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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕、記憶ないんだけど魔法ってなに?

世界を救いたい、彼の零章

作者: 唯一@Yuiitu

番外編として零章を書いてしまいました。本編を読んでなくとも読めるものになっていると思います。よければ是非。

 世界を救う。

 そう願った途端に、世界は歪んだ。


 ぐらつく視界を抑えつつ、辺りを見回せば森の中。アカシックカードを取り出し現在地を確認すると、ここがリベイアの森だと分かった。どうやら無事過去に飛ぶことが出来たようだ。


 なぜなら俺のいた未来にこの森はもう存在しない。アストという少年のせいで……。

 瘴気が蔓延し、多くの土地が荒地へと姿を変えた。人々もこの十年前の世界と比べれば、一割程度しか残っていないだろう。

 変える、変えてみせる。過去を変えれば、きっと滅んだ未来は消えてなくなるはずだ。


 そのために、俺はアストを止めてみせる。

 腰のホルスターに収納してある魔弾銃を撫で、アストが住んでいたとされる村があるであろう場所を睨みつけた。

 その瞬間、脳裏で小さな声が聞こえたような気がした。

 ────……殺せ。


 陽が落ちてきた。木々のせいで分かり辛いが、かすかにオレンジ色の光が差し込んできている。随分と時間は経ったが、ようやく俺は村を見つけた。木造の家屋がかすかに見える。

 ようやく、ようやくだ。


 あとはアストを捕まえ、世界を滅ぼさせないよう拘束しておけば終わり──、というほどこの世界も甘くはない。

 村の方角から二人分の足音がこちらに向かって近付いてきていた。隠れるか奇襲をするか等と考える間もなく、その二人が姿を表す。


「ただの若者にも見えるが、この森の中でここまで辿り着ける辺り普通の者ではないな」


 一人は老人。長い白髭と杖を突いているところを見るにかなりの歳だろう。


「……早くアストのところに行きたい」


 もう一人は少女。長い黒髪と落ち着いた雰囲気が、具体的な年齢を分からなくしている。


 ────……殺せ。

 まあなんでもいい。所詮は老骨と小娘だ。殺すのに手間は掛かるまい。


 あ? 俺は今何を……。いや、いい。とにかくこの二人をどうにかしよう。

 俺から五メートルほど離れた距離で立ち止まった二人。老人の方が俺に向かって語り掛けてくる。


「それで、何の用じゃ? わざわざこんな秘境の村に来るほどのことがあるとは思えんのじゃがな」


「……お前にも、村にも用はない。用があるのはただ一人、アストとかいう少年だけだ」


 俺の言葉に、少女の方がぴくりと反応を示した。


「アスト……?」


「知り合いか。ということはやはりそこの村がアストの住処で間違いないようだな」


「アストに何の用?」


「言ってもどうせ分からん」


「理由が分からん限り通すことはできんな」


 老人のその言葉を受け、強行突破するしかないかと意思を固める。そして魔弾銃に手を掛けると同時、二人はカードを出現させ警戒態勢を取った。


「……後悔するなよ」


 魔弾銃を老人の方に向け、放つ。銃口から生まれた炎が老人の元へと直進し────、そして。


「バリアスペル【弾け】」


 呆気なく掻き消された。


 更に視界の端に何かが映り咄嗟に身を屈めると、頭上を少女の蹴りが通過していた。

 危ない。一歩遅れていれば蹴り抜かれていた。


「……ほう? 詠唱もカードもなしで炎を放つか。どんな技か気になるの」


「言ってろ。その間に焼いてやる」


 少女から距離を取り、もう一度老人に向かって炎を放つ。今度は三連射だ。


「バリアスペル【弾け】」


 先程と変わらず一言で掻き消される、が。

 その三連射はただの囮だ。


「これならどうだ」


 言ったときには既に老人の頭上にいた。

 俺の履いている鉄靴。これの踵部分から炎を放ち急加速することによって、炎の弾で視界が眩んだ老人の元へと高速移動していたのだ。


 俺はそのまま真下、老人の頭に向かって蹴りを放つ。

 しかし突如飛来した一本の剣によって軌道がズレ、蹴りが外れてしまった。


「おお、助かったぞエリア。危ない危ない」


「気を抜かないで」


 再び並び立ちながらこちらを警戒する二人を前に、俺は言いようのない苛立ちを感じていた。

 こんなところで手間取っている場合ではない。早く、早くしなければ。

 ────……殺せ!

 殺意が肥大していく。それを自覚するよりも早く、俺は炎を放っていた。


「俺は世界を救う……! 邪魔をするなッ!」


 特大の炎。人の一人や二人、丸飲みにできるぐらいの。


「これはちぃとばかり骨が折れるの……、じゃが。バリアスペル【ワシらを守れ】」


 炎が二人を飲み込み、そのまま辺り一帯を焼き焦がす。あまりの熱量に草木は溶け、地面は剥き出しになっていた。同じように二人も溶けたものだと思っていたが、


「危ない危ない。これは相性によっては一瞬で終わるな」


「村長、ありがとう」


 二人は生きていた。どころか、二人がいる周りの地面は草木すら無事。まるで二人の周りには円形の障壁が張られていたかのように。

 なるほど、あの老人の魔法は障壁を張る類のものか……。

 ────殺せ!

 だが関係ない。あの障壁をぶち破って殺せばいいだけの話だ。

 もう一度だけ炎を放ち、俺は鉄靴の力で加速する。


「バリアスペル【弾け】」


 老人が炎を防いだその障壁に、飛び蹴りの要領で飛び込んだ。直後、障壁がビキリと音を立てて砕ける。代わりに俺は勢いを殺されその場に着地した。老人は再度の詠唱のためか口を開こうとするが。


「おせぇよ」


 着地と同時に炎を撃つ。ほとんど零距離での一撃を、少女が老人を抱えて飛び退き回避した。

 ────殺せ!

 分かってるッ!

 加速して二人に追い付き、老人と少女をまとめて蹴り落とす。


「逃げろ、エリア。……アストを守れ」


 地に伏した二人。老人の方を選んで俺は、鉄靴で頭を踏み潰した。固い感触と妙に柔らかい感触を感じると共に、赤い液体が飛び散る。


「村長……?」


 少女の戸惑いの声がやけに心地いい。

 あれ? 俺はこんなことをしたかったんだっけか?

 ────殺せ、殺せ、殺せ!

 ああそうだ。俺の目的はアストを殺すことだったな。

 とりあえず、この小娘を殺して、村ごとアストを焼き殺そう。


 俺は、世界を救わなければならないのだから。


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