第七話 喫茶店ただいま営業中です
5月末のある日、喫茶メイカーにて
「いらっしゃいませ、2名様ですか?ではこちらの席へ」
「すみませーん、」
「はい、ただいま向かいます」
「マスター、出来ましたよ」
「ありがとう。お待たせしました、チーズケーキになります」
「あ、いらっしゃいませ...」
喫茶メイカー、今日も店内は賑わっていた。バリスタ兼ホール担当で、この喫茶店のマスターである2代目店長の木崎 零は、2つの担当を気を抜くことなくこなし、それでいて息つく暇も無いくらいに忙しくしていた。
一方、キッチンでは
「マスター、大丈夫でしょうか?」
「休日はいつもあんな感じだよ。まあ負担が大きい事に変わりはないけどね。あたしらも余裕があったら手伝いたいけどさ...」
「正直きに言ってしまいますと、それは無理そうですね」
と、キッチンでは、料理担当の松下 彩とデザート担当の波並 千尋は、それぞれオムライス2人前とパンケーキ3人前を作っていた。つまり彼女たちは、忙しいにも関わらず、マスターの事を気に掛けていたのだ。
お昼過ぎ
「みなさん、とりあえずお疲れ様です。この時間は、人の足数も減りますから」
「いやそれ、あたしらのセリフだって!」
「そうですよ、マスターずっと動いていたじゃないですか。ちょっとでも休んでください!」
「自分は平気です。こう見えて体力はある方だと思うんですけどね」
キッチンの2人から心配をされた零は、不思議そうに呟いていた。
「あれ、そうなんだ。零君ってインドア系だと思ってた。何か休日とか、朝から本とか読んでいる感じで」
「え? そうなんだ...」
「そうですか? 私から見たら、マスターはアウトドア系ですよ?2年前とかは、今と違っていつも家にいませんでしたし」
「ん? 全く逆の意見が...」
「ああ、何かさ、並木道とか散歩してそう。植物を眺めていたりとかさ、」
「??」
「それか、河川敷の原っぱで、体育座りをして川を見つめているのも想像できます!」
「....」
「あはは、」
「ふふふ、」
要約すると、零は2人からは“休日に朝から散歩をしてのんびり過ごす老人”のイメージということになると、零は静かにショックを受けていた。
もちろん、当の2人はそのことに気づくはずもない。
それからしばらく雑談をしていると、お客さんに呼ばれ、零は注文をとりに言った。残ったキッチンの2人は、注文が来るまでは暇であった。だからといって、ホールをする必要も今の時点では無かった。
「ねえちーちゃん、」
「なんですか?」
「零君って、昔からあんな感じだったの?」
「あんな、ですか?」
彩の問いかけに、千尋は聞き返す。
「まあなんと言うかさ、真面目で大人びていて、初対面の人でも普通に話しかけれて、みたいな」
「そうですね、私が知る限り、見た目とかは昔からあんな感じでしたよ。でも、」
「ん、 でも?」
「どちらかと言うと、無口な人でしたね。全く自分の事を話してくれなかったんです」
千尋の答えに、彩は目を丸くする。
「へえ、意外だなあ」
と、マスター雑談をしていたら、注文を受け取った零がキッチンに近寄る。
「オーダーです。松下さん、ピザとフレンチのトーストを1つずつ。千尋、アップルパイ2つとティラミス1つをお願いします」
「「了解!」です!」
オーダーを受け取った2人はそれぞれの作業に向かった。
休日の今日も、喫茶メイカーは賑やかであった。