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さぁ、勇者を召喚してみよう

 どうしてこうなった。



「さいてーの魔王と!」

「火炎剣のタッキーの!」



「「使い魔召喚どーがぁーーー! いえーーぃ!」」


 俺とハイタッチをした後、カメラの前でポーズを決めている少女。ようこ。


 格好は巫女さん服に花柄のエプロン。

 銀の長髪はいつものウィッグだろう。

 かわいらしいにもほどがある。

 そして複数の尻尾の狐コスプレだ。

 数えてないが彼女の名前は七日野だからきっと7本の尾があるのだろう。

 いちおう顔バレを防ぐために狐のお面を被ってはいる。

 だが声とか体格とかで女の子であることはもろバレになってるんだが良いのだろうか。


「で、ようこ。今日はどういう…」


「あー。動画は公開するんだから、僕の名前言っちゃだめでしょ。

ここではさいてーの魔王なんだよ、さいてーの魔王! ぷんすかなのです!」


 ダメな項目もちゃんとあった。


「前から思ってたんだが、そのネーミングはどうよ?」


「(完全に無視して)はい、動画いったんOFF&さいかーぃ。


 さいてーの魔王と!」


「火炎剣のタッキーの!」


「「使い魔召喚どーがぁーーー! いえーーぃ!」」


 俺とハイタッチをした後、カメラの前で再度ポーズを決めている少女。ようこ。


 こんなやりとりが既に2、3回続いている。

 律儀にようこに合わせるのは、それがお約束だからだ。

 うむ。お約束は大事だ。


 場所は俺の部屋。


 ゴミ屋敷のような部屋はようこによって片付けられ、床面積を広げるためベットは横倒しにされた。

 彼女のエプロンは部屋片付けのための標準装備だそうだ。

 久しぶりに見た床の空間には面積いっぱいの魔方陣。

 なんだか赤い色の鉄くさい臭いのする発光塗料でものすごい細かい図形が描かれている。

 これ、まさか血じゃないよな?

 見る人が見ればどのような内容なのか分かるかもしれないが、そんな知識のない俺は『見た感じすげー』としか分からない。

 そんな中で横に積みあがっているゴミや縛られた古本が凄くシュールである。


 そう、火炎剣のタッキーこと俺、滝川健と、さいてー魔王こと七日野ようこは、2人で小説のネタ用の動画製作をしているのだった。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「そしてタッキーにお知らせがあります」


「なんだね。我が使い魔よ。聞いてやろうではないかー。」


 結構俺ものりのりである。ちなみに台本などはない。ぜんぶアドリブだ。

 ネタは鮮度が命なのだよ。


「今回の魔方陣による使い魔召喚のために魔力溜めまくってたら、七尾だったしっぽがいっきに九尾になりましたぁ! ひゃっほー」


 そんなことを言いながら尻尾を――つまりお尻を俺に押し付けてくるようこ。

 か、かわいぃ。


「じゃぁそんな我が使い魔にこの狐耳のカチューシャをあげよう」


「わーぃ。ありがとー。タッキーからのはじめてのプレゼントだー。これでもし耳バレしてもだまくらかせるのです。大切にするよぉ」


 なんだか気にいってくれたようだ。カチューシャを装備したようこはさらにかわいくなった。


 ――あれ? そういえば、カチューシャつける前にも耳なかったっけ?



「さーて、そろそろ本題始めない?」


「くくく……。僕達の始めての処女作品。存分に見るがいぃ……。あ……。なんか響きがいいよね。たっきー処女作品って」


「はいはい。いいからいいから。そろそろ・動画の・本番・いって・みようか」


 ようことの会話は楽しいので放置しておくと時間がどんどん過ぎていってしまう。

 だが動画には時間制限があるのだ。

 大抵の動画は10分以内で作るもの。

 それが良くは分からないが世界の常識だ。

 インターネットのフリーな箇所に動画をアップロードするときに10分を超えるといろいろ支障が出るからだ。


「ぎゃー。タッキーなんかこわーぃ。ということで今回のネタはですねー。じゃじゃーん。この魔法陣を使ってタッキーの真の使い魔を呼び出すのでーす」


 いや、わざわざ指ささなくてもこんだけでかければ嫌でも分かるから。


「……? かわいい使い魔なら既にここにいるよね?」


「いやーん。タッキーありがとー」


 といって身体を寄せてくるようこ。くねくねさせながら。いや顔近いから。

 だがでかい魔法陣のせいで逃げ場はない。


「だってほら、異世界から勇者を召喚して打倒魔王を目指す。とりあえず日本の定番の魔王と勇者ものの定番だから。僕の――、おっと我が小説にもそろそろ勇者とか欲しいしさー」


「いや、魔王が呼んじゃいかんだろ魔王が」


「そこでタッキー。君だ。邪悪な魔法使いが容姿端麗であ○な美少女勇者を呼び出してあれやこれする。王道だね。これで精神崩壊させればNTRの心配もなくて僕も安心・安全じゃね?」


「あ、あの……。ようこさん? あれやこれやって、何させる気なんですかね」


 俺はとりあえず聞いてみたがようこは無視して続けた。


「それじゃぁいってみよう。呪文詠唱はこちらでするから、タッキーは手を前に突き出して」


 なんだがついていけないが、とりあず逆らったらマズイ気がするので手を魔法陣の前にかざしてみる。

 動画も回っているしね。

 抵抗したらまたやり直しとかいうに違いない。


「そして目を瞑って。そろそろ相手も痺れを切らしているころだから――。金髪碧眼きょにゅぅででこーぃ」


 その言葉に俺はなんとなく、この後の展開が読めてきた。


「あ――、きっとどこかにようこの知り合いの娘(自称勇者)がいて、目をつぶった瞬間にこの場所に連れてくるとか? でもカメラ回ってたら後でばれるんじゃね?」


「そこは動画編集の力でぇー」


「みもふたもないわ!」


「目は閉じたね。それじゃーえーしょーいくよー」


 かざした手に暖かい肌触りが伝わる。

 これはようこの手だ。


 そしてようこは囁くように呪文詠唱を始める。

 あたりが眩しくなっているのを目を閉じていても感じた。


「The School of the Unlimited of the Sky Walk...」


 英語っぽい響きの詠唱だが、英語なので途中から分からなくなる。

 単語なら分かるんだが。

 ところでようこさん。巫女服姿なだからそこは日本語にしようよ。

 そして目を閉じていても分かるほどの閃光が発せられ、俺は思わずよろめいた。


 そこにいたのは――


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