなくなる。


ストップストップ、私の心。


少し笑ってごまかしながら陸に言う。

「よかったね。良いことがあって。お母さんの事があってから、心配してたから、よかった。」


「心配してくれてありがとう。あっ、やばい、急いでるから後でメールする!」

そう言って陸は走って学校から、帰っていった。


陸の気持ちがわからない・・・。

やっぱり、私の気持ちは陸に弄ばれているんだろうな・・・。

このまま4年まで、弄ばれるのかなぁ。

ずっと陸から気持ちが切り替えられなくて、まともな恋愛ができなかったらどうしよう。

なるべく、就職は、会わなさそうな場所を選ぼうとか、色々妄想しながらバイトに向かった。


その日、バイトが終わって、22時頃家に着くと、陸からLINEでメッセージが来ていた。


「麗奈、今度の15日学校休みの日は何か予定がある?無いなら一緒に出掛けないか?」


麗奈は、それを見て、少し驚いた。

15日は、一日学校が休校なのだが、陸から出掛けようと言われるとは思ってなかった。


「他に誰か居るの?どこに行くの?」


そう麗奈が返事をすると、

「2人で出掛けたい。15日9時半に蒲田駅で待ってるから。」

「わかった。」

返事をしたけれども、この急展開に、少し気持ちが焦りはじめた。


なんだろう、今まで、陸の事を意識しないように頑張ってきたから、一体何があるのか、変に不安になってきた。


15日、晴天だった。


4月になり、気温も上昇し、予報の最高気温は24度であった。


薄い長袖に、上着を羽織った。

くるぶし丈のパンツにピンクと白のパンプス。

春ファッションで可愛くまとめた。


9時20分には蒲田駅の改札前に着くようにと歩いて向かうと、すでに陸が来ていた。

「おはよう。麗奈。」

「おはよう。陸。」

先に陸が待って居てくれた事に安心した。


ハチ公前で、待ちぼうけをされたから、何となく待ち合わせにいいイメージが無かったが、すでにそこの不安も無くなり、麗奈は嬉しい気持ちになってきた。


「今日は、どこにいくの?」

「天気も晴れたしお台場に海を見に行こうかと思って。」


「海!すごいうれしい!」

「だろ!山梨県民海無し県だから、海を見ると異常にテンションがあがるんだっけ?」


「覚えててくれたの?っていうか、あの時ばかにしてたじゃん山梨!」

出だしからテンションが上がって来て、2人ともすごい笑顔で改札を通って電車に乗った。


蒲田から大井町でりんかい線に乗り換えた。


電車の中は平日だからか比較的空いていて、りんかい線の椅子に2人で座った。

すると、陸が自然と手を繋いできたのだ。


麗奈は驚いたが、態度には出さずに、されるがまま繋いでいた。

陸のすらっとした大きな左手。

久ぶりでドキドキが止まらない。

でも、陸の本心もわからないので、うれしい気持ちは態度に出さないようにしているが、何となく常にふわついた気持ちになってしまった。


しばらく話をしながら、東京テレポート駅で降りた。

「初お台場!」

「近いのに来た事なかったのか?」

「無かったよぉ。」


駅から出て、歩き始めた。まだ手は繋いだまま。

「陸!あそこのお店に入っていいかな?」

「いいよ。行こう。」


お台場に来ただけでさらにテンションがあがったが、さらに色々なお店がある事を知り、楽しくてたまらなかった。

麗奈は嬉しくて陸の手を引くぐらい大はしゃぎ!


「陸。駄菓子駄菓子。」

駄菓子を買い込む。それを見て陸は、笑ってる。


「俺、これ好きだよ。」

「ヨーグルトもどき?」

「じゃー、買ってあげるね。まずいから私は要らないけど。」


「いや、うまい。」

「いや、要らないよ~。」


楽しみながら買い物をして、フードコートでジュースを飲んだ。


一息つき、周りを見渡すと、フードコートの隣にペットショップがあった。

「ペットショップもあるんだ!見に行こう。」


他にも何人かがペットが入れられているショーケースを覗いている。

猫のショーケースをみて、麗奈は思わず声に出した。

「かわいい。かわいいなぁ。飼いたい~。」


猫の札を見てみる。

ベンガルと書いてある札を見ると905000円と書いてある。


「陸見て!905000円だって!メチャ高い!」

その隣のショーケースの札を見るとアメリカンカール470000円となっていた。


「猫って高いんだね。」

麗奈はやや、値札を見てテンションが下がっていたが、陸は、気にせずに話す。


「三毛猫のオスって高いって知ってた?三毛猫ってほとんどメスでオスはめったに居ないんだって。」


「三毛猫、おばーちゃんちで飼ってたけど、あれメスだったかな。」

「オスは二千万円するらしいからね。」


「二千万!なにそれ!」

「俺って三毛猫のオスなんだよね。」

「なに、高級な男なの?別格ってこと?」


「そうかも!」

「なにそれ(笑)!」


楽しくて2人でずっと話しながら、昼ごはんも食べて、15時頃、陸に手を引かれて、浜辺に降りた。


水上バスの乗り口があって、乗り場で待っている人が居たり散歩している人も何人もいた。

「海だー。綺麗。」

2人は立ち止まり、海を眺める。


そして、海の向こうにある東京の街並みを眺める。

光に照らされた高層ビルがキラキラ光っていた。


南風も優しく吹いて、髪の毛がなびいて気持ちがよかった。


「海水浴場の海しか知らなかったけど、都会の海も綺麗。すごい街並み。」

「そーだな。東京ならではの海だよな。」


2人は砂浜にあったコンクリートの段に横に並んで座った。

また、手を握り直した。何度も手を離すことはあったのに、陸は、その度に手を繋ぎ直してきた。


「私、いつも思うんだ。沢山ある高層マンションに何人住んでいて、どんな人生を送っているんだろうって。どんな人が住んでいているんだろうって。想像してもわからないんだけどね。ものすごい沢山の人の人生が詰まっているんだろうなって。山梨じゃ、考えられない規模だからさ。一つの町が出来そうなくらい大きい。」


「そーだよな。当たり前に過ごしているけれど、それぞれの人の人生があるし、悩みや喜びがあるんだろうな。こんなに沢山の人がいるのに、俺は麗奈と出会えてここに居るんだ。すごいよな。」


「そうだね。すごいね。」


2人の間に少しだけ沈黙があった。


「・・・今日はさ、話したいことがあったんだ。ゆっくり話がしたかったからここに来たんだ。」

そう言い、陸は、話始めた。


「俺、ずっと悩みがあってさ。でも、春休みにその答えが解った。この前麗奈に何か良い事があったのかと聞かれただろ?良いことかはわからないけど俺自身の中では気持ちが落ち着いた事があったんだ。」


「うん。」


「もし、今から話す事で麗奈が俺を好きで無くなったとしても、それが俺だからしょうがないと思っている。」


何の事だろうと麗奈は、陸の横顔を見ていた。

まつげが長く、整った唇。

何度もあきらめようと思ったけど、諦めれないこの気持ちを高ぶらせる、愛しい横顔。


陸は、麗奈が自分を見ていることはわかっていただろうが、麗奈の方を見る事は無く遠い海を見つめたまま話続けた。


「俺、クラインフェルター症候群なんだ。」


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