第三話 マスターとカフェオレ
日を空けてしまった。
まだまだ続けます。
ある日の月曜、定休日の喫茶店にて。
月曜とは、学生や社会人が休日明けの平日に憂鬱をぬかす日だが、この喫茶店は月曜が定休日。憂鬱をぬかす必要が無いのだ。
他のみんなはいないけど、店長である自分はいつでも入ることができるため、店内の掃除や仕込みを営業日なら開店をしている夕方5時から行っている。今頃松下さんは大学に、千尋は中高一貫の学校にいるだろう。学校があるにもかかわらず、店の仕事をしてくれているんだ。自分はみんなの一歩先を行かなくては。
「まあ、自分も人の事は言えないか」
誰もいない店内でそんな独り言を吐く。誰もいないせいで独り言が響く。誰もいないお陰で、二階へとつながる階段から降りる足音が...ん?
ガチャ
そして裏の扉が開いた。誰か店員メンバーが来たのだろうか。
「ホント、手を抜くことなく頑張りますね。木崎さん」
そんな考えは、声を聞いた瞬間打ち砕かれた。
「おかえり。珍しいね、お店に来るなんて」
開かれた扉の前にいたのは、高校の制服姿のままでいて、二階に住んでいる女子高校生、この喫茶店のホームページ制作担当の樫木奈都さんだった。
「いくら店長だからって、そこまで頑張る必要ないですよ」
カウンターに腰掛け、自分に向かって愚痴っていた。
「だって、せっかく時間があるんだからやっとこうかなって」
「真面目で羨ましいです」
「ははは、どうも。樫木さん、何かいる? あいにく飲み物しか出せないけど」
「じゃあ、苦くないもので」
「ええー、意外と甘党か?」
「いえ、コーヒー苦手で」
「それは意外だな。じゃあカフェオレにしようか」
「お願いします」
「お待たせしました。カフェオレになります」
「ありがとうございます」
「ちなみにカフェオレとは、エスプレッソとミルクを1:1の割合で入れて、ガムシロップを加えたコーヒーだよ」
「はあ、」
「興味無さそうだね」
「全く無いです」
「そうだよね。普通、無いよね...」ガクッ
そう言いながら樫木さんはカフェオレを口にした。味を確かめるような表情で。
「うん、大丈夫です。苦くないですよ」ニコッ
「!! そ、それは良かったよ」
慌てて自分は顔ごと目をそらした。普段はクールかつ無気力な表情でいるから、思いもよらない所で出る笑顔は眩しいものだ。いわゆるギャップなのだろう。
「ところで木崎さん、」
「うん?」
「今日出た学校の課題、教えてもらえませんか?」
「え、何で」
「木崎さん勉強得意じゃないですか。私と違って」
「いや、そんなことないと思うけど。まあ、今日のはもう終わらせたけどね。休み時間に」
「ほらやっぱり、」
「だからって、人に教えられるほど得意って訳じゃ」
「お願いします、じゃないと私、学校に行きません」
「またそれ、」
「いいんですか?」
「わかったよ、そんなの困るし」
「え、」
「どうする?樫木さんの部屋でする?まあ、ここでもいいけど」
「えと、に、荷物は私の部屋にあるので、私の部屋に来てもらっても良いですか?」
「了解」
「この問題はこの方程式の公式を使って解けば、」
「あ、なるほど。そうすれば、」
「うん、終わったね」
「ありがとうございます。はあ、よかった~」
「お疲れ様。じゃあ、自分は戻ろうかな」
役目を終えてやることが無くなった自分は自室に戻ろうとした。
「あ、あの」
そこで樫木さんに呼び止められてしまったが。
「ん、 何?」
「あ、いえ、何も」
「そっか」
それを聞いて、自分は部屋に戻った。
「...こんなこと、頼んじゃ迷惑ですよね」
出る前に何か聞こえたのは気のせいだろう。